13、スキル奪取
エミィタちゃんとの悲劇の別れから3週間ぐらい経った。
時間というのは心の隙間を埋めてくれる物だ。
お陰で立ち直った。
ジータへの恨みは半端ないが。
今は、クユユが通う獣使役士幼年学校の授業中。
俺は眼前に捉えた3つの的に目標を定める。
「ピヨちゃん! 目の前に3つ、標的! ファイアです!」
『ピヨ!』
ボウ、ボウ、ボウ!
クユユに指示され、学校の芝生に建てられた3つの「へのへのもへじ」みたいな標的を火の玉でぶち抜いていく。
使役獣として、クユユと共に過ごすのも大分に慣れた。
がんばった分だけご褒美が貰える。
クユユと一緒に居ると、ヒヨコとしては身に余る生活をさせて貰える。ヒヨコとして転生してしまっただけに、人間の生活に身を置く術は他に無し。
今はクユユに使役されながら、俺は生きていた。
けたたましい音と伴い、へのへのもへじが燃え上がるのをクユユが確認すると、俺を手の平に乗せて褒めてくる。
「あはは! ピヨちゃんすごい命中率ですね! 100発100中って感じです!」
俺は元人間としてそれなりに知能があるので、クユユの指示に従うだけ使役獣として抜群の評価を得られた。
他の使役獣だとそうもいかない。
獣使役士の指示の意味を理解できなかったり。
勝手に学校から逃走したりともう大変。
その分、俺は獣使役士の指示の意味を理解出来るということで評価を貰っている。
クユユ自身も、火を吹いたり、ドラゴンブレスを放ち、ドラゴンをも倒してしまった俺を使役してるとして、教師達から評判は鰻登り。
落ちこぼれと蔑まれてたのは今や過去。
クラスの子ども達からも尊敬の念を抱かれている様子だ。
「ピヨちゃん、今日は何が食べたいですか?」
『ピョヨ (マシュマロ)』
「パンですね、分かりましたよ。学校が終わったら買って帰りましょう」
3週間を経てども、意思疎通は未だ出来ない。
パンじゃない、マシュマロだ。
何でそんなにも分かった気でいるんだ。
○
引き続き、獣使役の授業。
先ほどやっていたのは、獣使役士がどこまで使役獣を操れるかの授業だ。
今回はクユユと俺のタッグと、ゼニアと呼ばれる少年と黄色の毛並みの狼とのタッグで、二人一組で2対2の模擬戦の授業だ。
「ピヨちゃん、私は絶対にゼニア君に負けたくありません。お願いします、頑張ってください!」
『ピヨ!』
クユユの事に関して一つ分かったことがある。
今、対峙してるゼニアという少年を、何故か目の敵にしているという点。
ゼニアは3週間前、俺をひよこと馬鹿にしてジータをけしかけて来た少年だ。
話では、ゼニアは俺に負けたジータを捨てて、新たに黄色い毛並みを持った見たことの無い狼を現在は使役しているようだ。
何故、クユユがゼニアを嫌っているかはまだ分からない。
聞こうにも意思疎通も出来ないし。
でも、今はそんな事どうでもいい。
俺は確かめたいことが一つある。
教師の開戦の合図が広場に響く。
それに習って黄色い狼が俺に突進して来た。
「ガルルルル!」
「ピヨヨッ!」
迫り来る突進をタッチの差で回避。
獣との戦いはもう慣れた。
こんな攻撃なんて避けるのはお手の物。
「ガウ!」
「ピヨ!」
続いて1回、2回、3回。
狼の突進が続いて来る。
それを。
回避。
回避。
回避!
ドラゴンの突進を体験した俺としては、たかが狼の突進など怖くはない。
して俺の力は馬鹿みたいに強いという事が焼き鳥屋の店長との戦いで分かったので、地面を強く蹴るだけで、狼の突進を余裕で回避できる。
連続攻撃で疲れたのか、狼の動きが鈍った。
俺はそんな隙を見逃さない。
地を蹴って狼に駆け寄る。
すると、
「今だ、狼! 放電しろ!」
ゼニアの指示で狼の毛が逆立つ。
バチッバチッ……と、空気を叩く乾いた音と共に、狼の体が放電した。
「ピヨヨヨヨヨ!?」
バチチチチチチチィッ!
スパーク音と共に、俺の全身に電気が走る。
……が、やっぱりまったく痛みは無し。
電流の発光で多少、目が眩んだ程度で落ち着く。
確かめたかったのは、俺の体がどの程度の攻撃に耐えられるか。
電流でも無事だ。
それと、ジータと戦った時に、頭の中に響いた機械音だ。
電流を浴びてしばらくが経つと、聞こえてきた。例の音が。
『スキルを取得しました』
『取得スキル:«放電»』
どこかの誰かが発した声ではない。
中性的な声が俺の頭に直接響く。
スキル取得、コレが何を意味するかは知ってる。
身を持って体験したからな。
敵が撃ってきたスキル? を俺の物出来るらしい。
その『敵が』というのが重要だ。
魔法、及びスキルを扱えるようになるらしいが、クユユの【テイム】【ウォーター】は未だに俺は使えない。
となると、やはり相手を『敵』と認識してるかが重要らしい。
狼が再び突進して来たのを皮切りに、俺は新しく取得したスキル«放電»とやらを使ってみる。
俺の毛が逆立ち、先ほどの狼の様に電気が帯電。
そして、発光と共に俺の体が放電した。
「ピヨオオオオオオオオオオオオオ!」
「ぐぎゃあああああああああああああ!」
バチチチチチイィン!
発した電流が狼を襲う。
プスプスと黒い煙を立てながらフラフラとする狼。
初使用という事で、殺さないように加減した。
だが加減し過ぎたみたいで狼はまだ戦える様だ。
「な、何で同じ技を!? くっ……、狼! お前も放電しろ!」
俺が放電した事で呆気を捉えるゼニス。
少年は慌てながら狼に放電を指示。
指示に従い狼も放電をしようと身構えるも、出ない。
「おい! どうした狼!? しっかりしろよ、このクズ!」
ゼニスが焦操を爆発させる。
それでも狼は放電をしようとしない。
いや……多分だが出来ないんだ。
恐らくというより、確実に俺は『敵』と認識した相手のスキルを『見境なく奪える』ようだ。奪ったということは、狼はもう放電することは出来ない。完全に俺のスキルになった。
奪取方法を敵のスキルを目で見ること……か?
まだハッキリとはわからないが。
フラフラと立つのもやっとな狼に向かって。
弱めの火の玉をお見舞いしてやる。
ボウ。
狼は声を発することもなく、その場に倒れた。
決着だ。
「勝負あり、そこまで!」
教師の静止の声と共に、クユユの歓声が上がった。