12、別れは突然に
人っ子一人として居ない、路地裏に出来た小さな一角。
そこで、大量にヒヨコ達とエミィタちゃん、そして影の協力者ジータと共に俺は居た。
「流石だ、良くぞやった、ピヨちゃんよ」
ドラゴンであるジータが俺の事を褒めたのを皮切りに、大量のたちが一斉に騒ぎ出す。
「大将! 本当に竜を従えてたんですね!」
「すげー! 流石俺達の救世主だぜ!」
「ピヨピヨピヨピヨ!」
悪の権化、焼き鳥屋を壊滅させた事でヒヨコ達のテンションはフルMAX。俺の事を救世主と呼び称えているが、俺はただ、エミィタちゃんが焼き鳥になるを防ぎたかっただけだ。
そうエミィタちゃん!
俺は彼女を助ける事に成功した!
そして俺の事を見て赤らめいたんだ!
りよ……両思い!?
さあ、今後について話しあおうではないか。
「なぁ、エミィタちゃん、君はもう自由だけど、これからどうするんだ?」
「私? 私は故郷に居るパパとママの元に帰るわ。私がちゃんと生きてたって伝えるの」
「そうか……」
故郷へと帰ってしまうのか。
俺も付いて行くってのはアリかな?
いや……迷惑か? 重いか?
でもエミィタちゃんの言う故郷ってきっと大自然の中だろ?
それこそ加工食品を食べる機会が皆無になってしまう。
それにこの町にはクユユが居る。
知り合ってまだ数日くらいだが、クユユを置いて去るってのも気の毒だな。俺をテイム出来たと大喜びしてたし。
そうあれこれ考えていると、エミィタちゃんが俺に訪ねてくる。
「もう一度、教えて? 何で私達を助けてくれたの?」
「ええ? それはエミィタちゃんを助けたいから……」
今度もエミィタちゃんを助けたかったという意志を伝えた。しかし、今度の彼女はそれを聞いて、伏し目がちになってしまう。
「私達みたいな弱い種族はいつだって……人間に殺されてきた。だけど……、私達だけ、助かってもいいのかしら?」
「何? どういう意味?」
「あの時だって、私の前にも、3匹のヒヨコが丸焼きになったわ、私はたまたまタイミング良く助かっただけで……。ピヨちゃんは……今後も、人間に殺される動物達を助けていくの?」
真面目か!
いや、違うな。これはエミィタちゃんなりの気遣いだな。
俺がこの問いにYESと答えれば……。
俺は今後共、人間と戦う宣言になってしまう。
つまり、俺の安否を募らせてくれているんだ。
まいったな、どう答えようか。
NOと答えれば、俺はただの薄情者だし。
YESと答えれば、エミィタちゃんは心配してしまう。
「まあ、待て、小娘よ」
「え?」
俺がヒヨコの小さな頭で難しい事を考えていると、ジータが助け舟を寄越してくれた。
「ピヨちゃんはな、視界を広くするよりも、狭い視野を持って、目の前の小さく大切なモノを助けたんだ」
「狭い……視界? なんなの、ソレ」
「全動物を救うなどと言い張る輩は所詮、自己満足の塊でしかない。いくら竜をも打ち倒すピヨちゃんでもそれは出来ない。故に、全動物ではなく、目の前の小さな数個の命を救うことにしたのだ。その命とは、このヒヨコ達と、何より大切なエミィタ……貴様だったのだ」
「…………!」
助け舟じゃねぇ……、軍艦だコレ。
とんだ砲弾ぶち込んできやがった。
えぇー、何ですか、この過大評価。
ただ、エミィタちゃんを助けたかっただけだってーの。
全動物? 果てしないな、おい。
ジータの言ってる事は意味不明だし。
何やらエミィタちゃんは感化されて絶句してるし。
「なぁ、ジータ。何か壮大な勘違いを……」
「勘違い? そんな事を言うなピヨちゃんよ。何という謙虚なヒヨコだ」
「待て待て待て」
「ククク、何をそう謙遜しておる。人間をヒヨコが倒す、ピヨちゃんは弱肉強食の摂理を覆したのだ。それのどこに謙遜の余地などある? 何よりエミィタを救えたではないか」
よく喋るなこのドラゴンは。
まあ、でも、そうなのか?
ふと、視界の端から視線を感じて振り向くと、エミィタちゃんと目と目が合わさった。
しばらくの沈黙。
これってあれだな。
告白の大チャンスだな。
「あの、エミィタちゃん……」
俺が伏し目がちで告白の言葉を述べようとすると、何を勘違いしやがったのかジータが横槍を入れてきた。
「おお、ピヨちゃんよ。何故、そこまで言葉を詰まらせている。だが俺には分かる、分かるぞ! とても辛いことよの!」
「は?」
意味不明な言葉を吐き連ねるジータは、顔を落としながらエミィタちゃんの方へと頭を向けた。
何だ、何を言い出すつもりだこのトカゲ。
「エミィタよ。ピヨちゃんにはな、とても大切なクユユという獣使役士が居るのだ。彼女は学校でいつもいじめられていた。それを改善させようとピヨちゃんは立ち上がったのだ。故に、この町から離れてエミィタと一緒に過ごす事がまだ出来ぬのだ、ピヨちゃんの気持ちを汲んでやれ」
「え?」
なんだ、また勘違いしてやがるぞ、このトカゲ。
汲んでやれ? お前が汲んでくれ。
止めろ、止めてくれ。
何か状況がすご~く悪くなってる。
「おい! ジ――」
俺がジータの誤解を解くために喋ろうとすると、ジータは俺よりも大きい言葉でソレをかき消した。
「さあ、ヒヨコ達よ! お前達の故郷まで、このジータがピヨちゃんの名の元に送り届けてやろう。エミィタ、お前もだ。さあ、感謝の言葉はピヨちゃんに!」
「ありがとうございます、大将!」
「ありがとうございます、大将!」
「ありがとうございます、大将!」
そう感謝して、ジータの背中に続々と乗って行くヒヨコ達。
その中にはエミィタちゃんの姿も!
やべぇ! やべぇ!
何やってんだあの糞ドラゴン!
「待ってくれ! エミィタちゃん!」
「ありがとう! ピヨちゃん! 私達……またきっと会えるよね?」
「え?」
やっばい!
何か最後のお別れみたいな感じに!
そしてやっぱりジータが勘違いにトドメを刺してきた。
「今生の別れではない。互いが互いを想っているのだ。その気持ちは先ゆく道の導となり、きっと……二人の道は交差する事だろう。その時までの、しばしの別れだ。涙を流すではない、エミィタよ……」
あの糞ドラゴン、何言ってやがんだ!
交差? カッコつけんな! T字路になってんぞ!
お前が道を引き裂いてんだよ!
くっそ! くっそ!
「ま――」
「ではさらばだ! 勇敢なるピヨちゃんよ! お前の勇姿はこの俺が語り継ごう。またいつか会おう、戦友よ!」
バサッ……バサッ……バサ……。
ジータはヒヨコ達とエミィタちゃんを乗せて飛び去っていった。
「少しは喋らせろよおおおおおおおおおおおおおおおお!」
俺の魂の叫びが路地裏にこだました。
こだまでしょうか? いいえ、断末魔です。




