11、下克上~ムーンサルト、店長乱回転~
俺に大量に群がるひよこ達、総勢500匹。
これなら人間の一人や二人、安々と葬れるだろう。
「ピヨちゃん大将! 作戦はどうしますか!」
作戦?
俺に聞かれても困る。
俺は名家生まれの武将でも無い。
それに帰宅部だ、帰宅部なのだ。
人を引っ張った事が未だ無いただのヒヨコなのだ。
あえて作戦を考えるのなら……そうだな。
「野郎ども! 物量作戦だ! 数で押しきれええええ!」
「ピヨオオオ!」
「ピヨオオオ!」
「ピヨオオオ!」
「ピヨオオオ!」
そう、500匹もヒヨコが居るなら人海戦術だ。
人海ならぬ……鶏海戦術!
奇襲を掛けて、有無も言わさず店をぶっ壊してやる。
「行くぞおおおおお!」
「ピヨ!」
「ピヨ!」
「ピヨ!」
「ピヨ!」
俺の背後をわらわら付いてくるヒヨコの兵士達。
振り向くと視界が黄色に染まる。
キモい。
奇襲を掛けるのは裏玄関からだ。
扉は全面がガラス貼り。
火を吹くことで容易に穴を開けて侵入する事が出来る。
ヒヨコ大行進。
ピヨピヨと穴をくぐり抜けて焼き鳥屋に侵入していく。
裏玄関に入ると、そこには大量のヒヨコが檻に閉じ込められていた。
「あ……あ! た、助けてくれ」
「言われなくても助けてやらぁ!」
次々と牢屋の鍵を火で壊して解錠していく。
すると、ヒヨコが総勢100匹くらい追加された。
そして、そのヒヨコ600匹に命じる。
「野郎ども! ヒヨコを殺すこの店のあらゆる物をぶち壊せ!」
「ピヨ!」
「ピヨ!」
「ピヨ!」
「ピヨ!」
ドンガラガッシャーン!
もうドッカンバッタンの大騒ぎ。
ありとあらゆる物がヒヨコの手によって破壊されていく。
俺は店内へと続く扉の前で待機。
ここまで大騒ぎしていれば、誰か見回りに来るはずだ。
ガチャリ。
ほうら、来た。
扉の取手がガチャッと回り、アルバイトらしき若者が入ってきた。
「ああ? 泥棒か? ドタバタうるせ……ひ、ヒヨコ!?」
『ピヨオオオオオオオオオ!』
「ぎゃあああああああああああああああああああ!」
すかさず顔面に火の玉をお見舞いしてやった。
殺さないように結構手加減したが、頭が発火し、床に倒れて必死にもがき苦しんでいる。そこへ600匹のヒヨコが蹴るわ蹴るわのストンピングの嵐。
アルバイトが気絶した所で俺はヒヨコ達を静止させた。
「野郎ども、そこまでだ!」
「え、何でですか!?」
「こいつは俺の友人の敵なんですよ!」
「仇討させて下さい!」
やはり殺すまで納得のいかないヒヨコ達。
しかし、仇討というのは悲しいモノだ。
悲劇がさらなる悲劇を生みかねない。
「いいか野郎ども? お前らがこいつを殺してしまったら、それこそこの殺戮人間と同じになってしまうんだぞ?」
「ピヨ!?」
「ピヨ!?」
「ピヨ!?」
ヒヨコ達が目をまん丸に見開く。
「殺して食うなら自然の摂理。しかし、ただ殺すだけならそれはもう、ヒヨコのやる事では無い。落ち着け、自分に聞いてみろ、お前らは何者だ?」
「ヒヨコです!」
「ヒヨコです!」
「ヒヨコです!」
「よ~し野郎ども! 続きだああああああああああ!」
「ピヨ!」
「ピヨ!」
「ピヨ!」
自分でも何言ってるか分からなかったが、とりあえずヒヨコ達が納得してくれたので良しとしよう。
総勢の半分、300匹を倉庫らしき場所の破壊に残し、残り300匹は俺と共に店内のホールへと突入した。
そこから漂ってくるのは、仲間達のこんがりした匂い。
ヒヨコ達から怒りの声が上がるが、今は構ってられない。
エミィタちゃん、そう、エミィタちゃんを探さなくては!
「助けてー! ママー! パパー!」
この声は……、エミィタちゃんだ!
声のした方向へと視線を送ると、居た。店長と思わしき人物に鷲掴みにされているエミィタちゃんが!
「野郎ども! お前らは店内を破壊しつくせ! 客共を追い出せ! 俺はエミィタちゃんを助ける!」
「ピヨ!」
「ピヨ!」
「ピヨ!」
ヒヨコ達に司令を出し、俺は店長に襲いかかった。
考えたのは俺の体が頑丈なこと、それはつまり、ただ頑丈だけって訳ではなく、強靭な体なのではないかという想像だ。
防御力だけじゃない、攻撃力もある筈だ!
その考えを実行するために、俺は店長のかかとをつついた。
『ピヨ!』
「あんらああああああああああああああ!?」
ムーンサルト。
店長が勢い良くクルリと半回転、床に頭を強打した。
店長の手からエミィタちゃんが開放され、俺の元へと駆け寄ってくる。
「ありがとう、ピヨちゃん! まさか助けに来てくれるなんて! 何で私がピンチなのを知ってたの?」
「エミィタちゃんの不幸は全て俺が取り除く、ただそれだけさ」
バシッと一言、決め台詞。
どうだ? どうだ? 手応えは!?
俺の決め台詞を聞いたエミィタちゃんの頬が紅潮する。
そして、俺にキスして来た。
「ありがとう……、かっこいいね、ピヨちゃん」
「ピヨオオオオオオオオオオオオオオオ!」
よっしゃああああああああああああああああ!
ああああああああああああああああ!
ああああああああああああああああ!
思わずガッツポーズ!
よっしゃ! よっしゃ!
好感触だ!
しかし、喜びも束の間、店長がムクリと起き上がった。
「痛てててて、床を磨きすぎたかな? 滑りが良くなってらぁ」
頭を抑えて店長が起き上がる。
刹那、またかかとを全力でつついてやった。
『ピヨオオオオオオオオオオオオオオ!』
「滑らぁあああああああああああ!?」
ムーンサルトが如し。
グルングルンと空中で10回転。
店長は風車の如く空中で乱回転し、またも床に頭を強打する。
今度こそ気絶、店長はピクリとも動かなくなった。
完全勝利。
気が付くと、店内のには人っ子ひとり居なくなっていた。
居るのは未だに暴れまわるヒヨコ達のみ。
「野郎ども、俺達の完全勝利だ!」
そう、宣言する。
隣のエミィタちゃんが可愛らしい声で話しかけてきた。
「ねぇ、ピヨちゃん。私達って……もう、死ななくていいの?」
「ああ、そうだ。もう……自由なんだよ」
「……うん!」
涙が一粒、エミィタちゃんの瞳から溢れて頬を伝った。
そして溢れんばかりの笑顔を俺に向けてくれる。
俺はそんな彼女の手を取り、自由の名の下、店外へと駆け出していった。




