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1、ひよこ転生

 

 目を覚ましたら俺は異世界でヒヨコになってた。

 

 何言ってるか分からないと思うが俺だって分からない。どうやって異世界にやって来たかは覚えているのだが、どうしてヒヨコになってるのかの理由が分からない。


 どこを振り向いてもコケコッコ。

 続いて更に見回してもピヨピヨ。


 俺がやって来たのは、ニワトリやヒヨコしか居ないニワトリの楽園だった。









 俺は錦野高校に通う普通のドラゴン好きな高校生だった。

 そう、だったのだ。過去形だ。


 学校が終わり、帰宅路の途中にあった書店で〈世界ドラゴン図鑑〉を買って、本を読みふけりながら下校していた。


 それがいけなかった。

 本に視線を向けたまま歩く行為は、マイホームに向かうのではなく、あの世に直結すると言って正しい。


 歩いていた最中、急に体が浮遊感に襲われたかと思うと、俺の視界は激痛と共に暗転した。


 どうやらマンホールの蓋が開いていて、そこに落ちて死んだらしい。俺はそう聞いた。聞いたと言うのも、俺の死に様を見ていた奴が居たからだ。


「本当にすまんのう、手違いで殺してしもうたわい」


 そう言ったのは、白髪で純白のローブを纏った神様だった。


 どうやら、大野 谷とかいう極悪人を地獄に落とすべく殺したつもりが、名前を間違えて大野 裕(おおのひろし)……つまり俺を殺してしまったらしい。


 苗字しか合ってねぇじゃねかと文句を言ってやろうかと思ったが、神様は俺に魅力的な提案をして来た。


 それは次に生を育む世界で、好きな種族に転生させてくれるといった提案だった。


 俺はドラゴンが大好きなため、即座にドラゴンと答えた。

 

「ほっほっほ、欲深い人間じゃ。普通なら欲に塗れた人間は地獄に叩き落として心を洗って貰うのじゃが、今回はワシが悪いからの」


 神様がそう言うと、俺の視界は再び黒くなった。


 恐らく次に目を覚ます時はドラゴンとなって人生では無く、竜生を歩むことになるだろう。期待と興奮に胸を高鳴らせながら、俺は意識をまどろみの中に落とした。







 コケコッコー!



 俺はニワトリの鳴き声を聞いて意識を覚醒させる。


 目を開けたものの、視界は真っ黒な闇で覆われていて何も見えない、そして体を満足に動かすことが出来なかった。


 何やら俺は密閉された空間に閉じ込められているらしい。


 力を振り絞って全身を伸ばすと、俺を閉じ込めていた何かが、パキりと乾いた音を立てて割れ始める。


 パキキ……パキキ……。


 割れたその何かは、割れた所から一気に乾いた音を奏でながら剥がれ落ちた。やがて、その何かが全て割れた事によって俺は完全な自由を手に入れた。


 辺りを見渡すとそこは草原。


 そして、俺を覆っていた何かが視界に入る。

 白くて硬い何か。そう、それは卵の殻だった。


 殻を見て俺は思い出す。

 そうだ、俺は神様の手によってドラゴンに転生したんだった。

 俺を覆っていたのは卵の殻、何の殻? ドラゴンだ。


 歓喜で思わす叫びたい気分だったが、上手く声が出ない。


 そりゃそうか、俺ってばドラゴンだし。

 そして生まれたての雛なんだから。


 

 コケッコッコー!



 またも俺の耳にニワトリの鳴き声が聞こえてきた。

 よ~く耳を澄ましてみると、いくつもニワトリの鳴き声が聞こえてくる。


 そして、俺の隣ではピヨピヨと可愛らしい鳴き声が聞こえてきた。


 ヒヨコだ。

 それも6匹も居る。

 そして……でかい!


 視界を覆う黄色い羽毛、くりくりして大きい瞳……いや、くりくりなんて可愛らしい表現じゃねぇ、ぐりんぐりんと嫌に馬鹿でかい目玉だ。


 よ~く確認してみると、6匹のヒヨコは俺と同じくらいの大きさだ。ドラゴンの赤ちゃんである俺、いわば幼竜と同じでかさのヒヨコとは恐れ入る。


 いや、ドラゴンの赤ちゃんが大きいとは限らない。ヒヨコがデカイのではなく、幼竜がヒヨコと同じ大きさと考えるのが妥当か。


 というか、せっかくドラゴンに転生したんだし、ヒヨコなんかには構っていられない。


 俺はダッシュで草原をかけ出した。幼竜ということで上手く歩けないが、本能が故か地味に歩ける。


 羽ばたこうとしてジャンプしてみたが飛べなかった。まあ、幼竜という事で腕の筋肉が発達していない可能性がある。


 飛ぶのは成長してからの楽しみにしておこう。


 

 しばらく走っていると、喉が乾いてくる。

 先ほど耳を澄ました時に水の音がした。つまり近くには水源があるのだろう。川でも湖でも池でもなんでもいい。俺は喉が渇いた。


 水音の発生源を辿って行くと、俺の目の前にとても澄んだ湖があった。


 すかさず駆け寄り、澄み渡った透明で美味しそうな水を口に含む。


 ゴクゴクゴク。

 うん、うまい。


 喉の乾きも取れて、ふと、水面を見下ろす。

 水面に映るのは1匹のヒヨコ。


 ハロー、君も喉が渇いたのかい?


 って違う、馬鹿!


 水面に映ったって事はそれは俺。

 こんな透明な水は鏡みたいに光を反射する。

 つまり、このヒヨコは俺。


 っえ!? 俺!?


 試しに右手を上げてみる。

 水面に映るヒヨコも伴って左手を上げた。

 次に左手を上げてみる。

 水面に映るヒヨコは右手を上げた。


 待て待て待て。落ち着け落ち着け。


 続いて俺は口を開けてみる。

 水面に映るヒヨコも口を開けた。


 アウチ……、つまりこのヒヨコは俺だ。


 なんてこった、俺はドラゴンに転生したんじゃねーのか。

 人生でも、竜生でもない。鶏生じゃねーか。

 ヒヨコじゃん。どうみてもヒヨコじゃん。


 くそクソ糞。

 

 くそったれがあああああああああああああああ!!


 そう叫び声を上げようと思ったが、いかんせんヒヨコみたいな声しか出ない。


「ピヨオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 俺がほとんど絶叫に近いの叫び声を上げると、近くに居たニワトリが反応するように同じく声を荒げる。

 

「コケコッコオオオオオオオオオオオオオオ!」


 うるせええええええええええええええええ!!



 声を出せばピヨピヨ。

 

 あっちにピヨピヨ

 こっちにピヨピヨ。

 俺の姿はピヨピヨ。


 大人はコケコッコ。



 どう考えても俺はヒヨコです。本当にありがとうございました。


 

 

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