思い 03
千歳は、キッチンから母が戻り、リビングに両親が揃った所で話を切り出す。
「ねぇ、お母さん達に聞きたい事があるんだけど」
両親は、千歳が何か言いたい事が有る事を分かっていた。
千歳は、とても解り易い性格をしている。感情は随所に如実に出るし、隠し事なんかあった日には挙動不審になる。
それに、何より。千歳が生まれてから18年の付き合いだ。何を思い、何を不安に思っているかぐらいは分かるつもりだ。
「朱里と同じで、あの事故の事だろ?」
「!? なんで分かったの?」
千歳が驚いてそう言うと、両親は再び顔を見合わせて小さく笑う。
「それは分かるわよ、千歳ちゃんは素直だから、考えてる事が分かり易いし、何より私は千歳ちゃんのお母さんよ。お腹の中に居る時から、ずーーっと千歳ちゃんの事を見て来たんだから。分からない訳ないじゃない」
「俺だって、同じさ」
すると、千歳は不安そうな顔をして、おずおずと声を出す。
「じゃぁ……」
「うん。正直に言うとね、千歳ちゃんが死んじゃったって、つい最近まで信じられなかったの……」
「俺だって同じだ……あの日、朱里から、千歳が死んでしまったって連絡があって。急いで病院に行って千歳の亡骸を確認してたんだ。それでも信じられなかった……。
通夜が終わって、葬式が終わって、四十九日が過ぎて。……夏が終わって秋が過ぎて、冬が来た頃に、千歳が助けた子達が尋ねてきた時は、流石に泣いたなぁ。でも千歳が命を掛けて守った子達に会って、やっと千歳がもうこの世に居ない事を受け入れる事が出来たんだ。
千歳があの時に行動しなきゃ、もっと多くの人が死んでたはずだ。確かに、千歳が死んだ事は悲しいし、他にも色々思う所はある。
……だけど、千歳が命を懸けて誰かを救える子に育ってくれていた…お父さん達はそれを誇りに思う、誰にでもできる事じゃないよ。だから最後に言わせてくれ、良く頑張ったな千歳」
本当は、もっと葛藤だってあった。2ヶ月近く会社を休んで、泣き続けたし、何度も千歳が帰って来る幻だって見た。
今までの人生で千歳と朱里が生まれた時の2度しか見たことが無い妻、凪の涙だって、嫌と言うほど見た。自分の無力を嘆き、悔やみ続ける娘の姿だって見てきた。
だけど、それは言わなくても良いだろう。無花果はそう思う。頑張った息子の手前、自分達の情けない姿を見せるのは、千歳の頑張りを否定してしまう事の気がしたのだ。
「うん、ありがとうお父さん…僕、頑張ったよ」
「本当によく頑張ったわね千歳ちゃん、それと少し遅くなっちゃたけど、お帰りなさい」
「うん…ただいまお母さん」
千歳は憂いが完全に消えた様な、安心した様な顔をして、涙を浮かべる。
「心配ごとは無くなったみたいだね、お姉ちゃん」
「うん」
「じゃぁ、思い出作りにお花見でも行こうか」
朱里が唐突妙な事を言すが、まぁ、いつのも事なので誰も気にしない。
寧ろ、千歳はその提案を聞いて、女神が言って居たことを思い出して好意的な反応を見せる。
「行く!!」
この言葉を聴いた瞬間、朱里の口元に歪な笑みが浮かぶ。
だが千歳は、これに気付かない。両親は朱里の黒い笑みに気付いたが、朱里の事は無視して、それぞれお花見の準備に向かいう。ここで口を出すとより厄介な事になるのを経験から理解しているのだ。
「じゃあ、準備するから、お姉ちゃんはここで待ってて」
「いや、いいよ~自分で準備するから」
「お姉ちゃんの私物は整理しちゃったから、物がある場所わかんないと思うの」
千歳の部屋には現在、朱里が棲んでいる。住んでいるのではなく"棲んでいる"のだ。
両親は、別の用途で部屋を使うまで、そのままにしておくつもりだったが。事故から少しして、朱里が棲み付き始めたのだ。
なぜそんな事になっているのか……一言で言えば、朱里が変態だから。これに尽きるだろう。むしろこれ以外の理由が見当たらない。
現在そんな状態にある千歳の部屋の中は、少々混沌とした状況になっている。
朱里が自作した、お姉ちゃんグッズと下着が処狭しと散乱し、朱里の自作の同人誌原稿が壁際を埋めている。
その様子はまさにカオス。両親も不用意に近づかない。もしも部屋の中を見てしまった日には、SAN値がゴリゴリと音を立てて削れて行く。精神衛生上宜しくないのだ。
同人誌の内容は、千歳似の少女と朱里似の少女が(自主規制)したり(自主規制)したりする、大変ハードな内容の物となっている。読み手がかなり限定された内容なのだが、絵柄がとても綺麗で、アレなシーン以外は、ストーリー構成もかなりしっかりしているので、意外と売れている。……そして、この本を読んで性癖を歪められてしまった人も多いとか……。
閑話休題
朱里としては同人誌みたいな展開はバッチコイなのだが、そんな旨い話がある筈がない。なので、部屋を片付けるまで、千歳を部屋に入れることなど出来ない。
せめて姉の前では綺麗な妹で居たい。羞恥心と自制心そして乙女心を幼少の頃に何処かに捨ててきた朱里が、唯一捨てずに持っていた年頃の少女らしい一面がそこにはあった。
「わかったよ、待ってる」
「すぐに戻ってくるから、"ここで"大人しく待っててね」
そう言うと、朱里は部屋の方へ駆けて行った。その様子を見て千歳は「そんなに急がなくても良いのにー」と呑気にお菓子を貪りながら、ジュースを飲んで、ソファーに寝っ転がる。
朱里が掃除に向かってから、2時間ほど経過した。千歳は少し前まで色々食べていのだが、お腹がいっぱいになったので、母や父に「手伝おうか?」と聞いた所「ゆっくりしていて良いのよ、もう少しで終わるから」と言われてしまったので、今の千歳は少しばかり手持ち無沙汰になってしまった。
そこで、思い至ったのが、朱里の帰りが遅い事。2時間だ……服や色々の準備に2時間も掛かるものでだろうか?
千歳は、少しばかり朱里の事が心配になる。
「朱里ちゃんが心配だからちょっと様子みてくるねー」
「……その必要は無いわ」
千歳が部屋を出ようとソファーから立ち上がると、朱里が汗だくでリビングの入り口に立っていた。その様子を見て、千歳は思う(2時間も何をして居たんだろう?)と。
「遅かったね、何かあったの?」
千歳は汗だくになっている朱里事を心の底から心配しての言葉だ。
「……お姉ちゃんの部屋を片付けてたの、今日寝る所無いと困るでしょ?」
確かに朱里は、千歳の部屋を片付けをしていた。……壁際を埋めていた薄い本等の、見られたらヤバイ物を自室に運び込み、散らばった下着を洗濯機に押し込め、千歳の布団に染み付いた自分の匂いを消すためにシーツを変えて布団を干したり。その他諸々の作業を行い2時間……大健闘だ。
全ての作業に全力を尽くした結果、朱里の服は汗でビショビショに……。
「ありがとう。凄い汗だけど大丈夫?」
「気にしない、気にしない、シャワー浴びてくるから大丈夫」
「そお?」
「おかーさん、シャワー行ってくるから」
「わかったわ」
朱里がシャワーに行った事で、千歳はまた暇になってしまった。
(お弁当の中身何かな~♪)などと考えながら、ソファーで1人ごろごろしている間にも、目の前ではどんどんお花見の準備が進んでいく。
母は料理、朱里はシャワー、父は買い物…今は千歳の相手をしてくれる人が居ないのだ。
父は、飲み物と材料が足りないと言ってまた買い物に行ってしまった。まだ普通のお店の開店時間には早いので、少し遠くの24時間営業のスーパーまで買い出しに行っている。……都会はどうか分からないが、田舎コンビニに生鮮食品は置いていないのだ。
そもそも、24時間営業のスーパーもここ数年で出来たばかり、それまでは24時間営業の店など無かった。田舎ではコンビニも24時間営業で無い所もあり、都会から来た人が「マジかよ…」と驚く事も間々ある事だ。
都会で暮らした事の無い人間からすれば、何てことは無い普通の事。田舎の人は夜遅くに出歩く事は少ないだ、理由は街灯が少なくて道が暗いから危ないとかそんな理由。
現に、千歳も「幽霊とか出そうで怖い」と言う理由で夜に出歩く事はまず無い。家の中でも怖いのに家の外になど出られる訳がない。
何はともあれ、客が来ないならコンビニも24時間営業するメリットは無い。なので24時間開いている店は、田舎には少ないのだ。
と、千歳がソファーでごろごろしていると、脱衣所から出てきた。
「お姉ちゃん、ちょっと」
朱里は満面の笑みを浮かべて、千歳を手招きする。
表面上は、綺麗な美少女スマイルだが、その実内心では締まりの無い笑みを浮かべている。
「なぁに?」
千歳は相手をしてくれる人が居なくて暇だった。これは千歳にとって本日最大の不幸であり、朱里にとって本日最大の幸運であった。
「(うへへ、来た来た、もう着せる機会なんて無いと思ってたけど、取っておいて良かったZE☆)」
彼女の背後に用意されているのは、メイド服……当然普通のメイド服ではなく、所謂和装メイド服とでも言うべき一着。千歳の為に朱里が作っていた物だ。
ゴスロリ衣装もそうだが、千歳に着せられるこの類の服は、殆ど朱里が自作した物だ。
完成度は素晴らしいの一言では表せないほどに高い。朱里には服飾の才能があった。幼い頃から色々な技術を母に仕込まれていたため蓄積した知識と技術もあった。何より自分の欲望を叶えるための努力を惜しまなかった。それゆえの完成度だ。
そして、努力する天才ほど厄介なものはない。
「(へへッ、絶対に着せてやる、この一着を無駄にするものかッ!!)」
千歳は知らない。幼い頃から共に学んできた服飾の技術がこんな事に使われている事を。何より自分の妹が変態である事を。
「(さぁ、あと10メートル、待ちに待った、お楽しみの時間だ!!)」
朱里は、シャワーに行くと同時に、脱衣所で色々な準備を進めていた。千歳の着ている服の構造を脳内で把握し、迅速に剥ぐ為のイメージトレーニングと精神集中を行っていたりした。
数百回に及ぶ脳内シュミレーションを経て、最適化された脱衣の手順を最速で行う。それが今回のお花見を最大限楽しむために彼女が完遂すべき最初のミッションなのだ。
「……(ピクリ)!??」
(何だろう?…一瞬寒気が)千歳は本能的に危機を察し、一瞬立ち止まり辺りをキョロキョロと見回す。
「(チィ……お姉ちゃんって、たまに勘が鋭い所があるのよね)」
立ち止まった千歳を見て朱里は少し動揺したが、すぐに最高の精神状態に持ち直す。
精神の乱れは、体の動きにも関係してくる。今回のミッションを滞りなく完遂する為には最高の精神状態で挑むのがベストなのだ。
その事を重々承知している朱里は、精神を統一し呼吸を整える。この間、僅か0.5秒もはや達人の域だ。
「おね~ちゃ~ん、はやく~」
「あ、うん」
一瞬の寒気に足を止めていた千歳が再び歩き出す。勘が良いとしても、それに従わなければ、勘の良さなど無いも同然だ。
「なにか用事?」
「……ショータイムだ」
朱里は小声で呟く。さも楽しげに微笑む口元は不気味に歪み、手元に用意されたメイド服と千歳の体を交互に見るその瞳は不気味な色を孕んでいる。
千歳は、ここに至っても、まだ今の状況を理解していない。朱里の手にあるメイド服は朱里が着る物と思い込んでいるのだ。今までの経験が生きていなのは、千歳が残念な子だからと言う外無いだろう。
「……お姉ちゃん、万歳しようか」
「へ? うーん、ば、ばんざーい?」
千歳はとても素直で、そして若干間抜けな子だ。
「では失礼して」
千歳が訳も分からず両手を上げている間に、朱里が素早く千歳が今着ている服を脱がせる。そしてタオルを巻いてから下着も脱がせる。
運動神経が鈍く、おっとりしていてトロい千歳。対して運動神経が良く素早い朱里。相性は最悪(最高)だった。
「!?」
いったい何が起きたのか? 千歳はタオルを巻かれ、下着すら剥がれた自分の身体を見て焦る。
「タオルは巻いておいてあげたよ」
朱里は、これでも今年で18になる乙女で、容姿端麗、学業優秀……中身を除けば完璧な美少女だ。中身を除けば。
「朱里ちゃん、いったい何をしたの!?」
「フッ、時々自分の才能が怖くなる時があるんだ…私は一体何処まで行くんだろね」
朱里は明後日の方向を向いて呟く。そしてその手には千歳が着ていた身に着けていた下着が握られていた。
「無視しないでよ!! あと、服返して」
「はい、これ」
朱里が千歳に渡したのは、朱里が着るのだと千歳が思い込んでいた和装メイド服だった。千歳はその服を広げて唖然とし、抗議する。
「これ違うよ、さっきまで来てた服返してよぉ、こんな服恥ずかしくて着れないよ」
「返したらどうするの?」
「当然着るよ、だってこのままじゃ恥ずかしいもん」
「そう……私の作った服……お姉ちゃんは着てくれないのね……。製作期間3ヶ月…私、もの凄く頑張ったんだけどなぁ、去年の春休みも殆ど使ったのに……」
「……うぅ」
もう一押し。俯き悲しそうな顔をする朱里の内心に、黒い笑みが浮かぶ。
「お金も結構注ぎ込んで"お姉ちゃんの為に"作ったんだけどなぁ。……お姉ちゃんは着てくれないのね……あぁ、私の3ヶ月。貴重な青春の1ページが儚く「わかったよぉ」……(ニヤリ)」
内心に浮かんでいた黒い笑みが、顔に浮かんだのは、ほんの一瞬。その笑みはすぐに鳴りを潜める。
朱里は、すぐに表情を作り直し、悲しさ半分喜び半分と言った表情を作りあげる。朱里は腹芸だけでなく顔芸も得意なのだ。
腹芸は兎も角として顔芸の方は乙女としては如何なものなのだろうか?
「本当に着てくれるの? (ヘッへッへ、チョロいもんだぜ。このまま最後の仕上げも……)」
「着るよ……着るからこれ以上責めないでよぉ」
「じゃぁこれも穿いてね」
千歳に渡されたのは大人の雰囲気が漂うアダルティな女性用下着、黒いレースのパンツだった。
それを千歳に渡した張本人の方を見れば、期待した顔で千歳の方を凝視している。……千歳には、脱衣所に入った瞬間から何の選択肢も用意されてはいない……強制イベントだったのだ。
「……………本当に穿かなきゃダメ?」
「ハァハァ…ゴクリ……お姉ちゃんが自分で穿きたくないなら、私が穿かせてあ・げ・る☆」
朱里が手をワキワキ動かしながら千歳に近づく。それに何とも言えない恐怖心(身の危険とも言いう)を覚えた千歳は身を守る姿勢を取りつつ、後ずさる。
「い、いやいいよ自分で穿けるよ…」
「そう………残念」
朱里は多少残念そうな顔をしつつ、手を下ろす。これで作戦は概ね成功だ。
「着替えるから、出てってくれると嬉しいな……」
「はーい」
(…はぁ、しょうがないから着替えるかな)千歳は心の内に何とも言えない何かを抱えつつ、朱里に渡された黒い下着を広げる。
千歳には諦めて着替える以外の選択肢は無かった。着替えずに脱衣所を出たら、十中八九朱里の強制着せ替え人形なるのだから……そう、何かを捨てる事で助かる何かも有るのだ。
――― 10分経過 ―――
「………さて困った…こんな服着たこと無いから着方がわからないよ」
千歳は困っていた。朱里に渡された服は、千歳が今まで着た事の無いタイプの服だった。つまり着方が分からないのだ。
千歳は10分くらいこの服と挌闘したが、いまいち上手く着られなかった。作りが複雑すぎたのだ。
「全くもぉ、こをこうするのよ!!」
「おーそうなんだ!!」
「それで次はこう」
「うん」
「あとは、ここをこうしてっと、ハイ完成」
「ありがとー助かる……よ?」
朱里の笑顔を見た瞬間千歳は固まる。
「ふふっ☆どうしたのお姉ちゃん」
「何で朱里ちゃんがここに居るの!?」
さっき部屋から出て行った筈なのに!? 千歳は困惑し、戦慄する。
「お姉ちゃんが出てくるのが遅いからだよ。もうお父さんも帰ってきてお母さんも料理の準備終わってるよ、2人ともお姉ちゃんが着替え終わるの待ってるのよ」
「いや、でも…着替え中に入ってくるのは善くないと思うんだけど?」
「そんな事どうでもいいじゃない、私が手伝ってあげなきゃまだ着れてなかったでしょ?」
「そ、それはそうだけど……」
「つまりは、お姉ちゃんが服を着れずにチンタラやってたのがいけないの」
「あぅ……」
「お姉ちゃんが一人で着れたら私は入って来る必要は無かったのよ(まぁ、必要が無くても入って来たけどね☆)」
「それは……そうだけど」
「むしろ、お姉ちゃんは私に感謝するべきだと思うの、困っていたお姉ちゃんを助けてあげたのは私なんだから」
「あ、ありがとう?」
「(……あれ?いつの間にか僕が悪かったみたいになってない? おかしいなぁ、悪いのは朱里ちゃんの筈なのに……)」
千歳は何時も通り朱里に押し切られてしまった。朱里の超理論と、千歳の素直さは余りにも相性が悪かった。
「(フッ、相変わらずチョロいわね!お姉ちゃん。こんなんで転生して上手くやっていけるのかしら?、少し心配だわ…まぁ、お姉ちゃん意外と運が良いし何とかなるか)」
朱里は千歳のチョロさに、転生してから上手くやっていけるのか少し心配になったが。千歳が意外と運が良いと言う理由だけで、朱里の心配は打ち消えた。
何の根拠もない自信ではない。千歳は山等に行くと、何処からとも無く巨大な宝石の原石を掘り起こしてくる程度には運と感が良い。
「髪のセットとかもしてあげるから少し大人しくしててね」
「……うん」
「よしセット完了、お花見の準備も出来てるから早く行きましょ」
「あ、うん」
朱里ちゃんに手を引かれて脱衣所の外へ、そしてリビングまできた。
「千歳ちゃん良く似合ってるわよ」
千歳は恥ずかしさの余り、顔を真っ赤にして俯いてしまいます。
「本当だ、良く似合ってるよ。朱里ちゃんも、同じように何か着ればいいのに」
両親は朱里が千歳と一緒に脱衣所から出てきた事には触れずに、それぞれの感想を述べる。
母に至っては、娘にも同じ様に可愛い服を着て欲しいと暗に希望まで出す。
「残念ながら私の分は作ってないよ、私には可愛すぎてハードルが高いわ。お姉ちゃんが着てくれれば私は満足よ」
(約:私は恥ずかしいから着たくない、お姉ちゃんが着てくれれば私は満足よ!!)
「フッフッフッ、こんな事もあろうかと、お母さんが朱里ちゃんの分を作っておいたわ。大丈夫、朱里ちゃん可愛いからよく似合うとおもうわ、これを着て二人で並んで歩いてくれたらお母さん凄く嬉しいわ~」
(約:服は用意しておいたから朱里ちゃんも着てね)
「いや、私はいいわよ。今から着てたらお花見行くの遅くなっちゃうし」
(約:嫌よ、そんな恥ずかしい格好しろって言うの)
「大丈夫、お母さんが着せてあげるから、30秒で済むわ!!さぁ、行きましょ」
(約:大丈夫、直ぐに終わるわ)
千歳の精神状態に配慮した会話で舌戦を繰り広げる母娘。翻訳後の会話は、とても千歳には聞かせられた会話ではない。
「ちょ、お母さん!やめ…ちょ…うぇッ!!」
母は、舌戦の後、暴れる朱里ちゃんを引きずってリビングを出て行く。
その様は、まだ生きてる虫がアリの巣穴に連れて行かれる光景によく似ていた。巣穴に引き込まれる瞬間の悲壮感は凄いものがある。
「ちょッ! ……止め……あッイヤ…おかあさッ………マジやめッちょ!! それマジ、ダメ……シャレになって……」
「うるさいわねぇ、少し大人しくなって貰うわよ」
「え、ちょ!! ……何す…うがッ!!…………」
千歳から朱里の声が聞こえなくなって少し。母が朱里を引きずってリビング戻って来る。
白目を剥いて気絶している朱里には、千歳の今着いるのと少しデザインが違う和装メイド服が着せられていた。
朱里が幾らハイスペックだからと言っても、同じくハイスペックで経験の差がある母には敵わないのだ。
「さぁ、行きましょうか」
「お母さん、朱里ちゃんは大丈夫なの?」
「大丈夫よ、朱里ちゃんは丈夫だからすぐ起きるわ」
母はそう言って、お花見の荷物を父に持たる。……朱里の方はと言うと、白目剥いて口からヨダレを垂らして絶賛気絶中……。一体何が有ったと言うのだろう?
「千歳ちゃんはバスケット持って来てね、お母さんは朱里ちゃんを運ばなきゃいけないから…よいしょッと!」
母は、朱里を肩に担いで持ち上げる。
「(何だか雑だなぁ、せめてお姫様抱っことかにしてあげればいいのに……)」
千歳は雑に担ぎ上げられ運搬される朱里を見てそう思ったが、それも一瞬……何時もの事だ。
「じゃ、行きましょうか」
「はーい」
桜が綺麗に咲いている場所までは、徒歩でもそんなに遠い場所ではなかったが、お花見の荷物も多いので車で向かう事になった。
朱里ちゃんの部屋は魔窟です。見てはいけない物が散乱しています。
見るとSAN値がガンガン下がります。
8/22(土曜日) 改稿