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白の転生譚  作者: 優音 乙菜
薬師の国と、2人のお姫様
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大森林を抜けて

以前の投稿から一月程空いてしまいました、申し訳ありません。

 酷い揺れでした。

 何となく馬車の旅と言うのは優雅でのんびりとした楽しいモノだと思っていたのですが、実際に乗ってみると、石や木の根に車輪が乗り上げる度に凄い勢いで揺れて、座席に座っているのもやっとの状態でした。


 僕の場合、なまじ体が軽い分、馬車の車輪が大きな石や木の根を踏んだりすると、その衝撃で座席の上で飛んだり跳ねたり。特に大森林の山道の様に、整備されていると言う訳でも無く、人の行き来が盛んな訳でも無い道だと、道の状態も酷いものです。

 唯一の救いは、乗っているのが国賓用の馬車であり、座席にクッション材が使用されていた事でしょう。もしもこのクッションが無ければ、今頃僕のお尻は度重なる強打で真っ赤を越えて青アザになっていた筈です。……ええ、恐ろしい事に。


「千歳ちゃん、お尻とか妙に熱もってるんですけど大丈夫ですか?」


「うーん、ちょっとジンジンするけど何とか平気」


 精霊の領域に行った日から2日。ニワトリの世話の仕方や、調味料や常備薬の保管場所何かを騎士のおじさんに教えて、留守を任せて意気揚々と教会を経ってから、早半日が経過していました。


 この半日の間、途中休憩はあったものの、それ以外の時間はずっと飛んだり跳ねたり。まさか、人里に降りるのがここまで大変だとは思っても見ませんでした。

 今はメイドさんの膝の上に乗せてもらって、跳ねないようにしっかり押さえて貰っているから良いものの、それまでは座席から投げ出されて床に落ちたり、壁にぶつかったり……この半日でかなりのダメージを受けてしまいました。


「本当に大丈夫なん? 凄い体制で床に落ち取ったけど、背中とか擦り剥いてへん?」


 ハーシェの膝に腰掛けながら、心配そうに僕の顔を覗きこむサク。彼女は僕よりも体重が軽い筈なのに、何故か飛んだり跳ねたりしていません。

 一体どうしてなのか気になって尋ねてみたのですが、帰って来た返事は「慣れかな?」と言うイマイチ釈然としない物でした。


「ちょっと擦り剥いたけど、さっきの休憩の時にお薬塗ったから平気」


「塗ったと言うか、殆ど全身に揉み込みましたからね。何となく塩漬け肉でも作ってる気分でしたよ」


「妙に静かに手伝ってくれるなぁと思ってたら、実はそんな事考えてたんだね」


 こんなに作ってどうするんだろう? とか思いながらも、リディアの指示で大量生産した酔い止めの薬と、打ち身と擦り傷用の塗り薬ですが、まさか旅立って早々にそのありがたみを実感する事になろうとは……。恐らく、酔い止め共々無ければ酷い有様になっていた事でしょう。


「そう言えば、フィルちゃんは大丈夫ですか? 影に潜り込んでると、千歳ちゃんと同じように怪我したりしてるんじゃないですか?」


 メイドさんが尋ねると、僕の影から小玉スイカちゃん改め、ノエルがニュッっと半分体を出します。

 初めは、小玉スイカから取って『コダマ』とか、御餅精霊から取って『ゴマ餅』とか色々考えた末に、元の世界の月の女神様とこの世界の夜と癒しの女神様から名前を貰ってフィルテナとしました。僕も含めて皆フィーとかフィルとか愛称で呼んでいます。


「平気です。ちーが飛んだり跳ねたりしても、影の中は全然揺れたりしないの」


「そう言う事らしいから、馬車に乗ってる間は影の中に潜ってて貰ってるんだ。そうじゃないと間違ってうっかり潰しそうだし」


 小さな精霊の子は、所謂上位の精霊と呼ばれる精霊と違って精霊力等は使えませんが、耐久力はかなり高くそうそう傷なんかは負わないそうです。

 ですが、潰されたりすると痛いことは痛いそうなので、不意にでも潰したりしない様に影に潜っていて貰っています。


「成る程。そう言う事でしたか……まぁ、派手に飛んだり跳ねたりしてましたから仕方ないですね」


「です」


「良いな~、私もピョンピョンしたいよー」


 ふむふむと頷くメイドさんから視線を移して、羨ましげな視線で此方に向けるハーシェ。

 彼女はそれなりに成長しているのと、元々バランス感覚に優れているのも相まって、僕の様に飛んだり跳ねたりする事も無い……どころか、退屈を持て余して、揺れる馬車の中を平然と歩き回り、欠伸半分にオヤツを食べていたりもします。

 それで酔っていない所を見るに、三半規管が強いんでしょう……羨ましい限りです。


「見てる分には楽しそうかも知れないけど、実際は全然楽しく無いよ? ぶつけた所とか結構痛いし」


「だろうな、実際床に落ちた時とか凄い音してたし」


 アレは絶対に痛かっただろう……。と、遠い目をして言うのは、先程まで僕が座っていた席の丁度まん前に座っているポルト。

 何度か飛び跳ねた先でキャッチして貰ったり、緩衝材になって貰ったりした身としては申し訳ない気持ちで一杯です。


「ま、何にせよもう少しで山道も終わりや。そしたらこの揺れもマシになるからな」


「そうですね。そこまで行ったら一度休憩にしましょう」


 そう言って、御者台の窓を軽くノックして、山道が終る地点で休憩する事を御者であるエクレアさんに伝えるリディア。

 ちなみに、御者台には御者たるエクレアさんの他に、周囲を警戒する役割のシルバが座っています。

 リディア曰く、本来なら昼の間であればそこまで警戒する必要も無いそうなのですが、サクを襲った魔物の事もあり念の為に警戒しているそうです。


 ……まぁ、教会を出てから丸半日、出くわしたのは樹の上でダレるリスとか、只管土を掘り返して遊ぶ猪とかその程度。馬車の乗り心地以外は驚くほど平和な旅でした。

 などと思い出していると、不意にハーシェが声を上げました。


「あとどの位で森の外?」


 ハーシェがワクワクした様な顔で御者台の方に声を飛ばすと、御者台から顔を覗かせたシルバは口角を上げて言いました。


「あぁ、もう着いたぞ森の終わりだ」

夏本番。毎日暑くてダレてしまいますね……。


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