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白の転生譚  作者: 優音 乙菜
第一章 教会
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最後の天使と影の精霊 1

 精霊の領域を出ると辺りは大分薄暗くなり、太陽と月が同居する時間もそろそろ終ろうかという時刻になっていました。


「すっかり遅くなってしまいましたね」


「です、きっとシスターさん達も心配してるの」


 流石に、ここまで遅くなるとは思って居ないでしょうからね。

 私がシスターさん達の立場でも、あまりに帰りが遅ければ、何かあったのでは? と心配するでしょう。


「ですね。早く安心させてあげる為にも、早く送り届けないといけませんね」


 そう言って軽く地面を蹴ると、背中に風の精霊力で構成された幾何学模様の翼が展開され、同じく頭上にも翼と似たデザインの円環が浮かび上がり、身体がふわりと地面から離れてあっと言う間に木々が茂る森の上まで上昇します。


 この高さまで来ると視界を遮る物は無くなりますし、黄昏の森から抜けて輝き始めた月の恩恵を受ける事も出来ます。


「絵本の天使様です?」


 私の背に現れた翼と、頭で回る円環を見たあの子が目をキラキラと輝かせます。

 恐らく、絵本というのはここ数百年で流通し始めた子供向けの御伽噺か、マンガという薄い冊子か。はたまた、大穴で女神教の聖典かのどれかでしょう。

 最近は、割と正しく天使の姿が描かれている資料が増えているので、どれかは分かりませんが。


「ふふっ、そうですね。見た目的にはそんな感じでしょうか?」


 他の精霊の方はこんな風にはならないのですが、私の場合は深層意識に強くそのイメージが刻まれているらしく、本気モードの時や慎重に空を飛ぼうとすると、何をせずとも淡い緑の光りで構成された翼と円環が展開されます。

 今回は恐らく、千歳ちゃんを起こさない様に慎重に飛ばなければ。と気を付けていたので展開されたのでしょう。


 この翼が展開される為か、時折本物の天使と間違えられて稀に少々厄介な事になったりもするのですが、それでもこの翼は嫌いではありません。寧ろ「綺麗、まるで何時か見た天使様みたい」と、長命を誇る種族の方に褒められて、誇らしかった思い出さえあります。


「大きくなると、天使の翼が生えるです?」


「ど……どうでしょう?」


 彼女が翼や円環を展開しているのって見た事が無いんですよね……彼女の移動は基本徒歩移動でしたし。

 まぁ、ルール違反なので正直に話す訳にもいかず「さー、どうでしょう?」などと誤魔化しつつ、千歳ちゃんを起こさない様にゆっくりと大森林の上空を教会方面へ向かって飛んでいきます。

 

 そんなこんなで、教会に辿り着く頃には辺りはすっかり暗くなり、空では月や星星が燦然と輝く様な時間になってしまいました。


 時刻的には、夜8時を大きく回った頃でしょうか? お姫様抱っこで両手が塞がっていて懐中時計を開く事が出来ず正確な事は分かりませんが、時刻的には夜の8時を軽く過ぎた頃でしょうか?

 日の長い夏時期とは言え、この頃になると月の光は木々に遮られて森の中は真っ暗です。幽霊とかが出そうで少し怖いですね。


「ノックをお願いしても宜しいですか?」


 教会に近づくにつれて、段々と震えが大きくなってきていたあの子にお願いします。すると、身体の動きどころか震えすらピタリと止まりました。もしかしたら呼吸すら止まっているかもしれません。


 ……流石に驚きすぎではないでしょうか?


「で……す?」


 数秒の停止の後、ギギギと此方を振り向いて、本気? とでも言いたげに私をジッと見詰めます。


「お願いします。私はこの通り両手が塞がっていますので」


 ほら、とお姫様抱っこをする千歳ちゃんを少し持ち上げると、目元に涙を溜めてまたフルフルと振るえながらも、意を決したように扉に向き直りました。

 きっとあの子には、教会の扉が何時も以上に重く大きく見えている事でしょう。ですが、だからこそ決意を固めるという意味でも自分で扉が開く事が必要なのです。


「ノック……するです」


 勇気を振り絞り、精霊術で影を操って扉をノックするあの子。

 

 ――コンコン


 ノックの音が教会に響き渡ると、建物の中から早足を刻む音が聞こえて、直後にシスターさん達の手によって扉が開かれました。


「夜分遅くに申し訳ありません。遅くなってしまいましたが、千歳ちゃんをお返しに参りました」


 お姫様抱っこで、衣装の裾を摘まんで持ち上げる事が出来ないので、衣装が地面に着かない程度に浅く膝を曲げて挨拶をします。


「ありがとうございます……あの、申し訳ありません、どうもこの子が迷惑を掛けたようで」


 千歳ちゃんを受け取りつつ、シスターシルバが申し訳なさそうに頭を下げました。


「いいえ、迷惑だなんてそんな事ありませんよ。千歳ちゃんも一生懸命頑張ってくれましたから……あ、これはお土産です」


 精霊術で作り出した亜空間から、精霊の領域で収穫したお土産用の農産物が入った籠を取り出して、シスターリディアへ手渡します。

 服の袖から、大きめな籠が出てきた事に驚いたのか、一瞬めを丸くしたシスターリディアですが、すぐに調子を取り戻して少し恐縮気味に「ありがとうございます」と籠を受け取ります。


 千歳ちゃんは色々な物を取り出す度に、手品を見るような興味津々な目で私の服の袖を見ていましたが、種が割れれば何の事は無いただの空間創造系の精霊道具なのです。

 服の袖から出している様に見せるのは癖と言いますか何と言いますか……手品みたいに果物とかを出して手渡すと、小さい子が喜ぶんですよね。それが嬉しくて何時の間にかこんな風に物の出し入れをするのがデフォルトになってしまいました。


「それと、この子を」 


 何時の間にか私の服の袖に隠れていたあの子に「頑張って!」と小声でエールを送って、差し出されたシスターリディアの掌にあの子を乗せます。


「この黒いモノは……影の精霊?」


 大きすぎて一瞬何だか分からなかったのか、シスター2名があの子と目が合った瞬間に若干声を上ずらせます。


「お話を聞いてあげてください。大方の事情はそれで分かる筈ですから」


 ……お話し出来るでしょうか? 震えを通り越して完全に固まっているんですけど。


「えぇと? わ、分かりました」


「ああ、了解した」


 動揺しつつも、頷くシスターさん達。これなら、あの子の事は心配せずとも大丈夫でしょう。


 ……最後に1つ。お願いとアドバイスを残していくとしましょう。


「どうか、最後の天使と子供達を大切にしてあげて下さい。……あなた方が過去に追いつかれて向き合う事となるその日まで」


 唖然としてする彼等にカーテシーをして、ドレスを翻し翼や円環が展開しないようにふわりと浮き上がり、風に混じってその場から姿を消します。


 シスターさん達は色々聞きたそうな顔をしていましたが、これ以上はルール違反。

 それに私達とて知りうる事は限りなく少なく、どうしてそうなるのかも集めた情報からの憶測でしかありません。

 けれど私達の推測が正しければ、そう遠くない未来で、彼らにも私の言葉の意味が分かる時が来るでしょう。


 あぁ、どうか、何もして上げられない私達の代わりに、その日が来るまで私達の天使を守ってあげてください。

 それが、あなた方の苦悩と後悔に終止符を打ち、その先で多くの悲しみの連鎖を断ち切る希望の光りの1つとなるのですから。

来週も多分、金曜~月曜の間に更新します。

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