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白の転生譚  作者: 優音 乙菜
第一章 教会
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旅の準備 2

いつの間にやらブックマークが100件を超えておりました。

トロい連載にも拘わらず、暖かく見守り応援してくれる方に感謝いたします。

by 優音

 騎士さん達が教会を発って十数日。この間は、旅に出るための色々な準備をして過ごしました。

 先ずは、教会の屋根の補修・補強に掃除や洗濯。次に、教会に宿を求めてやって来た人の為の薬の調合。そして最後に、留守の間適切に管理出来ない貴重な調合材料を山椒魚さんに預けて、取り敢えずの旅の準備は完了。


 後は、教会の留守を預かってくれると言う人が来てくれるのを待つ間に、各々が旅行中に使うお小遣いを確保する為に――自分達で稼いだお金を使って買い物をする実習があるので――それぞれが出来る金策を行う事となり、ハーシェとポルトは販売可能な素材の収集。そして僕とメイドさんは、薬学の実習を兼ねて、リズの花を加工して香水を生成する事となりました。


「……ふむ。ここまでは順調ですね、今までの成果がしっかり出ている様で安心しました」


 騎士さんが教会を発った翌日から作り始めたリズの花の香水。その下準備が終った香水を見てリディアが頷きました。


 下準備の工程は、清浄な水に満開に開いたリズの花のみを浸し、7日7晩掛けてゆっくりと成分を抽出し、成分の抽出が終ったら、抽出に使ったリズの花を取り出して、何度も丁寧に濾して不純物を取り除きます。

 そして、綺麗に濾した抽出液をフラスコに移し、約70℃のお湯で3時間程湯煎にかけます。

 すると、フラスコの底に緋色の液体が分離し始めるので、急いでフラスコをお湯から取り出して冷水に晒します。すると、フラスコの底に分離した緋色の液体は、リズの花本来の薄桃色に変化し、微かに甘い香りを漂わせ始めます。こうなれば、ここまでの工程は成功。


 案外簡単な様に思えますが、実際は、気象条件により変化する抽出の時間や、湯煎の際の温度調整とフラスコを振る回数等々、技術面での難しさと、何より運という不確定な要素も合わさって、その製作難易度は下手な魔法薬よりも格段に高くなっています。

 ただ、失敗した時の反応は非常に分かり易く、冷水に晒すまでの工程の何処かしらを失敗していれば、フラスコの底に分離した緋色の液体は、たちまちのうちに枯れ草の様な茶色に変化し、何となく苦いような香りを発し始めます。


 ……ちなみに失敗した香水は少し苦い様な香りはするものの、実は無害で飲むとほんのり甘い味がします。


「ここまでで半分はダメになっちゃったけどね」


 そう、半分も失敗してしまいました。こんなのは初めてお菓子を作ってクッキーをホームセンターで売ってる木炭の様にしてしまった時以来です……あの時は全滅でしたけど。


「……私なんて7割ですよ」


 メイドさんは、自分の分のフラスコを見て溜息を吐きました。


「安心して下さい、私もここまでで毎回3割ぐらいは失敗していますから。それに、私でも10本作って最後に1本でも完成品が出来れば御の字ぐらいな物なのですから、見習いの貴方達は気負わずに思った通りにやれば良いのです。それが次に繋がるのですから」


「「えー、それだと、僕(私)達のお小遣いはどうなるの(んですか)?」」


 そう聞くと、リディアはスゥーっと目を逸らしました。

 

「…………」

 

 まさかの沈黙。この状況での沈黙は正直言って最悪の答えを推定しているのとほぼ同義です。


「もしかして無しとか?」


「……嘘でしょ! 無しですか?」


 2人して、恐る恐るリディアの方を向くと、リディアは――


「いえ、今まで販売した薬の貯蓄分があるので、無しという事にはなりませんよ……無しという事には」


 と言って、リディアは何時も薬を販売したお金を入れている小さな巾着袋を取り出して、その中身を机の上に引っくり返します。

 すると、チャリン。という音を立てて5枚の銅貨が机の上に落ちました。


「中銅貨が2枚に小銅貨が3枚……つまりは23フィール?」


「えぇ、良く出来ましたね。23フィールです」


「少なっ!? これじゃ1食だって食べられませんよ!」


 お金を見てプルプルと震えていたメイドさんは、涙目になって机をバン! と叩いて抗議します。


「仕方がないじゃないですか、貴女達が作った薬は、消費した分の薬瓶を新しく買える程度のお金でしか薬を売っていないんですから」


 貯蓄分があると聞いて一瞬安心してしまいましたが、僕達の作った薬の販売価格は、販売した薬の入った薬瓶を補充できる程度。なので、そもそも貯蓄など出来る訳がないのです。

 恐らく、巾着袋に入っていた分も薬瓶が安かった時に残った分でしょう。


「じゃあこの香水作りが失敗したらお小遣いはこれだけって事?」


 目の前に転がる銅貨5枚を指差して言うと、リディアは静かに頷きました。


 そ、そんな……まさか、銅貨5枚……。幾ら物価が分からないからと言っても、今机の上にある額があまり多くない事ぐらいは分かります。

 そして、もしも失敗した時は、その多くは無い額をメイドさんと2人で分け合って買い物って事ですか!?


「それじゃ失敗なんて出来ないよ!」


 あまり多くない額が更に半分。1人当たり中銅貨が1枚に小銅貨が1枚……そして端数が小銅貨が1枚……。


「そうですよ! 気負わずなんて到底無理です!」


 何せ旅行中のお小遣いが懸かっているのですから、気負わずになど到底無理なお話。

 ハーシェとポルトは何だかんだ言っても、しっかりお金になる素材を集めて来るでしょう。そうなると、僕達だけお小遣いが銅貨2枚という事に……それは幾らなんでもあんまりです。


「だったら、気負って本気で成功させるしかありませんね」


「「ぶー」」


 メイドさんと2人してブーイングで抗議しますが、リディアは「あー聞こえなーい、聞こえない」と、そっぽを向いて次の工程の説明を始めてしまいました。


 そこからの工程は、とても難しい……というかシビアな分量調整や、タイミング調整が必要な感じでした。


 フラスコの底に分離した薄桃色の液体を別のフラスコに分けて、残った透明な液体に特別なレシピで作られた中級ポーションを数滴加えて、リズの葉を沈めます。

 すると、フラスコの中の透明な液体の色が、青・水色・黄緑・オレンジ・抹茶色……と、次々と瞬く間に様々な色に変化していき、最終的に透明に戻ります。なので、その途中で薄紫色になるタイミングを狙って、フラスコにカチンと指で強め衝撃を与えると、液体の反応が止まるので、薄紫色で反応が止まったらこの工程は成功です。


 そして、その後も色々と面倒な処理を繰り返し、最終段階まで残った香水は3人分合わせて何と12本。内訳はリディア3本、メイドさん1本、僕が8本。ちなみに、無駄にした香水の本数は108本。リズの花の採取量が多かった事もありますが、初めて作った人間が2人も居るのにこの数字は奇跡的な数字だそうです。


「……私が始めて作った時には1本も成功しなかったのに」


 リディアは、納得がいかない様なでも嬉しい様な複雑な顔をしながらゴニョゴニョと呟きます。

 そして、色々複雑そうな顔をして一声唸りを上げた後、「はぁ……」と1つ溜息を吐いて、最後の仕上げの説明を始めました。


「それでは、最後の仕上げを始めます。とは言え、最後は残しておいたリズの蕾を香水に入れて、日の光にれば完成です」


「「それだけ(ですか)?」」


 拍子抜けです。今までの工程を考えると、最後の最後はもっと小難しい事をするものだとばかり思っていました。

 

「えぇ、それだけです。綺麗なものですよ、今までの工程が全て成功していると、リズの蕾が薄桃色の中で花開いて、こう……見た方が早いですね。早速やってみましょうか」


 面倒だったのか説明を止めためたリディアは、リズの花が刺された桶から一輪の花を選び、まだ開く気配すら無い蕾の1つを取って綺麗に処理してから、未完成の香水が入った小瓶の中に慎重に投入します。すると、蕾は香水の入った瓶の丁度中央部分で沈むでもなく、それ以上浮かび上がるでもなく、上を向いて静止しました。


「で、日の光を当てると……」


 リディアは窓から差し込む朝の光を香水に当てると、香水の中のリズの蕾が日の光を吸収して淡く光を放ち、ゆっくりと花開き始めました


「うわぁ……」


「……綺麗」

 

 驚く僕達を見て、リディアはクスリと笑いました。


「綺麗でしょ? 実は他にもこんな方法もあるんですよ」


 そう言ってリディアは、まだ日の光に当てていない香水の瓶を机の上に置くと、その瓶に両手をかざします。


「今から見せるのは、魔法薬を作る為の手法の1つにして、自分の魔力を薬に注ぐ薬学の奥儀の1つ『魔力付与』です。……細かい説明はまたいずれにしますが、2人には絶対に習得して貰わないといけない技術なので、覚悟しておいて下さいね」


 そう言い終わると、リディアが瓶にかざす両手から、魔力と思しき赤い焔の様な揺らめきを放出し、香水が入った瓶に注いでいきます。

 すると、瓶の中のリズの蕾はリディアの手から放出された魔力を吸収して、リディアの魔力と同じ焔の様な紅蓮に染まり花開きました。


「凄い、さっきと花の色が違うよ」


 先程は、リズの花本来の薄桃色のまま蕾が花開きましたが、今回はリディアの両手から溢れ出した魔力と同じ色に花弁が染まっていきます。


「ですね、ですね! 一体どういう事ですか?」


「リズの花は本来は薄桃色ですが、魔力を吸収するとその属性に応じて花弁の色を変える特性があります」


「それで、リディアが魔力を注いだから色が薄桃色から赤に変ったって事?」


 リディアは頷いて肯定します。


「私が今注いだのは《焔》属性の魔力だったので紅く染まりましたが、これが例えば《影》の属性だと」


 そう言って、最後の1つの瓶を取り出して、先程と同じように両手をかざしまします。すると今度は《影》の属性でしょう漆黒の揺らめきが溢れ出し、香水が入った瓶に注がれて、その魔力を吸ったリズの蕾は、影の様に黒い花を咲かせました。

 

「何ですかこれ! 面白いですね!」


「うんうん! これ僕達がやったら何色になるんだろう?」


「自分が使える属性の色に変りますね。……ただ、この方法で蕾を開かせると売り物にはならなくなってしまうので、今回は普通のやり方でやったほうが良いでしょうね」


「何で?」


 そう聞くとリディアは、棚からポーションを取り出してリズの蕾を1つ投入すると、先程と同じように《焔》属性と思しき魔力を注ぎ始めました。

 すると、薄水色だったポーションは赤黒く変色し、中に入ったリズの蕾も「ジュッ!」という音を立てて真っ黒に燃え尽きて、灰となってポーションの入った瓶の下に沈んでしまいました。


「失敗するとこんな感じになります」


「なる程ー!」


「ここまで来てそれは悲しいですね……」


 という事で、僕達は通常の日の光に当てて蕾を開かせる方法で香水を完成させました。


 本当に販売してお金に換金出来るのは、大きな都市に行ってからとなりますが、リディアのお墨付きも貰えたのでお小遣いの問題はこれでクリアでしょう。

【リズの花】

 とても希少な花で、一株売れば最高級の宿屋に十数日間宿泊出来る程の値が付く。

 風の精霊が種を運ぶ事で萌芽し、花の精霊の力を借りて花を結ぶ。


【リズの香水】

高価なリズの花から生成される、これまた高価な香水。生成するには、技術と運が必要(工程の幾つかに、明らかに技術とか関係なく、運が必要な工程がある為)で、リディアですら、大体10本作って1本完成させる事が出来ればいい方。


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