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白の転生譚  作者: 優音 乙菜
第0章 再会の26時間
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願い 02

「あのぉ…」


 千歳は2柱の様子を窺いながら、小さく声を上げた。


「どうしたんじゃ?」


「…お願い事決まりました」


「ほう、早かったのぉ、してどんな願いなのか聞かせておくれ」


「はい、転生する前に家族に会わせてもらえませんか?」


「うーむ、それは……ちょっとー何というかのぉー」


 神は困った。それは、娘を命がけで助けてくれた千歳の願いは叶えてあげたいし、出来ない事はない。だが、一度死んだ人間をその家族に会わせるのは何かと問題が多いのだ。

 死んだ人間を家族に会わせた前例は有る。夢枕に立たせたり、幽霊として会わせたり、霊感のある人間を媒介にしたり。やり方は多い、だがどれもコレも、霊的素養がある事が前提条件になる。


 神も千歳を家族に会わせてやりたいのは山々だが。千歳の家族、主に父親には霊的素養…つまは霊感、コレが欠片も無いのだ。なので、千歳を家族に会わせるには今までとは違う方法をとらなければならない。そこが問題なのである。


「お願いします、どうしても会って伝えたい事があるんです」


「うーむ…」


「……いいじゃない、それくらい。出来るんでしょ?」


 女神は、無責任にもそう言い放った。自分が何かをする訳では無いので言うだけなら何とでも言える。


「いや……しかしのぉ、ほら…」


「……チッ、この甲斐性なしが、そんなだから奥さんと娘さんに愛想尽かされるんですよ」(ぼそっ)


 煮え切らない神に対し、女神は小さく舌打ちをした後、小声で神の事を毒づいた。

 最初こそ完璧な女神を演じていた彼女だが、ここに来て黒い何かが端々に見え隠れする様になって来た。


「!? おぬし今、舌打ちしたじゃろ」


 神は驚いた。この女神とは長い付き合いだが、女神がこんな事を言ったのは初めての事だったからだ。

 いや、今までも兆候はあった。時折顔を出す黒い笑みに、言葉の端々で的確に弱点を突いてくる棘。だが、今まで、そう長い時間会話を交わすことが無かったので、それはそれは気のせいと言う事になり、今の今まで流され続けていたのだ。


「ええ、しましたとも」


 女神は満面の笑みで肯定した。その顔はとても清々しく今まで出一番良い笑顔だった。その慈愛に満ちた笑みだけ見れば、まさに女神様と言って良いだろう。笑みだけ見れば……。


 そして女神は続ける。


「そんな事よりも千歳君」


「は、はい」


 千歳は若干気圧されながら答える。


「そんな事って……ブツブツ」


 女神は、ブツブツ言っている神をガン無視して話を続ける。

 千歳は、神の方を時折チラチラと垣間見ながら、女神の話を聞いていた。


「君を今から家族の下に送ります……この神が。

 実は君が亡くなってから、もう半年以上の時が流れていて、今頃は3月の終わり頃の筈です。今年は暖かかったのでもう桜が満開です。

 お花見でもしながら家族と話すのもいいでしょう……思い残す事が無いように家族に会って来て下さいね」


 千歳は、自分の眠っていた時間に少々驚きつつも、桜の季節に思いを馳せながら、2柱の神に感謝する。


「はい、わかりました。ありがとうございます神様、女神様」


「気にしないでください、もともと、こちらの都合で色々ご迷惑をおかけしているんですから。

 ほら、さっさと送ってあげなさいよこの甲斐性なし。ちょっとは甲斐性がある所を見せなさいな」


 女神の言葉が遂に辛辣さを隠さないストレートな物になっていた。もう黒い何かを隠す気すら無い様だ。


「分かったわい、だから甲斐性なしは止めてくれんかのう、傷つくわい。

 ……さて、千歳君、今から君を現世に送る…じゃが注意しておくれ。君が、現世に居られる時間は、26時間と少し。それがリミットじゃ…時間になる少し前に鐘を鳴らす。

 3回目の鐘が鳴り終えたら、君をこちらの世界に戻す、それを承知しておいておくれ」


 26時間と少し、これは神が千歳を現世に留めておける最長の時間であった。それ以上は神の力が周囲に与える影響が顕著に出始める。

 よい影響だけならば神もあまり気にしないが、ごく稀に悪い影響が出る事もあるので、影響が最小限で済む、この時間が千歳を家族に合わせたあげられる最長の時間だった。


「はい、わかりました、お願い…叶えてくれてありがとうございます。

 それと、あの…神様…元気出して下さい。それと奥さんと娘さん達と仲良くして下さいね、世の中何があるか分からないですから」


 千歳のは、妙に実感の篭った言葉を残して、光に包まれてこの場から消えた。

 そして、この場に残ったのは2柱の神のみとなった。


「あの子にも、おぬしの小声が聞こえておったようじゃのう。あの子は、おぬしと違って優しい子じゃ。"おぬしと違って"のう」


 神は、千歳の言葉を思い出し、女神を毒づく。どうやら女神に毒づかれた事を根に持っているのだ。


「あら、私も十分優しいと思いますよ。もし貴方がここで千歳君を現世に送れないなんて言い出したら、あの人(奥さん)は貴方を見限って実家に帰って居たでしょうね」


「……………」


「でも、今回の事で少しは見直してくれるんじゃないですか?」


「え、本当に? 嘘だったらわし傷つくから、嘘だったらおぬしと一生口効いてあげないんじゃからね」


「待遇が変わるかは分かりませんよ。あと、気持ち悪いです」


 同感だ。だれも年老いた神のツンデレ台詞など聞きたくはない。


「なんでじゃ!? 見直してくれるんじゃなかったのかのぅ」


「貴方が冷遇されているのは、甲斐性が無い以外にも別の理由があるのですよ。あと、気持ち悪いです」


「なんじゃと! 教えてくれ、教えてくれぇぇ、わしは早く帰宅困難症を治したいんじゃ。結婚当時の関係を取り戻したいんじゃ。休日に家にいると妻に舌打ちされる現状を何とかしたいんのじゃぁーー」


 神界では割と有名な話だが、神は帰宅困難症だった。今は月1で精神科とカウンセリングとアニマルセラピーにも通っている。


「そうなった原因は貴方にあるのですよ。胸に手を当てて、貴方が奥さんにプロポーズしたときの言葉を思い出しなさい」


「なッ……う、うむ」


 神は「なぜ、わしのプロポーズの言葉をお前が知っておる!?」と、言おうとしたが止めた。彼には、そんな事よりも知らなければならない事がある。妻と娘に冷遇されている理由だ。


 神は自分の胸に手を当てて、妻にプロポーズした日の事に思いを馳せる。だが、彼は自分が言ったプロポーズの言葉を一向に思い出せなかった。


「思いだせん。ダメじゃ、思いだせん、どう頑張っても思いだせん…。頼む、教えてくれ、わしは一体なんと言った、妻にどうプロポーズしたのじゃ、おしえてくれぇッ!!」


「ぺッ(コイツ、…本気でこんな事を言ってるか、だったら、あの優しい奥さんがコイツの事を冷遇するのも当然です、あの有名なプロポーズを忘れたとか…ゴミですね)」 


 神は、女神に縋り付きながら懇願した。それを見た女神は遂に唾まで吐き捨て、まるでゴミ屑でも見るような目で神を見て、神に対してある言葉を呟いた。


「100万本のバラ」


「…はっ」


 神は、その単語を聞いた瞬間全てを思い出した。……だが、女神は止まらない。神の妻である、その人と友達である女神にとって、この神の印象は極めて悪いものだった。

 だから、友人である奥さんに代わり、神に対してお灸を据える事にしたのだ。


「結婚記念日には1千万発の花火」


「ぐはぁ」


「誕生日には時の皇帝ですら驚くような、パーティーを」


「へぶっうん」


「子供が生まれたら、家族皆でピクニック」


「のっぷす」


「子供の誕生日には「も、もうわかった、全て思い出したから……」」


「いえいえ、まだまだありますよ、何せ貴方のプロポーズだけで小説が3冊書けるほど、情熱的で感動的なプロポーズでしたので。

 それが今では、1千万発の花火どころか、結婚記念日を忘れ。妻と子の誕生日すら忘れていた……」


「そ、それは……」


「言い訳ですか? ……あぁ、貴方の奥さんと娘さんが可哀相でなりません。誕生日ですら貴方は、早く帰って来るでも無く飲み屋でダラダラ、ダラダラ……。

 2人ともさぞ寂しい誕生日を過ごした事でしょうね。娘さんなんて、お父様に誕生日を忘れられていたのです……実は心の中では泣いていたかも……」


 女神が毒を吐いていたりした理由はこれだ。友人からの夫に対する愚痴を聞き、女神は密かに神に対して怒りに似た感情を募らせていたのだ。


「クッ……わしは、わしはッ。最低の屑野郎じゃ、妻と娘に冷遇されても仕方ない、最低の男じゃ……」


 ついに神は、泣き出してしまった。自業自得である。


「泣いている暇があったら、花屋にでも寄って家族の所に行ったらどうですか? 今は娘さんが居ないらしいですけど、奥さんは居るのでしょ?」


「そうじゃ、泣いてなどいる暇は無い。すまぬがわしはこれで失礼する」


「はいはーい、奥さんに宜しくお伝えくださいな」


「うむ、ではッ」


 神は、女神をその場に残し何処かへ走り去っていった。きっと、この後花屋にでも寄って、奥さんの所にでも行くのだろう。


「さて…私はどうしましょう?千歳君の様子でも見ていましょうか…それとも、あのゴミ屑の様子でも……」


 散々毒を吐いて少しスッキリした顔の女神は、今後の行動方針を考えていた。


「まぁ、どちらも部外者が面白半分で見て良いものではありませんね。今回は自重して大人しくしていますか……」


 女神としては、どちらも気になったようだが、今回は大人しくしている事にした。流石に友人の家庭の事情に突っ込みすぎるのも良くは無いし、千歳の方は元より覗き見る積もりなど無かった。

 純粋に見守り必要なら、フォローをする積もりで居たのだが、それは無粋だろうと思い至ったのだ。


「まぁ、円滑に事が運ぶようにしておきましょう。本当はあのゴミ屑がする筈の仕事なのですが……まぁこれで貸し2つですね」


 ……数時間後には、この世界の神界を徘徊する女神の姿が多くの神々に目撃され、神界で大きなニュースになった。

ちょっとした事情があり、世界どうしが同盟を結んでいるので、同盟世界のトップたる女神はこの世界では割と有名人なのだ。

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