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白の転生譚  作者: 優音 乙菜
第一章 教会
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閑話 放置の裏で

前の話より少し時間が遡ります。

 ―メイドさん―


 行商人の方から聞いた、今巷で話題の『睡眠学習』と言うのを試して見ようと、気絶した千歳ちゃんの耳元で「貴女は立派な淑女(レディ)~貴女は立派な侍女(メイド)~」と吹き込んでいたら。大森林の主に「おい、小娘。チビの欲しがっていた物を取りに行くから手を貸せ」と、助力を頼まれ、森の奥へ。


 それから、魔境と呼ばれる大森林の奥地へ向かって、とても人が歩くような道では無い獣道を歩き続け。目的地に着いて、目的の物だと言う壷と箱を回収したら、休む暇も無くすぐに下山です。


「大森林の主よ、この壷重いんですけど。疲れました」


 泉を出発してかれこれ1時間。行きは、道なき道を開拓しつつの軽い登山で帰りは、何かずっしりと重たい壷を持っての下山です。

 箱と壷、箱の方は大森林の主が頭の上に載せて器用に運んでいますが、壷の方は、流石に安定性が悪いと言うことで私が持って山を下りる事に。

 この壷、妙に重いんですよね。一体何が入ってるんでしょう?


「体力が無いのぉ、と言うかその呼び方は止めい」


「だったら何とお呼びすれば?」


 千歳ちゃんは『山椒魚さん』ハーシェちゃんとポルト君は『山椒魚のおじさん』シスターさん達は『翁』と呼びます。

 なので、私は大森林の主と言う通り名で呼ばれているこの両生類の名前を知らないのです。


「山椒魚でよかろう?しっかりとした名前もあるが、教会に住む者達の間ではそれで通っておる」


 誰が呼んだか山椒魚。それは名前とかそういう感じのアレでは無く、分類学上の呼び名です。でも御本人がソレで良いと言うのですから、そうお呼びしましょう。


「山椒魚、疲れました。背中に乗っけて下さい」


「おい、いきなり扱いがぞんざいにならんか?」


「ハッハッハ、気のせいですよ」


 そう言いながら、長時間山中を歩いた御陰で乾ききった山椒魚の背中によじ登ります。

 まぁ!、意外ときめ細かいお肌。山椒魚の肌は意外ときめ細かく、驚く程すべすべな触感でした。


「はぁ、全く…まぁいい。ワシの背に乗るならついでにこれも持っていてくれ」


 そういって山椒魚は、頭の上にあった箱を、背中に乗った私に投げて寄越しました。私はソレを慌ててキャッチします。


「くれぐれも落さん様に丁寧に扱ってくれ。この世に3つしかない物の1つじゃ。その中には大森林でのワシの300年間の努力の成果が詰まっておる。それに何よりとても市場では価値が付けられん様な貴重な品じゃ」


 価値が付けられない?それはでは、この中には国宝級のお宝が入っているとこの両生類は仰るのですか?こんな山奥にそんな貴重な物が?


「それは気になりますね。…空けてみても?」


「無理じゃな。その箱はそう簡単には開けられん。恐らく屈強な男30人が一斉に剣で切りつけようと傷1つ付けられんじゃろうな」


「それはまた頑丈な」


 見た感じはタダの木箱なのですが、剣でも傷1つ付けられないとなると、私では到底空ける事など出来ないでしょう。

 しかも屈強な男30人掛りでもダメとなると尚更です。私はか弱い乙女ですから。


「じゃあ、千歳ちゃんでも空けられないんじゃないですか?」


 千歳ちゃんは、私よりか弱い乙女です。なので私が無理なら、私よりか弱い千歳ちゃんが箱を開けられる筈がありません。


「それは大丈夫じゃ、空ける必要など無いからのう」


「は?空けないと中身を取り出せないのでは?」


 中身の何かが重要なのに、箱を空ける必要が無い。意味が分かりません。謎掛けでしょうか?


「中身を取り出す必要は無い。っと、そろそろ行くぞ。力量の差も分からん雑魚が集まって来とる。その箱と壷を落さんようにしっかり持っておけ」


 そう言って山椒魚は凄い勢いで山を下り始めました。ですが、不思議と背中に乗っている私には衝撃や揺れは来ません。


「凄いですね。全く揺れませんよ」


 箱への疑問も何処へやら。凄い速度で山中を駆けているのにも関わらず、何故か揺れない山椒魚の背中への驚きと賞賛があふれ出します。

 これに比べたら箱への疑問など、瑣末なもの。何故揺れないのでしょうか?馬の背ですら揺れるのに、山椒魚の背は全く揺れるどころか衝撃や振動・風圧すらありません。


「当たり前じゃ。聖女様方をお乗せするのだぞ?揺れぬなど最低限の配慮じゃ」


「えー聖女様って山椒魚の背中に乗って各国を移動して居たんですか…うわぁ…ショックです」


 山椒魚に跨り、各国を旅する聖女様。…何かこれじゃ無い感が半端じゃないです。聖女様の可憐で清楚で神秘的なイメージとは全く異なります。

 確かに聖女様が龍種何やらを従えて、その背に乗って旅していたと言う記録もありますが、流石に山椒魚がその龍種とか…何かイメージと違いますね。


「何か勘違いしているようだから1つ言っておくぞ。この姿は泉で暮らすための姿であって、本来の姿は漆黒の地龍の姿じゃ」


 それはそれで、これじゃ無い感が…。

 聖女様方はもっと相応しい神聖なイメージがある生物に乗って移動していて欲しかったです。


「おい、何か言わんか」


「いえ…私の中の聖女様のイメージが」


 確かに、龍種と言えば、最強種の一角を担う神聖な種族です。誇り高く気高い、伝説上にも何度も登場する様な種族ですが。漆黒の地龍は、私の中にある聖女様のイメージとマッチしません。


「聖女様には、ホーリードラゴンとかペガサスとか、フェニックスとかに乗って移動していて欲しかったです」


「確かに聖女様の中には御主の言った者を従えていた御方もおった…じゃがなぁ」


 居たんですか!!良いですね、良いですねぇ、希望が蘇って来ましたよ!


聖龍ホーリードラゴンは聖女様が大好きすぎて人型に進化し、ペガサスは腰痛持ち、フェニックスに至っては誰かを背に乗せて運べるほど大きくは無い。

 他の者達も色々問題が有って誰かを運べるような状態では無い。つまり、ワシ以外は誰も聖女様を乗せて移動できる状態では無いのじゃよ」


「うわー、何さ腰痛持ちって、私の夢と憧れ返してよ」


 ガラガラと音を立てて崩れていく私の中の聖女様像。記憶喪失の中でも残っていた知識と共にあった憧れは、無残にも現実を知る山椒魚によって砕かれてしまいました。

 酷すぎる、ホーリードラゴン何で人化したし、ペガサスも何で腰痛?…フェニックスにはもう少し頑張って欲しかった、せめて人を乗せられるぐらいに成長しましょうよ…。


「そうは言ってもな…そう言えば。闇龍ダークドラゴンの嬢ちゃんは…あぁ、ダメじゃ、あの嬢ちゃんは人を乗せるのは苦手じゃった」


 話しに聞くだけでも龍種が3体…最強種と言っても、その強さはピンからキリまで。普通の翼竜ワイバーンクラスの強さの者から、最強種と呼ばれるに相応しい強さの者まで。

 とは言え、龍種の中でも最も弱い者と同程度の強さを持つ、野性の翼竜ワイバーンでも、討伐するには中堅の冒険者が10人から20人程度がパーティを組んで挑む必要があります。


 と、まぁ。龍種が3体と聞けば凄いように聞こえますが、Aランクの冒険者の方なら、翼竜ワイバーンを単独で討伐すると言いますし。

 その上のSランクの冒険者ともなると、最強種にも迫る強さと言います。


 あぁ、世界って広いですね。私が記憶喪失なのがどうでも良くなってしまう程度には。(呆れ)


「何か碌な方が居ませんね」


「おい、待て。その言い方だとワシもその『碌でも無い』の中に含まれて居る見たいではないか?」


 何を言っているのでしょうか、この両生類は?


「いや、だって山椒魚じゃないですか。とても最強種の一角を担う龍種には見えませんよ」


 だって山椒魚ですし。見た目的には翼竜ワイバーンに狩られて食べられる生物ですね。

 ですが、魔境と言われている大森林の奥地を武器も持たずに歩いていたのに、一匹の魔物にも遭遇しなかった。となると、この山椒魚の力は本物なのでしょう。でも、そうは見えませんからね。実際。


 なんと言うか、威厳が無いのです。喋り方こそ尊大なものの、その実あまり相手を威圧しないように気を使っているようですし。瞳は円ら、身体は触っても怪我1つしないきめ細かい肌。指から生える爪も、子供服を揉み洗いできる手入れされています。

 口を開けば牙が覗きますが、それも、上から落ちてくる子供をキャッチしても傷1つ付けない程度には鋭くありません。良い言い方をするならば親しみがある姿です。


「ソレを言われると何も言えんな。だがワシは他の龍とは違い、割りと自由に姿形を変える事が出来るからのぉ。何なら今ここで本来の姿に戻って見せてやっても良いぞ」


「別にどうでも良いです。と言うか、そんな姿になって泉に戻ったら多分ハーシェちゃんもポルト君も気絶しますよ」


 それに、見たくも無いですしね。興味無いです。これ以上私の憧れを壊すのはやめて欲しいのです。


「それは良くないな、止めておこう」


 そんな会話をしながら、来た道を下っていきます。

 泉まではもう少し。…千歳ちゃん催眠学習の事怒ってないと良いな。

最初の頃よりメイドさんがフリーダムに。

おかしいなぁ、最初はもっとゆるふわなキャラになる予定だったのに…。

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