表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白の転生譚  作者: 優音 乙菜
第一章 教会
28/67

メイドさんと 03

 ファーリシア大森林に数ある水源の中でも、教会から程近い位置にあり、ある程度の広さがある泉がある。

 そこは正式な名前すら無い様な場所ではあるが、教会に住む者にとっては馴染み深い場所で、気温が高い季節には水浴びの場として割と頻繁に利用されている。

 

 ただ1つ難点を挙げるとしたら、常に滾々と湧き出し、夏の陽気で温まる前に泉から流れ出していく水は非常に冷たく、常に0℃近い温度をキープし続けている。

冷涼で清浄と言えば聞こえは良いが、決して温まらない0℃近い水を湛える泉は、とても水浴びに向いている場所とは言えないだろう。


 そんな冷涼な湧き水が絶え間なく湧き出す透明度の高い泉の畔で、譲れない物を守る千歳と、ソレを奪おうとするメイドさんの戦いが繰り広げられていた。


「千歳ちゃん、大人しく服を脱を剥がれて泉で水浴びをして下さい」


 そう言うメイドさんの手には、パンツ以外の千歳の服と、先程まで千歳の手足を拘束して居た蔦が握られている。

 千歳が今見に纏っているのはパンツ1枚のみ、他の服はメイドさんによって剥がれてしまったのだ。手足の拘束を解かれた千歳が、本気で服を脱がせに来たメイドさんから、何とか下着一枚守りきれたのは奇跡と言えよう。


 だがしかし、現在進行形でそのパンツは狙われている。

 ジリジリと迫り来るメイドさんと、ジリジリと後退する千歳。もう勝負は見えているのに、何とも無駄な抵抗である。


「嫌だっ、だって足の付かないとこに行ったら溺れちゃうもん!!」


 千歳は泳げない。運動全般が苦手な千歳は、ソフトボールをすれば、バットにボールが当たらないのは勿論の事、守備になれば「千歳の所にボールが飛べばランニングホームラン」と言われ、競歩なら時間切れか最下位付近。マラソンなら途中棄権がデフォルト。水泳なら、足が付かない場所では当然の様に溺れる。


 努力はしている。だが、何故なのか幾ら努力してもバットにボールは当たらないし、キャッチボールのボールですら10回に1回程度しかキャッチ出来ない。

 幾ら走っても体力が付かないし、足も速くならない。泳ぎに至っては絶望的だ。幾ら頑張っても周りからは溺れているようにしか見えない。


 それ以前に、プールに練習に行って、男子更衣室に入ろうとすると係員や他のお客さんに必ず止められる。

 そして毎回ひと悶着あって(主に水着的な方向と更衣室的な意味合いで)、いよいよ泳ぐ練習となっても、練習開始直後には監視員の方々と一般のお客さんの熱い視線が(悪い意味で)集まる。

千歳は普通に町を歩いて居ても10人中10人が振り返るような容姿をして居るが、プールに居る時だけは、別の意味で視線が集まるのだ。


 本人は至って真面目にバタ足やクロール、平泳ぎ等の練習をして居るのだが、周りの人から見れば、溺れているのかそれとも泳いで居るのか怪しい感じなのだ。

それでも足が着く場所ならまだ良い。足が着く場所なら辛うじて前に進んでいるし泳げている。周囲の人も声を掛けて良いものかどうか悩む程度には前に進んでいるし何とか泳げている?

だがそれは足が付く場所だからで、足が着かない場所に行けば話は違う、ガチで溺れるのだ。


「だからって水浴びをしない理由にはなりません…よっ、っと」


 メイドさんは、強く地面を蹴ると、千歳の元まで一気に駆け寄り、千歳を右脇に抱えてそのパンツに手を掛けた。

傍目から見ればその動きは素人に毛が生えた程度の動き。だが、千歳を捕獲してパンツを剥ぎ取るには十分すぎる動きだった。


 そして、メイドさんは千歳のパンツを剥ぐと、そのまま千歳を泉の中に投げ入れた。


「…へ?」


 千歳は、何が起きたのか分からないようなキョトンとした顔をして泉の中心部に向かって宙を舞って行く。

 その光景を眺めていたメイドさんは、宙を舞う千歳を見ながら最初の内はその光景を呆然と眺めていたが、次の瞬間からは段々とハッとした表情に変わっていった。


「あ!…しまったー、つい…千歳ちゃん泳げないって言ってたっけ…」


 メイドさんは慌てて千歳の落下予想地点を見ると、そこには巨大な山椒魚っぽい生物が大口をあけて待機して居た。


(…あれが噂に聞く大森林の主ですか…想像してよりも何か可愛い感じですね)


 メイドさんはリディアに聞いていた話を思い出しつつ、目の前の山椒魚の口に向かって落下していく千歳を見ていた。

 そして、山椒魚は山椒魚で口で千歳をキャッチした後は、メイドさんの方に向かって泳いで来る。


「おい、小娘。このチビは泳げんのだぞ?さっきチビが自分でいっとっただろう?これでチビが泉に落ちてくるのは3回目じゃ。いい加減にしてやれ」


 山椒魚は千歳を咥えた状態で何やら喋りだした。千歳を咥えたままの口をモゴモゴ動かして器用に喋っている所を見ると、結構喋るのは得意らしい。フィーリングもバッチリだ。


「え?、あ、はい」


「何とも気の抜けた返事じゃな。まぁ良い小娘、ここへ。近こう寄れい」


 メイドさんは困惑した。知識に有る限りでは有るが、人の言葉を理解し喋るモンスターは【インテリジェンスモンスター】と呼ばれる特殊な魔物か、高位のドラゴンや、永い永い時を生き抜いた魔物ぐらいな物である。そのどれもが、他を大きく付き話す程強い力を持ち、中には人に対して友好的な者も居ると言う知識もある。

 そして、現在目の前に居る巨大な山椒魚っぽい生物も、その類の存在だとシスターリディアに聞き及んでいる。


(でも実際に見てみると…ガッツリ山椒魚ですねー。と言うか千歳ちゃんがさっきから動かないのは何故なんでしょう?)


 ファーリシア大森林の主を目の前にして、何か失礼な事を考えているメイドさん。幾ら見た目が山椒魚でも目の前に居る存在は一応大森林最強の存在である。


「おい、小娘ー、小娘ー…。小娘よ?」


(あー…白目剥いてますねー、あれは気絶してますね、絶対)


 山椒魚に咥えられている千歳は白目を剥いて気絶している。

 毎度の事だが、山椒魚が泉に落下してくる千歳をキャッチする頃には、千歳は必ず気絶している。


「小娘よー」


 山椒魚がメイドさんの目の前で短い前足をしきりに動かして反応を確かめて「気絶でもしとるのか?」等と語散りながら右前足をメイドさんの目の前でしきりに上下させている。


「あ!はい」


 思考するのが面倒になったメイドさんは、正気の平常運転モードに戻り、目の前で上下する山椒魚の前足に気が付き反応を見せた。


「ようやく気が付きよったか…。早ようこっちに来てチビを受け取れい。顎が疲れるし喋り難いわい」


「そうでしたね、(うち)の千歳ちゃんがどうもご迷惑をお掛けしました」 


 山椒魚はその言葉につぶらな瞳をぱちくりさせながら「原因はお前じゃろうて…」と小さく呟きながら、メイドさんに千歳を引き渡した。


 そして、山椒魚は矢継ぎ早に「で、小娘よ」と続ける。


「チビが気絶しとる間に早よ丸洗いしてしまえ。今なら抵抗もせんじゃろう」


 右前足で千歳を指して、洗濯物でもするかの様なモーションを見せる山椒魚を目の前に

メイドさんは(以外に面倒見が良いですね)とか(器用なものですね、まさかあの短い指があんなに良く動くだなんて)と何か違う事を思ったりして居たが。実に的を居た意見だったので、山椒魚の意見に同意して、千歳を泉に浸して丸洗いを始めた。


「時に、小娘よ」


 千歳の隣で、千歳の着ていた服を洗濯する山椒魚が数分の沈黙を破ってメイドさんに話しかけた。長年、大森林で1人隠居生活を送ってきた山椒魚にとって、見知らぬ者との沈黙状態と言うのは殊の外居心地の悪いのだ。 

 そして話しかけられたメイドさんは少し驚きつつ反応した。


「はい?」


「最近お主を良く見掛ける様になったのじゃが、どうしたのじゃ?」


 山椒魚の言わんとする事が、メイドさんには何となく理解する事が出来た。

 メイドさんは、孤児院を出る歳の頃であるにも関わらずここに居る。そして山椒魚の記憶が正しければ、シスター2名が大森林の教会を使い始めてから聖職者の増員は一度たりとも無かった筈だし。これからも増員があるとは考えられない。なので、シスターではない筈だ。


 つまり、孤児院の子供でも無く、増員のシスターでも無い。ならば一体何なのか。という話だ。


「私は記憶喪失ってヤツなんですよ。何か魔物に襲われたみたいで」


 実際の原因はまた別の所にあるのだが、大本の原因はそれだ。


「ほぅ、それは災難じゃったな」


「そうですねー、でも記憶を失う前の私は剣1本で魔境に挑む様な無謀な若者だったようですし。もしかしたら記憶を失ってよかったのかも知れませんね」


 実際はそんな感じでは無かったのだが、命を捨てるような無謀な戦いだったのは事実だ。


「ならば記憶を取り戻したくはないのか?」


「うーん、取り戻したい気持ちも有るんですが、それ以上に、記憶を取り戻したら今の私が消えちゃう様な気がして怖いんですよね」


「ふむ…コレをくれてやろう」


 山椒魚は自分口の中に右前足を突っ込んで何か透明な宝石が付いた腕輪の様な物を取り出し、メイドさんに差し出した。


「…何か粘ついてません?ばっちいです」


 メイドさんは、銀の色の腕輪に透明な宝石と金の装飾があしらわれた腕輪を山椒魚から受け取り素直な感想を述べた。 


「失礼な、それは我が主で在らせられる大地の聖女、ミリア様から賜った品の1つぞ。それにワシの唾液は薬にもなる、粘ついてはいても決してばっちくなど無いわっ!!」


 メイドさんはその話を聞きつつ、泉で腕輪を念入りに洗う。


「何か凄そうですね、でも良いんですか?そんな物頂いても」


「気にするでない、ワシはもう身に付けられるほど小さくは無いからな。それに主もその方がお喜びになられる」


 腕輪を見つめて何かを懐かしむように山椒魚は呟いた。


「なら、遠慮なく頂いておきます」


 洗い終わった腕輪を天に掲げてから腕に嵌めた。すると、透明だった宝石は段々と新緑の色に染まっていく。


「良いか?その腕輪は所有者の記憶を蓄える特別な魔法が刻まれた石が使われておる。もしも御主が記憶を取り戻して、今の自分を失ってしまってもその石に刻まれた記憶は永遠に消える事は無い、だから安心せい」


「消える事前提ですか?」


「もしもの話しじゃ、消える保障は無い。じゃがそれが有れば少しは安心できるじゃろう?」


 メイドさんは少し考え込んだ後、「まぁ確かにと」と頷いて荒い新緑から色が落ち着いて若草色に染まった腕輪の宝石を見た。

美しい色に染まった宝石は日の光を反射して淡く輝いている。その若草色は彼女の色。誰の色とも違う彼女だけの色だ。


「時に、小娘よ。先程からチビの振るえが止まっているのだが大丈夫なのか?」


 気が付けば、メイドさんと山椒魚が話している最中、ずっと放置気味だった千歳の身体の震えが何時の間にか止まっていた。


「あー不味いですね。取り敢えず水から上げて日に晒しておきますか」


 千歳は泉の畔の日向に置かれて天日に晒された。

だんだん主人公の扱いがぞんざいになっていっている気がします。

まぁ、しょうがないですよね。主人公ですし。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ