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白の転生譚  作者: 優音 乙菜
第一章 教会
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教会の日常 05

彼女の治療が終わってから数日が経過した。彼女の傷は危険な状態から脱し、千歳が懸念していた感染症も幸いにして毒性の弱いもので大した症状は現れず、傷の化膿と炎症、高熱だけで済んだ。そしてその症状も今では快癒に向かっている。それもこれもシスター達が寝ずに看病し、眠っている彼女に半ば無理やりフィルの実を摂取させ栄養状態を良好にして、あらゆる手を尽くして彼女の体力回復に努めた御陰であろう。


 そして、彼女の体調が安定した事もありシスター達に精神的及び時間的余裕が出来た。


 なので千歳は…―――時間的余裕が出来たリディアに事情聴取と言う名のお説教を受けている。


 千歳が彼女を教会に連れてきた夜に「もりのなかでみつけたの」と口走ったのをリディアはしっかり覚えていたのだ。

 リディアはその時の事を聞こうと千歳に事情聴取し、リディアに色々聞かれた千歳は「キノコを狩っていて森の奥まで行ってしまった時に偶然彼女を見つけた」と言う感じの事を喋ってしまったのだ。

 

 そして、千歳が言い付けを破って森の奥まで行って居た事がリディアにバレて「森の奥に行ってはいけない」と言う言い付けを破った千歳に対するお説教が始まったのだ。


「で?千歳は森の奥で彼女を見つけた訳ですね?」 


「…は、はい」


「そうですか、そうですか。私達があれほど森の奥に言ってはいけないと言って約束して居たのに、約束は守られなかった訳ですね…悲しい事です」


「ご、ごごご…ご、めんなさい」


「別に怒っては居ないのですよ。ただ、しっかりと反省しているのかと…(長いので1時間ほど中略)」


 と、千歳が起床してから数時間余り、この調子でずっとお説教が続いている。普段は程々の所でシルバが止めるのだが、今日は千歳が連れてきた彼女の看病の為に、お説教を止める人間が居ない。

ちなみに他の子供2名はお説教のとばっちりを恐れて外に遊びに行ってしまった。当然、森ではなく、教会の庭にである。その事で誰かが説教を受けている最中なのに、森の方に行く様な無謀な行いを好んでする者はこの教会には居ない。


「……だから森の奥に行ってはいけないと常々言ってあったでしょ?―――クドクド、クドクド(長いので更に30分ほど中略)」


「ごごご、ごっご、ごめんなさい」


「だから怒っている訳では無いんですよ?ただ、今度は森の奥に行かないように森の奥に行く危険性を説いているのです。

 教会の傍は安全ですが、森の奥には危険な魔物が―――(長いので3時間ほど中略)―――と、言うわけで今後森の奥には不用意に近づかない様に。分かりましたね?」


「…はい」


「よろしい、ではご飯しましょうか」


 千歳はお説教が終わりで、これからご飯と聞いて心底喜んだ。実は千歳、今日は今朝から何も食べていない、朝起きて眠気まなこを擦りながら部屋から出た所で運悪くリディアと遭遇しそのまま事情聴取が始まり、千歳が要らん事を喋ってしまったばっかりにその場に正座させられて、お説教が始まったのである。

 

 そして部屋から出た先は当然の如く廊下。季節は初春、しかもリディアのお説教はこれでもか!と言う程長い。本日のお説教は、硬い・痛い・冷たい・話しが長い・お腹すいた、の豪華5大特典付きスペシャルコースのお説教だった。

 普段から炊事場の竈を使おうとしてお説教されたり、包丁を使おうとしてお説教されたりする千歳ではあったが、本日のお説教は特に長く精神的にも肉体的にも厳しいお説教であった。まぁ、言いつけを破って森の奥に行ってしまった千歳の自業自得である。

  

「しすたー…」


「どうしたのですか?」


「あ、あしがしびれて…たてない…」


 普段から正座を苦としない千歳だが、早朝からずっと正座をして居たのだ。それは足も痺れるだろう。


「あー…ごめんなさい、そう言えばずっと正座で大変だったわよね。私は彼女のに薬を飲ませて来るからゆっくり食堂に移動すると良いわ」


「はーい」


 そして、リディアは彼女に薬を飲ませ容態を確認しつつ、ずっと彼女の看病をして居たシルバと、千歳の話した彼女の事について情報の共有をして居た。

とは言っても千歳に何か確信的な情報を期待していた訳では無い。精々、森のどの辺りで彼女を見つけたのかと、見つけた時の状態などを簡単に聞いた程度だ。1歳の子供に期待する情報などあまり多くは無いのだ。

 そして、千歳が要らん事を口走ってしまった後は、ずーーーーーーーーーーーーっとお説教をが続いた。それこそ、「どうしてそんなに長く話せるのだろう?」と礼拝堂の扉の影からお説教の様子を見つめていたハーシェとポルトが感心するぐらいには。


「で、午前中はずっと千歳と話していたんだろ、彼女の事について何か分かったか?」


「どうも彼女は森の奥で倒れて居たらしいですよ、全く森の奥には行ってはいけないとあれ程普段から言って聞かせていたのに」


 リディアは千歳が森の奥で彼女を見つけたと聞いた時、心臓が止まるような思いだった。

 ファーリシア大森林の奥地は魔境と呼ばれている。熟練の冒険者達が大森林の奥地に行くのを敬遠する程に、強力な魔物が大量に生息している。しかしながら森の浅い場所なら大して魔物も出現しないし、強力な魔物が出没する為に、ある意味で魔物より厄介な盗賊や人攫い等は全く出没しない。なのでファーリシア王国とベルナード王国を繋ぐ道として、行商人や旅人そして貴族や国の要人達が良く利用している



 教会は大森林奥地の手前にある。この教会の周囲は色々な理由があって魔物は滅多に魔物は近寄って来ないが、他は違う。教会から離れれば離れる程魔物の出現率は増加し、森の奥に行けば行くほど強い魔物が生息している。そう、この教会は間違いなく危険地帯のすぐ傍に建っているのだ。まぁ、人攫いや盗賊が全く居なくて魔物が教会の近くに近づいて来ない事を考えれば、この教会は比較的安全と言えるのかも知れない。


 閑話休題


「まぁまぁ、お説教はもうしたのだろう?だったらもう良いじゃないか。千歳が森の奥まで行った御陰でこうして彼女は助かったんだ」


「お説教ではなく"お話"です………確かにそうですが、それでも危ない場所に行ったのは変わりが無いのですから、今後はその様な事が無いようにしっかりと言っておかないと…」


 と、シスター2名が何気ない会話をしているとベッドの方から声が聞こえて来た。


「あの…」


 それは消え入りそうな程小さな声だったが、シスター達が待ち望んだ声であった。

 そう、彼女が目覚めたのである。目覚めたと言ってもまだ貧血気味で力も入らずベッドから起き上がるだけでも苦労する様な状態なのだが、それでも意識だけははっきりしている。


「おお!気が付いたか」


「体調の方はどう?痛む所とか無い?」


「あ、はい。ちょっと熱っぽいけど他は大丈夫です」


「良かったわ、ちゃんと受け答えも出来るし体調の方も問題なさそうね。で、差し支えが無ければ、貴女の名前と何でこんな辺境に居たのかを聞いても良いかしら」


 リディアがそう聞くと途端に彼女は青ざめて頭を抱えて、うんうん唸りだした。


「………名前…なまえ…ナマエ……なまえ?…私は誰…どうしてここに居るの…何で……」


「え?ちょっと貴女!!大丈夫なの」


「分からないんです…ここが何処で私が誰なのか…教えて下さい、私は誰なんですかっ!どうしてここに居るんですか…と、言うかここは何処なんですか!?私は誰なんですかっ!!!」


 錯乱する彼女を必死に落ち着かせたシスター2名は、この教会の事と彼女が倒れて居た場所の事、恐らく傷や出血または高熱かその他の何かかが原因で記憶が飛んでしまったのであろう事。そして自分達が知りうる全てと彼女の事に関する考察を全て話した。

 彼女がファーリシアかベルナードの身分が高い者の家に仕えて居たであろう事、持っていた剣が中々の業物で傷跡も人間に付けられた物では無かった為、彼女は追っ手に追われる様な事をして森の奥地まで逃げて来た訳では無いと推測される事。その全てに彼女は頷きながら理解を示していた。その様子と言語、物事の意味を理解しているという事を加味しても彼女が失った記憶はエピソード記憶のみらしい。


「それで?何か思い出せたか」


「…いいえ、全く………それにしても私は魔物が出る場所をただのメイド服と剣1本で闊歩する様なチャレンジャーだったんですね…ははは…それは死にそうにもなりますよね。

 あぁ、記憶を失う前の私はどうしてそんな馬鹿な事をしたんでしょうか…馬鹿だったんでしょうか?阿呆だったのでしょうか?」


 ははは…と乾いた笑いを浮かべる彼女にシスター達は「その解釈のしかたはどうなのだろう?」と思いつつ会話を進めた。

 取り敢えず彼女の精神状態は安定している。記憶の事で多少混乱しては居たがその後少しして記憶が無いことを受け入れ「取り敢えずこの教会でお世話になる」と言う今後の方針を決めた事で多少は気が楽になったらしい。


「取り敢えず今は体を直す事に専念してください。貴女はまだ万全では無いのですから無理は禁物ですよ」


「そうだな、まだ熱もあるし実際の所は体も治りきってないからな。ゆっくり眠っておけ、夕方になったら多分お見舞いが来るからな」


「お見舞いですか?」


「ああ、君を見つけてここまで連れてきてくれた子だよ」


「そうなんですか…ぜんぜん覚えてないです…」


「あと、その時に君がここに来た時に着ていた服と持っていた物も持ってくる。もしかしたら何か思い出せるかも知れないからな」


「お願いします」


 今の彼女が身に着けているのはメイド服ではなく普通の服である。この教会には教会から巣立った子供達が巣立ちの際に持っていかなかった服が結構残っている。

持っていかれなかった服はボロが来ていたり落ちない汚れが酷かったりと、それなりに持っていかれなかった理由もあるがそれさえ気にしなければ普通に着れる物ばかりである。


 そして肝心のメイド服は、穴が開いたり生地が破けたりしていたが一応洗濯されて大切に保管されている。その他にも彼女が持っていた剣と多少の装飾品も保管されている。


「では、俺達は席を外す。また少ししたら食事を持って来るから、その間少し眠りなさい。まだ体が重いだろう?」


「うっ…お見通しですか…何かすいません」


「気にしないで良いのよ。傷が完全に治ったらお散歩感覚で森の奥まで行っちゃう様な困ったちゃんの面倒を見てもらうつもり何だから」


 リディアは多少冗談めかして言ったが実際に彼女の傷が治ったら千歳が何かやらかさない様に彼女に見ていて貰うつもりだった。正直言って少し目を離した隙に包丁を手に取って何かしようとしたり、竈に近づいて何かしようとされるのは危なっかしくてしょうがないのだ。

 実際の所、千歳は家事スキルが異常に高いのでリディアが危惧して居る様な事態にはならないのだが、傍から見れば5歳児が包丁や竈に興味を持ち近づいている様にしか見えない。

それに以前教会から巣立っていた子供達の中にも同じような事をして怪我をした子供が居たのでリディアが千歳の行動を警戒するのも無理は無い。


「あはは、じゃあその子がまた森の奥までお散歩しに行かない内に早く体を治さないといけませんね」


「そうよ、だからしっかり休みなさい」


「ふふっ、分かりました。ではお言葉に甘えて少し眠らせて頂きますね」


 そう言って彼女は眠りに付いた。そして、それを見届けたシスター達が医務室を後にして食堂に向かう途中で、足の痺れで悶える千歳とそれをつついて遊ぶハーシェとポルトを回収し無事(?)お昼になった。

 8/12日 一部の記述を改定削除いたしました。

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