教会の日常 03
コッコッ…コッコッコ…コケーッコッコ…
コケッ…コケーッコッコ…ッコッコ………
春、雪解けを経て芽吹きが始まり、生命が眠りから覚め活動を始める季節。教会ではシスター2名が畑仕事に勤しみ、畑仕事について戦力外の幼児3名は鶏舎からニワトリを外に出す
仕事に勤しんでいた。
「うーん……このあたりかなぁ…」
この教会で飼育されているニワトリは実はニワトリでは無い。普通のニワトリと比較してもかなり大きいし屈強である。
それもその筈、この鳥は本来ボルティックバードと呼ばれる魔物の一種であり、この鳥の事を知っている冒険者が見ればこの教会の異常性に即座に気が付く程の危険な魔物である。
平時はちょっぴり屈強なニワトリに見える彼らも、生命の危機に瀕した最には命がけで強力な雷属性の魔法を行使する非常に厄介な魔物である。この鳥が多数生息しているのがこの教会に魔物達が寄り付かない理由の1つである。
そんなニワトリモドキの首に紐を結び、犬の散歩の要領で運び、教会の周囲に満遍なく配置する作業が今日の幼児3名の仕事である。
本来は増えにくいこの魔物だが去年の繁殖時期の気象条件やその他の条件が良かったらしく大量に繁殖し増えた。現在では大体30羽程のボルティックバードが教会に生息している。
その危険生物を唯のニワトリだと思って扱って居る幼児3名…無知とは恐ろしいとはよく言った物だ。中でも千歳は冬にはこのニワトリモドキを湯たんぽ代わりにして使って居る。無知って本当に恐ろしい。
ーーーーーーー
「うん!はずれた、いっていいよー」
10羽居た中の最後の一羽の首に結ばれていた紐を解いて自由にしてやる。するとコッコッコ…と鳴きながら地面をついばみ始めた。
このニワトリは基本的に放してやった場所の半径10メートルの中から出ないので放し飼いにしやすい。それに放し飼いにした翌日には巣作りが終わっていてそこに卵を産む習性があるみたいなので、今日生んだ分さえ見つければ翌日以降は卵探しも簡単だ。
「終わったー?」
ハーシェとポルトもニワトリを放し終えてこっちに向かってくる。その手には黄色と黒の模様がカラフルな卵が握られていた。
「(やっぱりニワトリも僕の居た世界のよりちょっと大きいし卵の柄も変わってるなぁ…。
まぁ、元の世界でも卵の色は色々あったしそれと同じ感じなのかな?)」
ちょっと疑問に思って考えてはみたものの、今は採卵を終わらせるのが先なので、取り敢えず疑問は頭の片隅へ。
「たまごとれた?」
「うん2つ」
「千歳の所は採れたか?」
「うんん、いまからさがすとこだよ」
「そっか、じゃあ皆で探そうぜ」
そんな会話をする僕達の隣で巣作りの材料を集めながら徘徊するニワトリ…。
このニワトリのメス達は1日に数個の卵を産むがそれにあまり興味を示さない。
卵を温め育てるのは秋の終わりが近づく限られた時期に産む有精卵だけで、それ以外の時期に生んだ卵は無性卵なので基本的に放置される。なので秋の終わりの時期さえ採卵しなければ後の季節は比較的安全に採卵する事が出来る。シスター2名も秋の終わりが近づけば採卵はさせないし、その季節以外なら安全に採卵できる事を知って居るのでそれを幼児3名の仕事にして任せている。
ニワトリの中にはオスも居るが、生まれる数が非常に少なく、繁殖期である秋の終わり以外は割とフリーダムに山中を駆け回って居るので繁殖期以外の季節では千歳達とニワトリのオスが遭遇することは滅多に無い。
それに何より、遭遇したとしても、
「あったー!」
「こっちにもあったよー」
「コレだけ集めりゃもう他には無いだろ、そろそろ戻ろうぜ」
一応朝のうちに鶏舎にある分は集めたのだけど、放し飼いにした後に生んだ分も意外と多く探してみると5つばかりの卵を見つけられた。今日だけで30以上の卵が採れてしまった。
でも流石に日々そんなに沢山の卵は食べられないので、余ってしまいそうな分はこっそり『貯蔵庫』に入れて保管している…のだけど、それでも結構余ってしまう。
最近はニワトリの数も増えて採れる卵の量も段々増えてきている、その証拠に『貯蔵庫』には日々溜め込んだ沢山の卵が保管されている…まぁ、卵以外は何も入ってないけど…。
シスター達が増え続ける卵を何とかしようと、春になって段々増えてきた山越えの行商の人たちに売ろうとしたけど、断られたらしい。何でも道が悪くて近くの村に着く前に卵がダメになってしまうのだとか。
でも、卵は放置するとそれ目当てで魔物が集まってくるので集めない訳にはいかないし、同じ理由で廃棄する訳にもいかない。それに何故かニワトリを減らす事は難しいらしい。なので、卵の行き先が決まるまでの間僕の内職は当分の間続くだろう。
そんな訳で今日も採れ立て卵を端から『貯蔵庫』に詰めていく。
「これでおわりっと」
卵を回収し終わったので早速外に遊びに行く。先に外に出ていたハーシェとポルトを探してみたけど教会の周りには居なかったから多分行き先は森の方だ。
どうやら2人は僕を置いて先に遊びに行ってしまったらしい。まぁ、卵を仕舞うのに時間が掛かったからしょうがないね…うん、本当は寂しい。
さて僕は何処で遊ぼう…やっぱり森の方かな、この間行った時にキノコの小さいのが沢山あったし籠を借りてキノコ狩りにでも行こうかな。
行き先も決まったので炊事場にある籠をひとつ持ち出して畑を経由して森の方に向かう。畑を経由する理由は、シスター達に行き先を告げる為だ。
畑に到着すると、シスター達は作業を中断してこっちに来てくれた。何だか申し訳ない気がする。
「しすたー、もりにキノコとりにいくね」
「うむ、あまり奥までは行くんじゃないぞ。魔物が出るからな」
「はーい」
「千歳、コレを持っていきなさい」
リディアが修道服のポケットから取り出したのは、小さくて綺麗な容器を首から下げらておける様に加工されたペンダントだった。
「え?なに」
「傷薬です、ハーシェとポルトにも同じように持たせてあるので千歳にも同じように渡そうと思っていたのですが、何分千歳はよく転ぶので特別丈夫な入れ物を用意しました。
それにちゃんと持ち歩けるように首から下げられるようになっています、千歳は良く転んで怪我をするので肌身離さず持っていてくださいね」
そう言いながらリディアが僕の首にペンダントを着けてくれた。
「ありがとー」
「いいのですよ、気をつけて行ってらっしゃい」
「いってきまーす」
了解も得られたので早速キノコ狩りに向かう。さぁ、狩りを始めよう。




