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白の転生譚  作者: 優音 乙菜
第一章 教会
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教会の日常 01

すいません、先週はちょっと体調不良気味で投稿出来ませんでした。

梅雨時期で気温が安定しません、皆様も体調にはお気お付けください。

 クリスタリア大陸の最南端 ファーリシア王国 最東端クラスゥオード領 辺境 ファーリシア大森林


 ファーリシア王国の最東端に位置する領地クラスゥオード領、その更に最東端に存在する辺境、ファーリシア大森林。

 大森林などと御大層な名前が付いては居るがその実、希少植物が数種類自生している自然豊かで、比較的なだらかな山脈地帯であり。周辺には村も無ければ人すら碌に住んで居ない。かつて起こったクリスタリア大陸の覇権を争う戦いにおいても、戦略的な理由から全ての国にスルーされた歴史を持つ場所。それがファーリシア大森林である。

 

 そんなファーリシア大森林に存在する唯一の教会、つまりファーリシア大森林で唯一人間が住んでいる場所こそが千歳の転生先である。


 現在は深夜、辺りは見渡す限りの銀世界。月の光を降り積もった雪が反射して幻想的な風景を作り出している。


 千歳は現在、毛布に包まれた状態で、女神直筆の手紙と僅かばかりの金銭と共にバスケットに入れられた状態で教会の扉の前に放置されている。

 千歳をここに置いた張本人である女神は、つい先程千歳の入ったがバスケットを教会の扉の前に置き。中に居る人間が気付くように扉を数回ノックして、今し方帰った所だ。後は運任せで、運が悪ければ教会の中に居る人間はノックの音に気が付かず千歳は朝まで放置される事になるだろう。


 現在、千歳は爆睡中だが、流石に朝まで放置されれば寒さで目を覚ます。千歳が入れられているバスケットは一応魔法道具であり、中に入れた物の温度を下げにくくする効果がある。本来は料理を入れたりする目的で使うもので、若干使い方を間違えてる感はあるが、貴重な魔法道具だ。効果の程は間違いない。

 

 ギィィィ……


 教会の古びた扉が開く音が辺りに響く。築300年以上の教会は石造りの頑丈な建物だが、建物全てが石で出来て居る訳でもない。今し方開かれた扉などは、そろそろ取替えが必要だろう。ついでに言えば屋根の方も大分ガタが来ているので早急な対処が必要だ。


「……やはり誰かが来て置いて行ったのか」


 扉から出てきたのは、金髪が似合う歳の頃は20代ぐらいの筋肉質なイケメンだった。……ただ、今の彼は何故か修道服を身に纏っている。似合わない事この上ない。修道服など着ていなければさぞかしモテたことであろう。

 彼が何故修道服を着ているかはさて置き、彼はこの教会のシスターの1人である。神父では無い、シスターである。ついでに言えば彼に女装趣味は無い。


 そんな彼が、扉をノックした音に気が付かなければ、千歳は朝まで教会の前で放置コース確定だっただろう。

 教会の周囲は、とある理由により魔物が寄り付き辛いとは言え来るときは来る。それに魔法道具も、中に入れた物を『冷めにくくする』だけであって『冷めなくする』訳では無い。翌朝までは持つだろうが、それ以降は危なかっただろう。女神の思いついた転生方法は結構危険が多い方法であった。


「シルバどうしたのですか?」


 次に顔を出したのは、長い赤髪をポニーテールに纏めた、目つきが鋭い20代になるかならないかぐらいの女性。彼女もこの教会のシスターである。


「あぁ、リディア、起きていたのか? ……捨て子だ。一応手紙と金も置いてある。それにこの子が入れられているバスケットは………間違いない魔法道具だ」


 魔法道具は貴重な物だ、持って居るのは貴族か王族か、もしくは魔法道具を作れる者か、何かの理由で魔法道具を手に入れた幸運な者か。いずれにしろ、捨て子を入れて気軽に教会の前において置く様な物ではない。


「そんなことより取り敢えず中に入ったほうが良いわ、その子にとっても暖炉の傍の方が暖かくて良いでしょう。それに、魔法道具に入ってようがお金が入ってようが子供は子供、ウチはどんな子でも差別しないのが信条じゃなかったかしら?」

 

「あぁ……そうだったな」

 

 教会の中に入ったシスターが先ずしたのは、ミルクの代わりになるフィルの実と言う果実をバスケットの中の赤ん坊に与える事だった。

 フィルの実と言うのは、ファーリシア大森林周辺の限られた地域のみに自生しているフィルと言う1年草に実る果実で、栄養価が高く吸収も良い極めて優れた果実である。

 女神がファーリシア大森林を転生先に選んだのは、この果実が自生していた事も理由のひとつである。問題が有るとすれば、水より味が薄く一度でもまともに味がある食物を口にした事のある赤ん坊は、フィルの実を継続して食べるのを嫌がる事ぐらいであろう。


 眠って居る赤ん坊に食事を与えるのはあまり良くないのだが、爆睡中の赤ん坊でも口に物を入れられれば吸啜反射と言う反射で口の中に入れられた物に吸い付く、生後2~3ヶ月までに見られる赤ん坊の原始的反射の1つだ。天使でも獣人でもエルフでもこの反応は基本的に同じである。転生していてもそれは例外では無い。


「よしよし、沢山食べろよ、こんな物で良ければ幾らでも有るからな」


「シルバ、その子の名前は千歳と言うそうですよ。……あと、どんな経緯でここに置いて行かれたのかは全く書かれていませんね……魔法道具はその子への手向けで銀貨は教会で使って欲しいとの事です」


 この世界でも、捨て子というのは良くある話しだ。無論、魔法道具や銀貨と共に置いていく者など皆無だが、名前を付けて教会などに預ける者は多く居る。名前以外は、何も分からない子供を預かるなど、全く珍しくない話なのだ。


「……千歳か、うむ…そうか。大丈夫だぞ安心しろお前も今日から俺達の家族だ」


 シスターシルバ小さいけれど確かな呟きに後ろで手紙を読んでいたシスターリディアも頷く。千歳は今日この日この世界で新しい家族を得た。








 あの冬の日から月日は流れ、千歳が転生して1年が経った。この1年は、千歳にとって食事の大切さを改めて見直させるきっかけとなった1年であった。


 この1年、千歳はフィルの実しか口にして居ない。水より味が薄い果実を1年間。……フィルの実は水分が多い果実で赤ん坊が吸い付けば簡単に水分が吸いだせる。果実を切って赤ん坊に咥えさせるだけの簡単な作業で食事を与える事が出来て、尚且つこの果実だけで赤ん坊に必要な栄養素が完璧に摂取できる、与える側からすると非常に都合のいい果実である。だがしかし、無味である。

 

 授乳期間が終わるまでの半年間は、果実を咥えさせられてその果汁を吸う。そんな食生活だった。

 授乳期間が終わる頃「そろそろ離乳食を食べさせる時期かしら?」と言う、シスターリディアの言葉を聴いたときの千歳の喜びは筆舌しがたいものがあった。

 ただ、その離乳食と言うのはフィルの実を果肉ごとグズグズに磨り潰した物であると知った時の千歳は、目からハイライトが消えて、まるで調教7日目のヒロインの様な表情を浮かべていた。

 

 そんなフィルの実ではあるが、ファーリシア大森林周辺の極限られた地域にしか存在しておらず。収穫量も極僅かしか無い。クリスタリア大陸では数々の逸話に登場し別名で命の果実と呼ばれている。

 

 昔、命の果実が実在すると云う噂を聞きつけた商人が、この果実を運んで身分の高い者達に売ろうとした事があったが。その目論見はあっけなく失敗した。

 収穫場所から一番近い村に運んでいる途中で、ドロドロに腐敗し尽くしてしまったのだ。実は、この果実は特定の環境下で保存されれば2年は全く劣化せずに保存できるが、それ以外だと収穫から1日程度で腐敗が始まる。

 収穫方と周囲の環境にもよるが、状態が悪いと1時間と持たずに腐敗してドロドロになってしまう。その性質故に今では誰も手を付けようとせず、この教会では毎年、赤ん坊の1人や2人が1年間食事に困らない程度の量は問題なく確保できている。


 ただ、普通に販売出来たのならば、間違いなく高級品として扱われる一品である。


 それにしても、一年間ずっと味の無い物だけしか口に出来ないのはもはや狂気の沙汰と言っていいだろう。

 だが、そんな狂気の沙汰も本日この時刻を持って終わろうとしていた。


「そろそろお昼にしましょうか」


 冬の教会では、外に出て何か作業をする事も出来ないので、有余った時間を利用して子供達に読み書き等を教えている。

 子供達と言っても、教会に居るのは、先日1歳になったばかりの千歳と、3歳の幼女ハーシェ。そして、同じく3歳児の幼児ポルトの計3名だけである。昨年までは、15才前後の少年少女が5人居たのだが、昨年の春に冒険者としてパーティーを組んで独り立ちして教会を出た。


 よって今年行われている授業は、普通に授業を行う必要が無くなってしまい暇になったシスター達の暇つぶしである。授業内容も、普通に読み書きを教える様な感じでの授業では無く。『覚えたらラッキー』程度の簡単かつ緩い授業である。授業時間もお昼前に20分だけ。と、あまり長い時間行われていない。

 そんな授業が終わった何時も通りのお昼時。


「はい、千歳も今日から皆と同じ物を食べてみましょうね」


 食事に出されたのは、良く煮込まれた豆のスープだった。味付けは塩のみ、この世界では農村から下級貴族の家まで様々な所で食べられている、割とスタンダードなメニューである。

 当然出汁も何もひかれていない様な薄味のスープだが、今日この時まで無味のものしか口にしていなかった千歳にとっては夢にまで見たような物である。


「ふぉ~! ………食べていいの?」


「え? ……何時ものの方が良かった?」


「(ふるふる)」

 

 千歳は、それだけは嫌! と首を振り、がっちりとスープの入った器を掴む。

 それを見たリディアは、「ごめんね、取らないから大丈夫よ」と焦りながら自分の席に着く。


「はやくたべよーぜ」


「おなすいたよー」


「はいはい、では食べましょか」


「「「わーい」」」


 各々食事を口に運ぶ子供達、その中で1人だけ動きが止まっている子供が居た。

 

「ど、どうしたのですか千歳?」


 食事を口にした千歳は涙を流して固まっていた。感動の涙である。


「…おいしい」


「………へ?」


 リディアは若干困惑した、今まで子供は何人も育てて来たが、スープを食べて涙を流した子は初めてだったからだ。

 そもそも、フィルの実が必要になる様な年齢の子供を拾って育てたのが始めてである。一応、育て方だけは知っていたし、ミルクが無ければフィルの実を与えれば良いのも知っていた。だが、それを実践したのは今回が初めてだったし、実践する機会があるとすら思って居なかった。何分辺境の山中だ、わざわざ生まれたての赤ん坊を連れてくる人間は居ないだろう。そう高をくくっていたシスター2名。実際、今まで教会で育ててきた子供達は、街や魔物に襲われた村に出向いた時に拾った孤児や捨て子が大半だった。千歳の様にわざわざ冬の時期に教会の玄関前に置いて行かれる子供を保護したのは今回が初めてだ。

更に言うと、赤ん坊を保護したのも今回が初めてだった。


「リディアが千歳泣かしたー」


「わー本当だー」


「え!違います、私ではありません」


「リディア…」


「ち、違ーーーーーう」


 周囲の喧騒を他所に千歳は食事を再開した。今の千歳には周囲のやり取りなど見えていないし聞こえて居ない、見えているのは食事のみである。

 そして食事が終わると、いつの間にか机に突っ伏して眠っていた。転生して精神年齢は高いとは言え所詮は1歳、食後に寝てしまうのは何時もの事である。


 この1年、大体毎日こんな感じだった。寝て起きて遊んで食べてまた寝て起きて…たまに1日中ニワトリを眺めて居て終わる日もあれば、1日の殆どを寝ている日もある。

まぁ、暇な1歳の生活なんて大体こんなものだろう。

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