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白の転生譚  作者: 優音 乙菜
第一章 教会
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プロローグ 始まる日々の前奏曲 その2

 葛藤する事数時間。

 頑張っているのですが、魔法を使おうとする度に何故か精霊術になってしまい、未だにちゃんとした魔法は使えて居ません。

 一番良い結果でも、精々精霊術に魔法が混じる程度。……何か、もう心が折れそうです。


「どうですか!」


 "魔法"を使うイメージで掌の上に氷を作り出して、女神様の前に差し出します。

 すると、初めに氷を作り出した時と同じく、掌の上に氷が出来上がりました。


「惜しいッ! 精霊術の割合が先程よりもほんの少し大きくなってしまっています」


「そう……ですか」


 掌の上から氷を消し、ガックリと肩を落します。魔力と言うのを使おうとしているのですが、正直何が魔力で何が精霊力なのかが分からないのです。

 このまま行くと、精霊使いに捕まって強制労働コースまっしぐらです。


 うぅ、それだけは嫌だ……。


「………2人とも何してるの?」


 声がした方に視線を遣ると、リスティア様が扉に手を掛けたままの状態で佇んでいました。若干呆れ顔です。


「おばぁ様! 新しい問題発生です。千歳君がどうやっても魔法が上手く使えないんですよ。もう何時間も頑張って居るんですけど、何度やっても精霊術に魔法が何割か混じる程度で……」


「それは見ていたから分かるよ~……で? 千歳君は何時の間に高位の精霊に転職したんだい?」


「グズッ、してないでずよーーでもっ、ずぅ。何度やっても上手くいかないんでずっ。このままじゃ強制労働コースまっしぐらですよぉ」


 数時間保っていた集中が途切れ、今まで考えないようにしてきた転生後の不安が溢れ出して腰から下の力が抜け、耐え切れずに膝から崩れ落ちてしまいました。


 リスティアは僕が元居た世界よりも古くから存在し、遙かに広大だそうです。そこに100人程度ならば、確かに精霊使いに遭遇する確率はあまり高くは無いでしょう。

 ……分かってるんです。分かってるんですけど、人があんまり居ない農村に住んでいた身からすると、100人はかなり多く感じられてしまうのです。


「すいません。精霊術の説明に当たって精霊使いの話をしたら、それがちょっと……」


「あれ? でも千歳くんは精霊じゃないから、精霊使いが使う術式じゃ契約出来ないんじゃないの?」


 ……へ、そうなの? もしかして魔法使えなくても大丈夫なのでしょうか?


「それがそうでも無いのですよ。さっき確かめてみたら人間より精霊に近いの性質をお持ちでしたので、十分契約できると思いますよ」


 あぁ、何だか泣きそう。やっぱり魔法は使えないといけないんですね……。


「それじゃあ魔法と精霊術を使い分けられるようになった方がいいわね~」


 リスティア様は僕の目の前に立つと、手を伸ばして両の掌を僕の胸の辺りに当てました。


「じゃあ、今から私と千歳くんの感覚を一時的に共有して私が魔力を使うから、その感覚を何となくで良いから感じてね。……ちなみに実際に共有がどんな感じか試してみると~」


 リスティア様は僕の胸から手を離して、自分の頬を抓ります。


「ひ、ひゃいれふ……あえ……なんれ?」


 自分の頬を抓ったリスティア様が痛そうに頬を擦っているのは分かるのですが、何故僕の頬まで痛むのでしょうか?

 と言うか、現在進行形で頬を擦られている感触が……うぅ、頬がヒリヒリする。


「どう、これが共有よ~…あとはこんな事も出来ちゃったりするのよ~」


 リスティア様がそう言って目蓋を閉じた途端、何故か心の何処かから嬉しい気持ちが湧き上がって来ました。


「何ですかこれ? 何だか急に嬉しい気持ちに……」


「ふっふっふ……これも共有の1つの効果。今、私は嬉しかった思い出を思い出して嬉しい気持ちになっている。それが、千歳くんと共有されているのよ~」


「そんな事が出来るんですか?」


「出来るよ~千歳くんと私は共有率もかなり高いし、これなら魔力を使う感覚もすぐに掴めると思うわ~」


 こんな事も出来るなんて凄いですね。これなら魔法を使う感覚も直ぐに掴めるかも……いえ、絶対に掴むんです!

 精霊使いに怯えて暮らす未来なんて嫌だ。しっかり魔法を使える様になって安心して暮らすんです。


「じゃあ、行くわよ~」


「お願いします!」


 リスティア様が一言二言の詠唱の後に魔法を行使すると、そのイメージと感覚が伝わって来ました。

 その感覚を元に、もう一度今まで使ってきたものと同じ氷の魔法を試してみます。


 すると、パキンッ! という甲高い音と共にペンダント型の結晶が掌の上に生成されました。


「千歳君、今のが魔法です!!精霊術は混ざっていませんでしたよ!」


 魔法……魔法が使えた……今度こそ本当の魔法!!


「出来た…出来ました…」


「うんうん、完璧だよ~。取り敢えず確認の為にもう2度3度、精霊術と魔法を交互に使ってみてね~」


「はい、じゃあ精霊術の方から行きます」


 リスティア様に見てもらいながら精霊術と魔法を交互に3回ずつ繰り返してみましたが、何の問題も無く成功してしまいました。さっきまで、精霊術しか使えなかったのが嘘の様です。

 精霊術も魔法も行使する感覚は大体同じ、イメージして何となくそれを使うだけ。ただ、ちょっとしたコツ次第で使い分ける事が出来ます。

 ……ただ、焦ったりすると咄嗟に精霊術が出てしまいそうなのが少々怖い所。注意しないと。

 

「これで、安心して『貯蔵庫』の空間作りが出来ますね」


 そう言えば、まだ本題がまだ残っていましたか……魔法の事で頭が一杯ですっかり忘れてました。


「それも私が変わりにやってあげようか~? 今は千歳くんと共有状態だし手伝いもし易いと思うんだよね」


 と、代役を申し出るリスティア様を、女神様は突き出して制します。


「おばぁ様、私にも少しは神様らしい事をさせてください。さっきから良いところは全部おばぁ様に持っていかれていて……神様としての威厳がちょっぴりピンチです」


「そうねぇ、威厳はどうでも良いけど、アレは元々ソニアちゃんが作った魔法だから作った本人が手伝ったほうが確実かもね~。でも共有は繋げたままにしておくわよ~、私は補助要因をしてあげる」


「お願いします」


 女神様もリスティア様と同じく僕の胸に手を当て、感覚とイメージを共有します。

 流石に3人分の感覚が共有されると、どれが本当に自分の感覚なのかが少々曖昧になってきます。


「じゃあ始めますよ、千歳君は魔法か精霊術で空間を作ってください。私は時間停止を担当しますので」


「はい! 宜しくお願いします」


 イメージが女神様と共有され、その上リスティア様がイメージの補完と統率をしてくれた御陰で、何の問題も無く『貯蔵庫』は完成しました。

 

 ――したのですが、長時間共有状態が続いた場合や、共有率が高い相手との共有を解くと、物凄い脱力感と倦怠感に襲われるそうです。

 僕の場合も、リスティア様との共有率が高かったので、共有を解いた途端脱力感や倦怠感が襲ってきました。女神様との共有率は然程高く無かった様で、大した反動は無かったのですが、流石に2人分の共有が解けるとグッタリ――ともあれ、これで食料保存の問題は解決です。

 

「無事完成しましたね。本当は千歳君が途中でバテると思ったのですけど全然平気みたいですね」


「バテる?」


 共有を解いた影響で若干グッタリはしていますが、それ以外では別段バテる様な事も無く。


「魔力を使いすぎると、体に力が入らなくなったり気絶したり……最悪は命を落とす事もあります。で、その……『貯蔵庫』の問題の1つが、空間を作り出すのに必要な魔力量が多すぎる事でして……作ったは良いけど、私達みたいな神様以外には誰にも使えない魔法だったんです」


「あ、問題ってそう言う事だったんですね」


「ええ、ですが、千歳君はまだまだ余裕そうですね。……と言うか、そもそも全く消耗していないような?」 


「はい、全然平気です!」


 そもそも、何かを消費している感じが無いんですよね。多分何度同じ事をしてもバテないと思います……多分ですが。


「ふむ。その様子だと魔力の量は問題なさそうですね。ただ、私達のサポート無しだと一度に使える魔力量と出力が極端に少ないですね。

 精霊術だと全然そんな事は無さそうなのですが、魔法の方はそんな感じなので、転生したら魔法の練習をする事をお勧めします」


「分かりました」


「では、次は『貯蔵庫』の使用上の注意を幾つか」


「そんなのがあるんですか?」


 そう尋ねると、女神様は少し苦い顔をして「残念ながら」と呟いて、指折り数えながら1つ、また1つと喋り始めました。


 1つ目は、『貯蔵庫』の中に極力入らない事。

 『貯蔵庫』の内部に入れた物は、極僅かな例外を除いて完全に時間が停止してしまうそうです。

 その例外の1つである僕も、『貯蔵庫』の内部に入れば流れる時間が減速し、空間内だとたった10秒程度でも、空間外では1日に相当する時間が経過しているそうです。


 2つ目は、1つ目に付随する事ですが、僕以外が『貯蔵庫』に入ると完全に時間が停止した状態になってしまうと言う事。

 僕以外で影響を受けないのは、魔法を一緒に作った女神様達か、女神様達以上に力のある存在ぐらいだとか。


 指折り数えて説明していた女神様は、そこまで説明して一旦息を吐くと、3本目の指を立て「これが一番重要です」と前置いて続けます。


「3つ目……『貯蔵庫』は通常の同系統魔法と違って、緊急時に避難したりさせたりする事を想定して作られていないので、使用者を含めた生き物が空間内に入るには多少のタイムラグが……えー、簡単に言うと、千歳君を含めた生き物が『貯蔵庫』に入るには多少時間が掛かると言う事を承知しておいて下さい。ここまで大丈夫ですか?」


「はい、大丈夫です」


 要するに、立ち入り注意で、生き物は仕舞うには少し時間が掛かると……そう言う事ですね。


「では、あと2つ程」


 4つ目は、この魔法の事を極力他の人に教えない事。

 と言うもの、『貯蔵庫』は女神様が創った魔法で、他の同系統魔法とは一線を画すそうです。なので、他人に知られると面倒な事になるかも知れないので注意してね。との事


 5つ目は、『貯蔵庫』の基本的な扱い方について。

 『貯蔵庫』を扱うには、空間の入り口を開く感覚で『貯蔵庫』の口を開き、その中に入れたい物を詰め込めるとの事。

 応用として、逆に仕舞い込みたい物を空間の口で飲み込んだり。空間の入り口は割と自由に動かせるので、仕舞いたい物や状況に合わせて色々出来るのだとか。

 逆に、仕舞った物を取り出す時は、取り出したい物を思い浮かべながら、仕舞うときと逆の事をすれば、取り出したい物が取り出せるそうです。


「――とまぁ、色々言いはしましたが、千歳君は何となくで魔法も精霊術も使っていたので、感覚に頼ったほうが上手に出来るかもしれませんね。一度試してみましょうか」


 はい、と返事をして、『貯蔵庫』の空間の口を開き、ベッドの上に横たわる謎の抱き枕を突っ込み、取り出だしてみます。

 応用編や、生き物を入れる事は試していませんが、今はこれだけ出来れば今は十分なので、その辺りは転生してから試してみましょう。


「いい感じです! さて、これで魔法の方は一段落ですね。おばぁ様、転生後の体の方はどうなりました?」


「そう言えば体……!」


 色々あって忘れていましたが、体の事もありましたね。

 女神様は"姿形は変える事が出来ない"と言って居たので然したる変化も無いでしょうけど、やはり気になります。


「はっはっは~私を誰だと思ってるの?大丈夫バッチリだよ~。その辺の説明をしようと思ってこっちに戻って来たんだよ~」


「その辺?」


「千歳くんの体……転生後の器になる種族の『天使』には、一時的に魔力を身体能力に転化する『マジックバースト』と、光の翼を構成して飛行を可能にする『光翼』って言う固有の能力があるのよ~。

 マジックバーストは魔力を体内に巡らせて、自分に足りない能力をプラスするイメージで~、光翼は背中に光の翼を構成する感じ~。どっちも魔法じゃないけど、イメージすれば出来る筈だから、頑張って練習してね。

 ちなみに、マジックバーストは使うと反動でかなり疲労するから気をつけてね~」


 練習する事が多いなぁ……頑張りましょう。ちゃんと出来る様になればいざという時に役に立つでしょうし、危険から逃げる手段は多いに越した事はありません。


「頑張ります!」


 リスティア様は微笑みながら頷くと、ピッっと指を立てて続けます。


「あと1つ。私達みたいに寿命の長い種族には『エンゲージ』っていう能力があってね。ザックリ説明すると"ずっと一緒に居たいと思う子と誓いを交わす事で、誓いを交わした子達同士の寿命が、長いほうに統一される"っていう能力でね。

 元々は寿命が長い私達みたいなのが、寿命が然程長くない子と契りを結ぶ為に作った能力なんだけど、成立するには『お互いが一遍の疑いも無く信用し、信頼し合っている事』と『心の底から一遍の惑いも無く相手を愛し、大切に思っている事』って条件がある御陰で、今までエンゲージが成功したのは1組だけ……それどころか、失敗して関係が悪くなった子達も多くて、今では能力を消してくれって子も多いのよ~」


 まさに負の遺産よね~。なんて笑うリスティア様。……結構笑い事じゃない事態だと思うんですけど。


「ただ聞くだけなら簡単そうな条件ですが、実際は"お互い一遍の疑いも惑いも無く"なんて条件を満たせる方は、ほぼ居ないと言っても過言ではありません。現に、成功例もたった一例だけですし……って言うか成立条件厳しすぎじゃないですか?」


「長い時間を添い遂げたいならその位の覚悟が必要なのよ。……と言っても、私は使わなかった口だから説教くさい事なんて言えないんだけどね~。まぁ、重く考えないで、そんな能力があるって程度に覚えておいてくれれば良いから。

 使い方は、お互いが宣言しあって誓いを交し合えば良いだけだよ~……成功しても失敗しても、お互いに何となく分かっちゃうから――使う時は注意してね?」


「使う機会があるか分かりませんけど……」


 年齢=付き合った人居ない暦ですからねー。


「さて……大方の準備は整いましたね。それでは、最後に転生先の事について少しお話しておきますね。転生する季節は、前の世界で千歳君が生まれた季節と同じ雪の季節。最初に目覚める時には、森の中にある教会の扉の前に置かれた状態になっている……と言う事もあり得ますので、一応承知しておいて下さい。寒くない様に配慮はしますが、教会の人間が顔を出すまでの少しの間我慢して貰えると嬉しいです」


「あれ? 普通に何処かの家の子供として生まれるとかじゃないんですか?」

 

 それ以外だと、何処か適当な所にポッっと発生して生まれた直後から1人きりとか……もしかして、生まれた直後に捨てられたりするのでしょうか?


「そう言う事も出来ない事は無いですが、普通に生まれると何処に生まれるか分からないので、もしかしたら戦争をしている国に生まれて幼くして戦争に巻き込まれ人生終了……という可能性もあります。

 で、思いついた訳です。体もこちらで準備できるのなら、私達で安全な場所に送ってその後は孤児院か教会にでも預ければ良いじゃない! この方法なら転生する種族も自由に選べるし、戦地のド真ん中に生まれる可能性も0に出来るじゃない……と」


「そう言う訳でしたか」


 確かにそれなら危険地帯のド真ん中に生まれる可能性も無いどころか、むしろ安全な場所を選んで転生出来る合理的な手段です。

 何より、生まれた直後に捨てられる的な衝撃の展開が起らなそうで安心しました。


「では最後に。私達は特殊な事情がある場合を除いて、基本的に現世のあらゆる事象・事情に干渉しませんので、千歳君の手助けをしてあげられるのはこれで最後になると思います。

 例えば千歳君の命が終る様な危険な目に遭ったとしても助けてはあげられません。その代わり……と言っては何ですが、千歳君は千歳君が思うように自由に生きて下さい。元居た世界の知識や技術を使って貰っても全然構いません。

 ただ、私達の存在を公言する事だけは止めて下さいね……神様なんて居るか居ないか分からない方が良いのです」


「はい、気をつけます」


「さて……これで一応の準備は完了ですね。千歳君からは何かありますか?」


「大丈夫だと思います」


 寧ろ本当に色々してもらって申し訳ないぐらいです。


「では、千歳君にはこれら少しの間眠って貰います。次に目覚めた時には赤ん坊になって居る筈なので起きても驚かない様にしてくださいね」


「何から何までありがとうございました」


 ペコリと頭を下げると、女神様は笑いながら「いえいえ」と手を振ります。


「これ位は別に大した事では有りませんので……それでは、おやすみなさい千歳君。良い人生を」  


 その言葉を最後に僕の目蓋は段々と重くなり、意識は深い深い夢の断片すら見えない眠りの中に堕ちて行きます。

 次に起きるのは、転生後の見知らぬ教会……大きな不安とそれと同じぐらい大きな期待を胸に抱いて、僕の意識は遂に眠りに落ちました。

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