表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白の転生譚  作者: 優音 乙菜
第一章 教会
17/67

プロローグ 始まる日々の前奏曲その1

やっと転生物らしい感じになります。

 閉じていた目を開くと、僕は神界に戻って来ていた。

 

 限りなく広がる空間に、雲の様にふわふわでふかふかな触感の地面が延々と広がり、空には霞の様な光りと空が広がっている。

 その光景はまさにファンタジー。今まで生きてきた中で培われてきた常識が一瞬で覆る程の光景だ。


「お帰りなさい」


 そう言う女神様の左手には何故か湯呑みが握られている。お茶でも飲んで居たのだろうか?


「ふぉふぉふぉ、良い顔をしておる…どうだったかは聞くまでも無い様じゃな」


 晴れやかに言う神様の顔には、思いっきりビンタでもされたかの様な真っ赤な手形が付いていた。

 だけど、とても良い顔をしている。どうして顔に手形が付いているのかは、聞かない方が良いだろう。


「ありがとうございました、もう心残りはありません」


「それは良かったわ。じゃあ早速で悪いのだけれど、私の世界に移動向かいたいと思うので、これを飲んでください」


 女神様が持っていた湯呑みが、僕の前に差し出されました。それを受け取ると、中に入っていたのはお茶ではなく、明らかに飲み物ではない、何かどろどろしていて、眩く発光している透明な液体でした……これを飲むの……?。


「あの……「飲んでくださいな。さぁグイッと!」」


 有無を言わせぬ笑顔を僕に向ける女神様。……どうやら僕に拒否権は無いようです。


 仕方なく湯呑みに入った液体を口の中に入れて無理やり飲み込みこむ。味は無く、それにどろどろしているのに飲むと水みたいにサラサラと喉の奥に流れて行く。………なのに何でだろう? おかしいなぁ何だか涙か出て来て、どんどん意識も遠のいて行く……。


「よしよし、いいこいいこ。全部飲み込めましたね。安心して下さい、目が覚めたら私の世界ですから」


 謎の液体を飲み終えた僕は女神様の小脇に抱えられ……だめだ、意識が……。


「千歳君、元気でのぅ……さらばじゃ」


 意識が途切れる刹那。最後に聞こえたのは神様からの別れの挨拶でした……。

 


 







 目が覚めたら、何やらまた見た事の無い場所に居た。アンティークな感じに統一されたセンスの良い落ち着きのある部屋だ。

 8畳程度の広さの部屋には、木製で統一されたベッドや机、本棚が置かれている。そしてベッドや机の上には、見た事の無い動物の縫ぐるみや、小物入れが置かれている。当然ベッドで寝ている僕の隣にも、無表情で此方を見つめる良く分からない生物の抱き枕が……。


 この感じからして、多分女の子の部屋……でしょう。


 取り敢えず、抱き枕を動かし視線を外し、ここに至るまでの経緯を思い出します。確か、僕は確か再会の時間が終わって神界に戻った筈……なのだけれど、その先が思い出せません。


 神界に戻って、何かがあって……。そして何故か目が覚めたら、見知らぬ女の子の部屋(仮)の布団で寝ていました。しかもしっかり布団まで被って。

 困った……本当に困った。子の部屋の持ち主が来たらどう説明しよう? ……と言うかそもそも、ここは何処?神様は何処に? 僕の記憶が無い間に何が!?


 と、若干焦り始めた時に、タイミングよく普段着の女神様が部屋に入ってきました。


 女神様と言えば白いドレス。と言うイメージがありましたが。今は普段着。もっとラフな格好です。

 翠色の大きな宝石があしらわれた髪留めはそのままに、白くて丈が短めのワンピースにデニム生地のショートパンツ。そしてサンダル。


 ……殆ど部屋着な感じのラフな様な格好でした。


「あっ! 目が覚めました?」 


「はい……ここは一体?」


 すると、女神様はニッコリと微笑んで。


「ようこそ、私の世界、リスティアへ」


「へ……何時の間に?」


「あらら? 覚えて無いの?」


 そう言って女神様が取り出したのは、何故か見覚えのある湯呑み……はて、アレは何処かで…………あぁっ! 思い出した。あの時の、飲んだら意識が段々薄れて行ったとても不思議な液体!


「思い出しました。……僕はどのくらい眠ってたんですか?」


 あの時の不快感を思い出して、若干気持ち悪くなりつつ、女神様に聞きます。


「大丈夫、2日程ですよ」


 2日か……そんなに意識を失ってたのか………。


「あの……それって一体何なんですか」


 あの液体が入っていた湯呑みを指差して聞きます。……本当は聞きたくないような気持ちもあるけど、それ以上にアレがなんなのか気になる。危険な物だったら嫌だなぁ……飲んじゃった後だからもう遅いんだけど……。


「あぁ、これですか? これは私の姉が作った物で、『私の力を集めて液状にしてみたの! 飲んでみて害は無いと思うわ』と言われて、私も興味本位で飲みたけど。1週間気絶しただけで本当に害は無かったですよ。

 千歳君が気絶したり涙が出たりしたのも、ちょっとしたショック症状だと思うわ。さっきも言った通り害では無いからで安心してね」


 1週間……ショック症状………それは本当に害が無いと言えるのでしょうか? 十分重症だと思うんですけど……。


「それで、僕は何でそれを飲まされたんでしょうか?」

 

「これは、曲がりなりにも神様の力その物なの。だから世界移動の際の負担を和らげてくれる効果を期待して飲んでもらったのよ。……倦怠感や疲労感はある?」


 言われて体の調子を確かめてみたけど倦怠感や疲労感は全く無かった。


「大丈夫みたいです」


「そう!、それは良かったわ。どうやら千歳君にはこれのショック症状が強く出なかったようだし、安心したわ…じゃあ早速、転生前の準備をしましょうか」


 転生の準備…そう言えば僕はまだ転生する世界がどんな世界か聞いていない。もしも僕が元いた世界と違いがあれば転生した後困る事になるかも知れない。

聞いているのと聞いていないのでは受ける衝撃も違うだろう。それに準備をするなら、どんな世界か事前に聞いておいた方が良いに決まってる。


「女神様、僕が転生する事になる世界はどんな世界なんですか?」


 ……何故鳩が豆鉄砲を食らったような顔をするのですか?


「え……もしかして私説明していなかったかしら?」


「聞いてないですよ?」


 僕がそう言うと、女神様は、不味いなぁ。みたいな顔をして、僕が転生する世界について説明してくれた。


「じゃあ、今から説明するわね」


「お願いします」


「私の世界は、創造神の名前を取って、他の神からはリスティアと呼ばれて居ます。千歳君のいた世界の価値観からするとファンタジー世界……と言う事になるのかしら? 剣と魔法の世界ってヤツね。


 文明のレベルは魔物が居る事や、魔法がある事もあって千歳君の居た世界とはだいぶ違うと思うわ。でも、王国があったり貴族が居たりする所は千歳君の居た世界の昔の姿と被る所があるわね。……まぁ、その辺は転生してから確かめてくださいね」


 魔法……。魔物……。何だか想像してたのとだいぶ違う。僕はてっきり、今まで居た世界と同じ様な世界を想像していたので、ちょっと驚いている。

 それにしてもファンタジー世界で、僕の居た世界の昔の姿かぁ……食べ物は大丈夫なのだろうか? ……おいしい物が食べれないのは辛い。転生しても、甘い物やお菓子も食べたい。そんな事を考えていると、女神様は慌てた様子で言います。


「だ、大丈夫よ、そんなに不安そうな顔をしないで。そのための準備ですから」


「その準備って何をするんですか?」


「まぁ、千歳君が転生した先で生活し易いように能力をあげたりするのよ。まぁ準備とは言っても、私だけでは出来る事は限られていますので助っ人を呼んであります。

 

 もう直ぐ来る筈なだから、待っている間に千歳君の希望を聞いておきましょうか。千歳君はどんな能力があったら便利だと思う? ……あっ!、でも容姿とかは変えられませんのでその辺は承知しておいて下さいな」


 どんな能力があったら便利か…この世界はファンタジー世界で文明があまり進んで居ないと女神様は言っていた。

 僕にとって大切なのは、おいしい物が食べられるかどうか。この世界の文明が進んでいなと言うことは、前の世界で慣れ親しんだ家電製品……もとい、調理器具や保存器具が無いかも知れないという事だ。それに調味料が揃うかどうか……。その辺を聞いておかないといけない。

 

「あの」


「なにかしら?」


「この世界には僕の居た世界の調理器具や食料の保存に使う器具…それに調味料や何かは在るのでしょうか?」


 一番はこれだ。おいしい物が食べられないのは辛い。料理は僕が自慢できる数少ない特技の一つなので問題ないとしても。調理器具や調味料が無いと、そもそも料理が満足に出来ない。それに、食料の保存に使う器具。これがないと、夏場なんかはもう……。


「千歳君の居た世界にあるような便利な調理器具や保存器具は、ハッキリ言って無い物が多いわね。調味料は在るには在るんだけど、非常に手に入り辛いわ。……まぁ、その辺がご希望とあらば、魔法とか色々を千歳君に教える事で何とかしましょう。……その他は何か無い?」 


 何とかなるのかぁ。凄いなぁ魔法。……でも僕魔法とか使った事無いんだよね、何とかなるのかな?


 その他は……健康、欲を言うなら長生きしたい。それに容姿が変わらないと為ると日焼けとかが問題になるなぁ。僕は日焼けすると大変な事になるし。


「あとは、健康と欲を言えば長生き。あと日焼けとかの事ですかね」


「分かりました、その中のどれだけが叶えられるか分からないけど、出来るだけ叶えられるように頑張りますね。他にも何か思いついたらどんどん言ってくださいね」


「はい、ありがとうございます」


 ガチャリ、と、お礼を言い終わると同時くらいに部屋の扉が開いて、1人の女性が部屋にやって来た。

 やって来たのは、女神様によく似た女性だった。違いと言えば髪留めの色と着ている服がジャージという事ぐらいだ。

 

「この子が千歳くん?」


 口調が独特だ。訛ってる……物凄く訛ってる。だけど、地元の人しか分からない様な訛りではなく、言葉の端々に強弱が出るタイプの訛りだ。 


「ええ、そうです。千歳くん紹介しますね。この方は私のおばぁ様でこの世界の創造神。リスティア様です」


 おばぁ様? ずいぶん若く見えるけど、神様って年を取らないのかなぁ。でも元の世界の神様は年を取って見えたし……う~ん……やめよう考えても分からないや。


「宜しく、私の事はリスティアってよんでね~。随分と前に神様引退して今は隠居生活をしてるの」


「春風千歳です。宜しくお願いします」


「おばぁ様、コレが千歳君の希望です、目を通しておいて下さい」


 女神様はリスティア様に何か透明な結晶のようなものを渡した……アレはきっとメモ帳の様な物なんだろう。多分。


「ふむふむ……なる程………取り敢えずは、千歳くんの能力を確認する所から始めましょ~。ソニアちゃんお願~い」


 女神様の名前はどうやらソニアと言うらしい。


「はい、分かりました」


 女神様がに手をかざす。すると数字や文字が刻まれた半透明のパネルのような物が何処からとも無く現れた。流石は神様こんな事も出来るのか。凄いなぁ……それにしてもあれは何だろう。


「あの、それは何でしょうか」


「あぁ、コレですか?千歳君には馴染が薄いかも知れませんが、コレは千歳のステータをざっくりと数値化した物ですよ、リィスティアでは稀に見る機会もあるでしょう。

 まぁ、普通はそこまで詳しい事までは分かりませんが、私達は神様なので普通よりは色々分かります。まぁ、それでも分からない事も多いですが」


「何か凄いですね……そんな事まで出来ちゃうなんて」


「ええ、まぁ、これでも一応神様ですから」


 そうして話していると、


「ねぇねぇ、ソニアちゃん。この子凄いわよ予想の斜め上を行く感じで……」


「えっと、どれどれ…………コレは凄いですね、予想はしていましたがコレはまた……」


 パネルを見る女神様とリィスティア様が、少し驚いた顔をして居る……一体どうしたのだろうか?


「あの~どうしたんでしょうか?」


「千歳くん、取り敢えずコレを見てくれるかな」


 名前 春風 千歳 

 

 年齢 18 


 体力   25

 魔力 数値化不能

 持久力  20

 力    25

 俊敏   15

 耐久   10  


 スキル


 料理術 縫製術 掃除術 農耕術 


 特殊スキル


 おまじない ??? ??? ??? 幸福

 

 以下複数―表示不能―


 コレがどうしたと言うのだろう、何か問題があるのだろうか?…確かに魔力の欄が少しおかしいとは思う、だけど他はちゃんと表示されている。

 やっぱりスキルの欄だろうか???(不明)が多い気がする。


「まず始めに。千歳君、コレの何処が問題だと思いますか?」


 それはやっぱり魔力の欄と特殊スキルの欄だと思う、それ以外は別に問題が無いように見える。


「魔力の欄と特殊スキルの欄だと思います」


「はい、そこも問題なのですが、それは今はたいした問題にはならない問題です。魔力は数値化できないだけでちゃんとあるので問題ではありませんし、ステータスが普通の人の半分以下しか無いのも今は置いておきましょう。

 特殊スキルの???(不明)は気にしてもしょうがないので無視します。なので、それ以外の所にもっと重要な問題があります」


 ステータスが普通の人の半分以下……うん、分かってたけどね。体育の体力測定とか全国平均の半分以下の成績だったし、運動神経もあんまり良くないし……何だか悲しい気持ちになって来た。やめよう。


「色々な所に綻びがあるんだよね…何か隠そうと隠蔽した形跡が色々な所に残ってるんだよ~注意して見なきゃ分からない程上手く隠蔽されてるけどね」


「それって大丈夫なんですか?何か隠さなきゃいけないような物があるんですか?」


「大丈夫だと思いますよ……多分。千歳君、取り敢えず隠されている物を見たいと願ってみて下さい。それで見えるようになる筈ですから」


 女神様に言われた通りに、隠されている物が見たいと願ってみる……するとパネルが光の粒子になって砕け散りその場で再構成された。



 名前 春風 千歳 


 年齢 18 


 体力   25

 魔力  数値化不能

 持久力  20

 力    25

 俊敏   15

 耐久   10  


 スキル


 料理術 縫製術 掃除術 農耕術 


 特殊スキル


 おまじない ??? ??? ??? 幸福

 ???  ??? ??? ??? ???

 リリア流調合術 リリア流練成術 リリア流隠蔽術 リリア流潜伏術 リリア流逃走術


 

 その他

 

 リリアの加護


 

「………千歳君、1つお聞きしますが、私に似ている銀髪の女性に会った事は無いでしょうか?」


 そう言われて、女神様の顔を見ながらそんな人物に会った事が無かったか思い起こす。

 うーん……銀髪……銀髪……銀髪……。


「う~ん、銀髪……ですか……すいません思い出せません」


「そうですか…すいません。千歳君のステータスを隠蔽したのはどうやら私の姉のようなのです……千歳君が覚えていればと思いましたがそう上手く行かないものですね……」


 一体何時の間に!? 全く心当たりが無いよ。それに神様って兄弟とか居るんだ………居るか、娘とかおばぁさんとか居るくらいだし。


「お姉さんが居たんですか?」


「ええ、居ます。神様の役目を私に押し付けて夜逃げした姉が1人。この部屋はその姉の部屋なんですよ……私に神の役目を押し付けて夜逃するとても面倒くさがり屋の姉です。

 いったい何処をフラフラしているかと思えば………まぁ、元気でやっている様で少し安心しました。それにしても千歳君は姉さんに随分と気に入られていたみたいですね、姉さんの加護なんて初めて見ましたよ」


「加護?」


「気に入った子に祝福を与える事だよ。、まぁ、リリアちゃんの加護が何なのかよく分からないんだけどね、使ってるの1度も見たこと無いしさ~。ついでに私の加護は豊穣。ソニアちゃんの加護は………何だったけ?」


「私の加護は健康ですね。千歳君の希望にも確か健康とありましたね…じゃあ私の加護をあげますね。私の加護は病気罹りにくくなったり毒物にほんの少しだけ強くなったりします」


「じゃあ私もあげるね~私の加護は作物の育ちが良くなったり、育つ作物の品質が良くなったりする加護だよ~私が誰かに加護をあげるのは神様の座を譲って以来。だからレアものだよ~」


「ありがとうございます! 助かります」


 病気に罹りにくくなったのは凄く助かる。僕は今までちょっと無理しただけで風邪を引いていた。インフルエンザも毎年のように罹っていただから病気に対して耐性があるのはとても助かる。

 リィスティア様の加護は作物を育てる時に役に立つらしい。どのぐらい効果があるのか分からないけど食料確保の助けになるのはとても助かる。食べ物は大事だ。


「で、残りの希望なんだけどね、私に良い案があるんだよ~」


「おばぁ様が提案なんて珍しいですね、何かあるのですか?」


「あるよ~、健康、長生き、ステータスのを一時的にだけど大きく上昇させる能力。それに何より何かに襲われた時に逃げる手段が増える能力があるわよ~」


 逃げる手段が増える…確かにそれは必要かもしれない。正直、僕は弱いし体力も無いし足も速くない、コレは事実だ。魔物に襲われたらひとたまりも無いだろう。

 だったら逃げる手段が大いに越した事はない。それに危ないのから逃げる手段は1つ増えるだけでも安心だ。


「それ、お願いします」


「うふふ、そう言うと思ってたわ~。千歳くんが転生した時の器の事は私に任せて~、ソニアちゃんはその他の希望をお願いね~」


 そう言い残してリスティア様は部屋から出て行った…。

 転生した時の器…つまり体…何だか不思議な気分だ。僕は今ここに居て転生した時の体の事が目の前で話されている…本当に不思議な気分だ。


「……えーと…じゃあ私は、残りの希望を叶える事にしましょうか。えーと……調味料の確保と調理器具と食料の保存……ですか。日焼け対策は私の加護があるので大丈夫ですね……長生きはおばぁ様が何とかしてくれるらしいので、あとはこの3つですね」


「はい、お願いします」


「では、調理器具の問題から行きましょう。調理器具に関しては魔法で代用しようと思います」


 魔法で代用…どうするのだろうか?そもそも僕は今までの人生で魔法を1度たりとも使った事が無い、だから魔法を使う感覚がどんな感じかわからない。


「僕魔法とか使った事無いんですけど大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよ。今まで使えなかったのは恐らく私の姉さんのせいでしょう。それも千歳君が元の世界で平穏に暮らす為の封印だったのでしょうが、今となっては無用。

 放って置いてもその内解けるでしょうけど、面倒なので今から解いちゃいましょう。千歳君、取り敢えず手を出してください」


「はい」


 僕が手を出すと女神様はその手を両手で掴んで、目を瞑った。


「じゃあ、行きますよ。ちょっと違和感があるかもしれないので注意してください」


 少しすると、体中に違和感が出てきた…別に気持ち悪いわけでは無いけど何か変な感じだ。そしてその違和感と同時に1つ昔の事を思い出した。

 銀髪の女の人の記憶。小さい頃にずっと面倒を見ていてくれた人の記憶。多分この人が女神様が言っていたお姉さんだ……でもさっきまで思い出せなかったのにどうして?


「はい、終わりましたよ。少しのすれば体の違和感も収まると思うので安心して下さい」


 気付けば、作業は終了していた。


「……あの、女神様のお姉さんの事、何となく思い出したんですけど…何だか少し変なんです。どうして忘れてたか分からないんです」


 女神様は何か納得した顔をして頷いた。


「それは恐らく姉さんの記憶ごと封印されていたからだと思います。この封印は千歳君が違和感を覚えれば壊れてしまう様な封印としては不完全な物でした、ですがその反面、

 千歳君がどうしても力を行使したいと思った時に一時的に力が開放される様な完全より優れた柔軟な部分を持ち合わせていました。それ故、日常生活の中で過去の事を振り返った時、封印の事を思い出されると、たちまち封印はその効力を弱めてしまう。なので封印に関わりがある自分の記憶ごと封じ込めたのでしょう」


 それで思い出せなかったのか…何か寂しいな。思い出せないって事はこんなに寂しい物なのか…いや、本当に寂しいのは、忘れられてしまった方なのかもしれない。


「そんな悲しそうな顔をしないで下さい。姉さんにも近いうちに合える筈ですよ、何せ千歳君を転生させ終わり次第捕まえに行きますからね。

 姉さん捕まえた時は千歳君にも合わせてあげますので安心してくださいな」


「はい!是非お願いします」


 会えるなら会いたい………ただあの人が誰かに捕まる所が全然想像できない。


 ……最初に会った時は家の中だった。両親が共働きで仕事に出ていて留守番をしていた時、その人は突然家の中に現れた。思えばあの時朱里ちゃんがあの人の事を警戒していたのも納得できる。

 両親の居ない家に居る他人は泥棒か強盗、はたまた誘拐犯くらいなモノだ。

 僕はあの時、あの人の事を全く警戒していなかった、今思えば小さい頃の僕はとても抜けてたのだと思う、自分の事ながら怖くなる。今なら、家に知らない人が居たら絶対に警戒するだろう。


 ※千歳はそう思って居るが、実際の所今もあまり変わっていない。流石に家の中に知らない人が突然現れれば警戒するようにはなった。がそれだけだ。

知らない人に『お母さんが職場で倒れたんだ、病院に行こう。大丈夫私はお母さんの同僚さ!』なんて言われれば疑いもせず付いていってしまう。唯一の救いは今までそのような事が無かった事だ。

 

 長所は短所とよく言ったものだ、他の視点から見れば長所でも一転、他の角度から見れば短所なんて事は多い。無論その限りではない事も無いわけでは無いが全ては状況による。

 千歳に関しては若干素直に育ちすぎてしまった感が否めない、普通なら、たとえ素直に育ったとしてもこうはならないだろう。育った環境故か、生まれ持った性質か…どちらにしても防犯の視点から見たならば碌な物で無い事は確かだ。


 閑話休題




「…さて、じゃあ魔力が使える様になった所で次はいよいよ魔法を教えてあげますね。調理器具と食料保存の問題…それと調味料の問題はコレで解決する筈です。解決しなかった部分は

転生後に何とかして下さい。私もコレしか上手い対策が思いつかないものでして」


「はい大丈夫です、お願いします」


「では、私が良いと言うまで目を瞑っていて下さい。そして私が差し上げる魔法に集中していてください。どう集中するかは魔法を受け取れば何となく分かりますので……では、行きます!!」


 目を瞑って意識を集中する。少しすると、何かが意識の中に流れ込んできた…集中するとそれの概要が何となく分かる。


 1つ目の魔法はどうやら調理器具の代用として使用する魔法のようだ。

 幾つか例を挙げると。光の魔法を使って物の水分を振動させ暖める魔法『レンジ』風の魔法を使って対象物を切り刻む魔法『ミキサー』火の魔法を使い対象物を焼く魔法『オーブン』普通の調理器具の魔法で言えば他にも色々あるけど

変り種で言えば、時とその他複数の魔法を使い対象物の発酵や熟成を早める魔法『醸造』、氷と風、その他複数の魔法を使い対象の水分を飛ばす魔法『フリーズドライ』。専用の調理器具が無いと出来ない事も魔法を使えば出来るらしい。魔法って凄い。

 調理に関する魔法を全て総称して『調理魔法』今までに無いタイプの新しい魔法らしい。


 そして2つ目は食料保存に使う魔法『貯蔵庫』と言うらしい。時間が完全に停止した空間を作り出し、そこに食料を入れておきましょう。と言う感じの魔法だ。冷蔵庫の様な物を想像していたけど、それ以上が有るなんて凄い。

それに、冷蔵庫と違って、入れた物は何処でも取り出せるし、逆に何処でも仕舞える。その上、入れた物の時間が停止するので食材がダメになる心配をしなくても良い。

更に、無限に入って、取り出したい物が探さなくても直ぐに取り出せるらしい。…ただ、この魔法は何か問題があって今まで凍結されていたらしい。


 3つ目は。抽出と精製。錬金術みたいだけど。抽出と精製のみに特化していてその他の事は出来ないらしい。

これで、糖質のある物や塩分のある物からそれを抽出・精製して調味料を確保してね。との事だ。


「もう良いですよ、目を開いてください。…大体どんな感じの魔法かは分かりましたか?」


「はい、大体」


「魔法は授けましたが、どんな魔法もコツを掴まなければ使えませんので、それは転生してからコツコツ練習して貰うとして。

『貯蔵庫』だけは、私が最初の空間作りをお手伝いします。コレは私が作った魔法なのですが何分、空間の製作段階での問題が多い魔法でして今までお蔵入りになっていたんです。

ですが、初めの空間作りさえ終われば、殆ど何の問題もありません。それに、問題となる空間作りも私が手伝うので全然平気ですよ」


 魔法の練習…そもそも僕は魔法の使い方を知らな。『貯蔵庫』の空間作りは魔法が無くても出来るのだろうか?……問題の事も少し気になるけど、女神様が問題ないって言ってるしそこは置いておこう。

 そして一番大きい問題は。空間作りって………何?僕は何をしたら良いんだろう?


「『貯蔵庫』の空間作りって僕は何をすれば良いんですか?魔法が使えなくても大丈夫ですか?」


「そうでしたね…、魔法が使えないと何も出来ないですし………千歳君、何となくで良いので魔法を使ってみてください。大丈夫です適当で良いので試しに1回」


 えぇ!!そんな突然………でも、魔法が使えないと何も出来ないみたいだし…それに魔力はあるみたいだから一度試してみようかな…。


「………何となくで良いんですよね」


「はい、何となく適当で」


 うん、適当で良いならやってみよう。失敗しても良いみたいだし。


「わかりました、やってみます」


 魔法…魔法なんて使った事は無いけど何となくで良いんだ…取り敢えず何かしてみよう。………今はアイスが食べたい気分だから、氷の魔法かな。形を作るならイメージし易いと思うし…作る形のイメージは僕のつけていたペンダントが良いかな。


「…よし」


 掌の上に僕が着けていたペンダントと同じ形の氷の結晶を作るイメージする。……すると、掌の少し上に浮遊した状態の氷のペンダントが出来上がった。


「あ!出来ました!…意外と簡単ですね」


 意外と簡単だった。何となくイメージして何となくやってみたら案外簡単に出来た…嬉しい、魔法が使えた。


「確かに出来ていますね………ただ、千歳君が今使ったのは魔法ではなく精霊術です」


「精霊術?」


 魔法と精霊術の違いが分からずに首を傾げます。 


 すると、女神様は何かに思い至ったのか、ハッとした顔をして魔法と精霊術の違い教えてくれました。


「精霊術は魔法とは違い、世界に満ちる力を導き行使する事で事象を引き起こす力です。魔法とは違い自分の魔力を使わないのが最大の特徴です。

 それ故、本来、膨大かつ強力な魔力が無いと行使できない大魔法と同じ力を、魔力を使わず行使することが出来るわけです。


 ただ、精霊術は一部の高位精霊しか使えないので、使っていると精霊だと思われて精霊使いに捕まってしまう可能性が高いです。精霊使いに捕まると厄介ですよ~四六時中連れまわされた挙句

仕事になると散々扱き使われますその上見返りは無し。精霊使いは契約と呼んでいるようですが、精霊の方からすれば突然捕まって奴隷にされた様な状況です。


 精霊、しかも高位精霊なんて滅多に居ないので、フラフラその辺を歩いていたら、即ゲットされて強制契約コースです。レジストすることも出来ない事は無いのですが、それでもやっぱり

危険は無いほうが安心です。なので出来るだけ魔法を使ってくださいね」


 精霊使い怖い。魔法を使える様になろう、絶対!


「魔法ってどうやって使うんですか?強制契約コースは嫌です!」


「……すいません、少し脅かしすぎましたね。

 普通の精霊ですら希少で数が少ないです、精霊使いを目指す者は多い様ですが、本当に精霊と契約できる資質を持つ者は多くありません。

 しかも魔法と精霊術を見分けられる者となると、この広い世界に100人程度しか居ませんよ。ただ、もしもその様な方に万一見つかってしまったら逃げられないと思っていてくださいね。

…まぁ、そんな人が見ている中で精霊術を使うなんて、偶然が起こる確率は限りなく低いですけどね。それでも0では無いので、魔法をと言うことです。」


 この世界がどれ位の広さかは分からない、でも女神様が言うのだから会う確立は限りなく低いのだろう……それでもやっぱり、安心して魔法を使える様にならないとこの先の人生は、

心の何処かで精霊使いに怯えながら暮らすことになる。そんなの嫌だ安心して幸せに暮らしたい。


「魔法を使える様になりたいので練習に付き合って下さい。お願いします!!」


 精一杯頭を下げる、魔法が使える様にならなきゃ安心して暮らせない。


「大丈夫ですよ、頭を上げてください。私には魔法か精霊術かを見分ける事くらいしか出来ませんが、一緒に頑張りましょう」


「ありがとうございます、じゃあ、早速ですがお願いします」


「任せてください!」


 する事はさっきと大体同じだ。掌に氷を作るイメージ………出来た!!


「どうですか!」


「ダメです、精霊術です」


 ダメか…じゃあ、もう一度!………。


実は、女神様の素はコッチです。

外では常に気を張って居ますが、やはり、自分の実家たる自分の世界に帰ってくると気が緩むのでしょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ