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白の転生譚  作者: 優音 乙菜
第0章 再会の26時間
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春風 02

 3月最後の日曜日。今日1日の快晴を約束する様に早朝から晴れた快晴の空を彩るのは桜の花びら。


 永遠の別れを彩る空の色として、これ以上に相応しいものは無いであろう。


 現在時刻は 午前 7時20分 別れの時間まではあと30分と少し。今し方一つ目の鐘が鳴った、再会の26時間はもうすぐ終わる。


 鐘の音は、どうやら家族にも聞こえるらしい。何処から聞こえるのか分からない鐘の音に千歳以外は困惑していたが、千歳が事情を話したところ。

 『なら急いで写真撮らないとね』と言う話しになった。そんな話をすんなり受け入れられるのは、千歳と言う前例があっての事だろう。



「じゃあ、撮るよ」


 庭に植えられた桜の木の下に並び立つ家族は、皆一様に晴れ晴れとした表情をしている。

 

 そして暖かな日差しに照られ、舞い散る桜の中、1度目のシャッターが切られた。

 当然、千歳もちゃんと写っている、死んではいるが一応実体はあるので普通に写る。心霊写真のように半透明だったり、体の一部だけだったりはしない。

 

「えい!」


 そして2度目のシャッターが切られる直前。朱里は、見計らった様なタイミングで横から千歳に飛びついた。


 当然タイミングを計っての行動である。実は昨日の夜、千歳の部屋に行く前にカメラのタイマーが作動するまでの間隔を確認していたりする。

 用意周到、抜かり無し。やりたい事のためならどんな手間も惜しまない。


「ふぇ!?」


 突然抱きつかれて驚いたのもほんの一瞬の事。その直後、2度目シャッターが切られた。


 そして、3度目のシャッターが切られる時には、皆が笑っていた。朱里の行動だ、春風家では良くある事。皆慣れたものである。 


 1枚目は少し真面目な雰囲気で。


 2枚目と日常の。


 3枚目は笑顔を。


 それぞれ最高の、写真になった事は間違いないだろう。


「お父さん、次はお姉ちゃんと2人で撮って!」


「はいよ、じゃあ撮るよー。1+1はー」


「「「にー」」」


 2人の声が重なって庭に響く、両手でVサインを作り満面の笑みを湛える2人。王道の決まり文句に王道のポーズである。


「お母さん達は良いの?」


「うん?そうねぇ…もう一度皆で撮っておきたいわね」


「お父さんもお母さんと同じだよ、今度はもっと自由なポーズで撮りたいかな」


「じゃあ、そうしようか!」



 ゴォォォーン リゴォォォーン



 朱里が言い終えるのを見計らった様なタイミングで2つ目の鐘が鳴った。

 つい先ほどの鐘の音も、家族全員が集合して会話が途切れるタイミングを狙ったかのように鳴り響いていた。

 実際の所、神が会話が途切れるタイミングを見計らって鐘を鳴らしているのだから、狙ったようなタイミングで鐘の音が届くのは当然の事と言えよう。

 

 神は家庭の面以外では意外と気の使えるナイスゴッドなのだ。これが家庭でも生かせていたなら夫婦生活は安泰だっただろう。


「…あと1つ……………うん、急いで写真撮っちゃおう。さ!お姉ちゃんコッチコッチ!」


「ちょ、うわっ!朱里ちゃん!?」


「ふふん」


 朱里は何かを飲み込むように頷いた後、両親を急かし、千歳を自分の傍に引き寄せて満足げに微笑んだ。

 その顔を見て、千歳もつられて笑顔になる。

 

「えい☆」


「「わっ!」」


 いつの間にか、千歳と朱里の後ろに回り込んでいた母が2人を後ろから抱きしめた。突然の事で2人とも思わず声が漏れてしまう


「お母さん、出来れば半分空けておいて欲しいな」


「千歳ちゃんと朱里ちゃん、どっち側が良い?」


 そう聞く母は、既にどっち側を空けるか決めている様で千歳の後ろに回っていた。

 それをみていた父は、苦笑した。


「お母さん…本当は聞く前から自分で決めてる癖に…まぁいいか朱里ちゃんの後ろでも……」


「ちょっと!!年頃の娘にソレは無いんじゃない。それはお父さんが私に『お父さんと洗濯物別が良い~』って言われるみたいなものだよ!!」 


「朱里ちゃんそれはちょっと…」


「冗談!冗談だよ、いやー朱里の後ろ嬉しいなー」


 カメラをセットし終えた父は、朱里の後ろに回って…と思ったら。

 千歳、朱里、母の三人を一気に『ガバッ』っと抱きしめた。


「お父さん!?」


「フッ、流石私のお父さんやると思ってたわ」


「ちょッ!!お父さん!?ずるいわよ!!」


「許せよお母さん。俺は意外と欲張りなんだ」


 そこで1回目のシャッターが切られた。


「じゃあ私も、えい!!」


「朱里ちゃんちょっと苦しいよ~」


「それ良いわね、私もしましょ」


「ふぁ?」「へ?」


「えい!!」


「お母さんも結構欲張りなのよ!」


 朱里が千歳に抱きついた…そして母は千歳と朱里を抱きしめた。

 

 最初は少し困った様な顔をしていた千歳もすぐに笑顔になった。朱里『へ?』なんて声を上げた割には驚いた表情一つしていない。千歳に抱きついて終始、笑顔のままだ。


 そして2回目のシャッターが切られた。


「ふへへへへ」


 だらしなく開いた口元からヨダレを垂らしたまま、笑みを零している朱里………。

 そのヨダレは、口元から垂れて3人を抱きしめている父の手へ。


「お母さん…何か手に冷たい液体みたいなのが垂れてきたんだけど」


「お父さん、それは朱里ちゃんの分泌液よ」


 分泌液…表現が微妙に酷い。


「やっぱりか………」


「ふへへ、ふへへへへへへ」


「少し離れてよ朱里ちゃん、ちょっとくるしいってば」


 千歳の頬に頬ずりをし始めた朱里。ヨダレをたらしながら緩みきった顔をしている。やめる気配は全く無い。

 朱里だって後一回シャッターが切られる事ぐらい覚えている。朱里としてはこんな写真も残しておきたかった。それ故の行動である。そしてもう1つの理由を挙げるとするならば

 我慢できなかった。である。


 直後、3回目のシャッターが切れられた。


 3枚目の写真には、締まりの無い顔をして千歳の頬に頬ずりして居る何とも情けない朱里の姿が写っていた…まぁこれが、春風 朱里と言う少女だ。


「ふぅ…満足☆」


「そう、それは良かったわね」


《あー、こほん。お取り込み中失礼します、時間が迫っています…最後の別れを》


 何処からともなく聞こえてきたのは、女神の声。若干心苦しそうである。


「皆、今の聞こえた?」


「ああ、聞こえたとも、もうそんな時間なんだな……」

 

 時間は 7時30分を少し過ぎていた。


「…何だかあっという間だったわね」


「2人とも、湿っぽいわよ!そんなのはお葬式の時だけで十分よ。お姉ちゃんは今ここに居る、ただ泣くだけならもう散々したわ。今は別れの挨拶をしなきゃね」


「そうだな…」


 父が俯きがちにポツリポツリと喋りだした。


「俺さ…仕事が急がしくてなかなか遊んでもやれなかったし、運動会とか参観日の日もさ…休みが取れなくてあんまり見に行ってやれなかった…それにさぁ…ズゥッ

 気も利かないし、不器用だだし、千歳が困ってても悩んでても…気付いてやる事も出来なかった…何にもしてやれなかったッ……俺はッ…俺は…千歳のお父さんで居られたか?」


 18年間、ずっと心苦しかった事。会社が軌道に乗り始めて忙しかった時期が千歳の幼少期と重なり、久しぶりに家に帰った時に『このおじさんだぁれ?』と言う顔をさせてしまうほど家に帰っていなかった事。

 学校が休みとなる連休や長期休暇の際に、ニュースや報道番組に映る家族連れの旅行客を羨ましそうに見ていた姿。

 そのほかにも沢山の姿が今でも父の脳裏に焼きついて離れなかった。


「お父さん、お父さんは僕のお父さんだよ。あの時はお父さんの仕事が忙しかったのは知ってたし、それでも無理して観に来てくれてたのも、遊ぶ時間を作ってくれたのも知ってるよ。

 だから『何もしてやれなかった』なんて言わないで。お父さん、今までありがとう」


「あぁ…あぁ…こちらこそ、こんなお父さんの所に生まれてきてくれてありがとう」


「泣かないでよお父さん、僕まで涙が出てきそうだよ」


 ガバッ!


「わわっ!」


 千歳は、正面から母に抱きしめられた。


「千歳ちゃん…千歳ちゃんが生まれてから、私たちはずっとずっと…楽しかった、幸せだった。千歳ちゃん、私達の所に生まれてきてくれてありがとう」


 短いが心のままの言葉。母の全ての感情が詰まった言葉。


「お母さん………うん、僕も幸せだった、お母さん達の所に生まれてきて幸せだった…お父さんもお母さんも朱里ちゃんも皆大好き!」


「グスッ…私達も大好きよ。ほら、朱里ちゃん」


「お姉ちゃん…今までいっぱいありがとう」


「うん、こちらこそいっぱいいっぱいありがとう」


 ゴォォォーン リゴォォォーン ゴォォーーーン 


 3つ目の鐘がなった。これが最後の鐘だ。


「じゃあ…そろそろいくね」


 千歳の体が光の粒になって消え始める。


「千歳、幸せになってくれ」


「うん、お父さん達もね」


「ああ、任せておけ!!」


「千歳ちゃん、体に気をつけて、無理しちゃダメよ。千歳ちゃんは無理すると直ぐに体調崩すんだから」


「うん、分かった気をつけるよ。お母さん達こそ元気でね」


「大丈夫よ、朱里ちゃんは、何とかは風邪引かないって言うし、お母さんとお父さんは普段から気をつけてるからね!」


「またね!、お姉ちゃん」


「…うん!、またね」


 それぞれが、別れの言葉を伝えたところで、風が吹いた。

 その風に巻かれて桜の花びらと共に光の粒が空へ舞い上がる…。風が止むと、まるでさっきまでの事がまるで夢であったかのように千歳は消えていた。

 

「………きっといつか、また何処かで!」


 朱里は空を見上げて、胸のペンダントを握り締め、空を見上げながら小さく呟いた。




第0章 完

第0章 完結

次話から第一章の予定です。


8/22(土曜日) 改稿

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