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白の転生譚  作者: 優音 乙菜
第0章 再会の26時間
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桜の苑の… 03

 桜の花咲く竜宮院庭園、休日ともなれば遠方からも家族連れや宴会の人々が集まる隠れた名所。

 

 本日、そんな中に一際目立つ集団があった。各個人それぞれが自分の趣味に走ったのだろう、巫女服やらナース服やら戦隊モノヒーローやら、統一性も何も無い格好をしている。

 そして人数もかなりのもの。近づいてみれば、この地方の物では無い方言や言葉の訛りが聞こえてくる。恐らく、色々な地方から人が集まっているのだろう。

 

 そんな、千歳が普段なら絶対に近づかないであろう、カオスな宴会会場にやって来た(強制連行ともいう)のは、転生云々と聞いて一計を案じた朱里が、人見知り気味の千歳の事を心配しての事だ。

 まぁ、連れて来た朱里とて、この程度で人見知りが直るとは思っていないし、千歳当人も、人見知りがどんな事をすれば直るのかは良く分かっては居ないのだが……。


「おーい、連れて来たよ~」


 千歳の手を引く朱里が、カオスな集団の方に向けて手を振りながら近づくと、巫女装束を着た朱里と同年代ぐらいの少女が2人を出迎えにやって来る。

 すると、集団の全体が宴会芸や会話を一時中断して2人の方に視線を向けた。


「…………こ、こんにちは」


 千歳は多くの人の視線を受けて、表情を強張らせながら何とか声を搾り出した。


「よくぞいらっしゃいました」


 集団を代表するように、巫女装束の少女――竜宮院 葵が恭しく頭を下げる。

 多くの人の視線を受けながらも、何一つ臆す事の無い所は、流石は昔から知られた家のご令嬢といった所だろう。

 

「この子が朱里ちゃんのお姉さんですか?」


「そうよ、可愛いでしょ!! 私の自慢のお姉ちゃん。でもかなり人見知りするから、出来るだけ優しくしてあげてね」


 全員からの視線を受けて視線を泳がせる千歳を見て、コスプレ集団の面々は、朱里からの『お姉ちゃんは人見知りするから』と言う事前説明思い出す。

 そして、各々が思い思いの方法で千歳が集団に馴染めるように、きめ細かな気遣いとフォローを行った。


 結果として、千歳がコスプレ集団の元に連れて来られてから10分が経過する頃には、コスプレ集団面々と打ち解ける……という所までは行かなかったが、普通に会話が出来る状態にはなった。

 そして、千歳がその状態になった頃には、朱里は集団の中に完全に溶け込んで馴染みまくっていた。これも一種の才能だろうか。

 

「じゃあ、千歳ちゃんは朱里ちゃんの親戚なんですか?」


「いや~そうなんですよ、可愛いでしょー自慢の姉なんですよ~」


 正直に事情を説明すると非常に面倒な事になる。なので、朱里は"千歳は遠い親戚で春休みの間だけこちらに遊びに来ている"という、今考えた設定をまるで事実を話している様に、何の淀みも無く立て板に水で話した。

 すると、葵は少し顔を赤らめて、テンション高めにとんでもない事を言い出した。


「美人の親戚だなんて羨ましですねぇ。千歳ちゃんには彼氏さんとか居らっしゃるのですか?」


 葵の質問に千歳は飲んでいたジュースを噴出す程狼狽する。

 実は、千歳にはこの手の話しが振られる事は滅多に無い。……千歳の周囲では、あるこの手の話題は意味禁忌とすらされている節すらある。

 男子にカテゴライズすると、一部の男子から『千歳は男じゃない。断固絶対に』と異論が来て、女子にカテゴライズすると本人から『僕は男子だよ~』と異論が来るのだ。


「え!? い、居ませんよ、だって僕"男"ですし……」


 千歳は精一杯の虚勢を張る……が、格好が格好だけに本人も胸を張り辛い。


「「「「「「(ざっ!!)」」」」」」


 千歳の衝撃発言に回りに居た全員が一斉に千歳の方を向く。


「オイオイ、マジかよ…」


「信じられねぇ」 


「うへぇー、世の中には信じられないのが居るもんねぇ」


 驚愕9割、絶望と困惑1割の声が集団の至る所から上がる。中には、自分の頬を抓ったり、隣の者の背中をバシバシと叩いている者も居る。


「(ぺたぺた)本当に男のむにむになんですか?」


 葵が千歳を触りながら、いまだに信じられないと言う感じで呟く。


「あの、あんまりむにむにされると、変な感じに……」


「私は(むにむに)いまだに(ふにゅふにゅ)信じてないけどね!」


 朱里は、千歳の言葉など無視して、あるはずのない胸を揉みながら自信に満ちた声と、とても良い笑顔で答える。


「お願いだから……もう止め……(ビクッ)」


「げへへ、耳まで真っ赤にしてそんな事言ったって説得力がないよお姉ちゃん(むにむに)」


 朱里は、とても年頃の乙女とは思えない笑顔で、口の端からヨダレを垂らしながら千歳の胸を揉み続ける。


「可哀相じゃないですか止めてあげましょうよ(ふにゅふにゅ)」


 と、良いつつ手を止めない竜宮院のご令嬢。此方もまた良家のご令嬢とは思えない下種な笑みを浮かべている。


「……もしかして、巫女さん貴女も生ける口?(もにゅもにゅ)」


「そういう朱里ちゃんだって……(むにゅむにゅ)」


「私達仲良くなれそうな気がするわ(むにむに)」


「何言ってるんですか、私達もう友達でしょ?(ふにゅふにゅ)」 


「そうだね、私達もう友達だよね!(もにゅもにゅ)」


「ピクッ……ピクッ……(痙攣中)」


 朱里は自分と同じタイプの人間とめぐり逢えた事を純粋に歓喜した。同時に巫女服少女も、自分と同じタイプの人間とめぐり合えた事を心の底から感謝した。


 言葉を交わしながらも手を休める事はない変態2人。そしてその被害に遇い、耳まで真っ赤になり今にもノックアウト寸前の千歳。

 その惨事を周りの人達はその光景を唖然と見ていることしか出来なかった。……触らぬ神に祟りなし。ちょっと眼福。理由は色々あるが、一番の理由は2人に増殖した変態を止めるのは非常に面倒で困難だからだ。



 ――― 5分後 ―――



 ノックアウトしてシート倒れこみ、ぐったりしている千歳を尻目に握手を交わす変態が2人。


「自己紹介がまだでしたね、私の名前は竜宮院 葵です。改めて宜しくおねがいします」


「宜しくね葵ちゃん、早速だけどメールアドレス教えて」


「いいですよ、ケータイはバックの方にあるからちょっと待てて下さい」


「待って、私も一緒に行くよ」


 変態2人は千歳を放置して別の場所へ行ってしまった……。

 すると、黒い全身タイツを着た30代の男性が心配しそうに尋ねる。


「この子どうする?」


「任せて! 私は、看護婦さんの格好してるし介抱とかも実は得意よ!」


 ナース服を着た20代半ばの女性が自信満々に答える。アルコールが相当入っているのであろう、顔が真っ赤だ。


「いやいや、看護師なのは格好だけでしょ」


 浅葱色の忍装束を着た妙齢の男性が慌てて突っ込む。実はナース服の彼女は、看護師ではなく普通のOLだ。


「い、いや……介抱とか大丈夫ですから……何か冷たい飲み物をくれると……嬉しいです……」


 若干顔を上げて言う千歳の顔は、まだ少し赤く体が若干ぷるぷると震えている。その様子を例えるのなら、生まれたての小鹿と表現が最適だろう。


「スポーツドリンクで良い?」


「すいません……お願い……します」


「はい、どうぞ」


「どうも……」


 千歳が受け取ったスポーツドリンクをちびちび飲んでいると、視界の端に手を繋いで歩く両親が映る。様子を見ると、どうやらデート帰りのご様子。

 千歳が袂を弄り、懐中時計を取り出して時刻を確認すると、時刻はもうすぐ12時。そろそろ戻る時間だった。


「相変わらず仲がいいよねー」


「?!!」


 千歳が驚いて声の主の方を向くと、変態の一人。妹の方が戻って来ていた。それを見た千歳は驚いて一歩飛びのく。


「いつの間に!?」


「ついさっき。そろそろ戻りましょうか」


「そうだね、そろそろお昼だしね」


 そんな話をして居ると、巫女服少女(竜宮院)が視界の外側から気配も無くニュッと現れる。


「そろそろお帰りの時間ですか?」


「はい、向こうでお昼を準備して待っててくれてますし」


 千歳がそう答えると、葵は残念そうな顔をして一歩下がる。


「そうですか、わかりました」


「葵ちゃん、またメールするからね」


「はい、私も必ずご連絡致します」


 巫女服少女が左手を恭しく挙げると、何処からか黒服の集団が現れて巫女服少女の後ろに立ち、一斉に頭を下げて見送りの姿勢を取った。


「葵ちゃん、そんなに丁寧に見送ってくれなくていいんだよ。もっと、こう手を振って『またねー』見たいな感じでいいの」


 ジェスチャーで手を振ってみせる朱里に対して、葵は申し訳無さそうに答える。


「これは竜宮院のしきたりでして……お客様を見送る時は出来るだけ丁重に送り出せと。あとはコレです」


 巫女服が右手を軽く上げると、燕尾服を着た執事風の60代後半ぐらいの男性が、大小2つの箱を持って現れた。

 箱は、高級感溢れる漆黒の漆塗りで蓋の中心部には、恐らく竜宮院の物と思しき家紋が金色で書かれていた。


 「「(あれは高い)」」2人は、その箱を見た瞬間悟る。

 

 そうして2人が箱を見て慄いていると、箱を持った執事風の男を後ろに控えさせながら、竜宮院 葵は千歳達の下に歩みを進めた。


「お土産にどちらかの箱を差し上げます。どうぞお選び下さい」


 2人は、困った顔をしてお互いの顔を見合わせる。2人はこのシチュエーションを知ってた。いや、むしろ知らない人の方が少数派なのではないだろうか。

 

 有名な昔話だ。その昔、同じようなシチュエーションで、今巫女服が差し出して居るような箱と似たようなデザインの箱を受け取った若者が居た。


 ある日その若者は、子供に虐められていた亀を助けて、その亀に海中にあるという【竜宮城】という場所に案内された。

 

 物語の中でのその若者は、その城の姫である乙姫を傍らに侍らせ、タイやヒラメの毎踊りを観賞しながら、おそらくそのタイやヒラメの元同胞であろうご馳走を食した猛者だったらしい。

 そんな若者が地上に帰る間際に、乙姫に渡された箱こそが玉手箱。開けば謎の煙が出てたちまちの内に老化するという呪いのアイテムである。


 色々あって、千歳と朱里の両名には。その手のアイテムにあまり良いイメージが無い。特に、彼女が差し出している様なのはダメだ。

 一度、


「いや、お土産なんていいですよ……」


「そうだよ。こっちで色々飲み食いさせて貰ったし、それで十分だよ」


「いいえ、受け取っていただきますよ。『何で?』と聞かれれば、『それは、私が竜宮院だからです!』 とお答えしましょう」


 彼女は、ドヤ顔で言う。その様子を見て、千歳は若干怯えながら、恐る恐る尋ねる。


「それじゃあ、その箱ってやっぱり……」


 何かを悟ったように、顔を引き攣らせる千歳。


「ええ、かの有名な玉手箱です。……あっ。でも、開けても老化などしませんのでご安心ください、中身は普通の洗剤とかですので」


「そうなんですか?」


 千歳と朱里は一瞬、うわぁ……という顔をしたものの、中身は洗剤と聞いてホッとした様な顔をする。


「我が竜宮院家は、竜宮の姫の末裔と言われていますからね。竜宮のお土産と言えば玉手箱でしょう、話のタネになると巷でも評判のお土産なんですよ」


「へー、面白いね。中身が洗剤なら遠慮なく貰ってくよ、洗剤はいくらあっても困らないからね!」


「ところがどっこい、確率は限りなく低いですが、もっと夢のある物が入ってたりする事もあるんですよ!」


「たとえば?」 


「世界一周旅行へのご家族全員ご招待チケットとか、月までの旅行券とか、洗剤と同じ重さに調整された札束とかですね」


 ちなみに札束やら何やらは、当然の如く諸々の手続きをせずに経費等が掛からない様に受け取れる様に手続き済みである。


「へぇ、何かおもしろいねぇ」


「いや、朱里ちゃん面白いとかいう問題じゃないでしょ。洗剤以外が入ってたらどうして良いかわからないよ」


「まぁ、確率はかなり低めですけどね、年に1人当たるか当たらないか位の確率らしいですよ」


「嘘!? 結構確率高いじゃん、じゃあ大きい方の箱頂戴」


「……何故大きい方の箱なのか理由を聞かせていただいても?。小さい箱の方が当たりそうじゃないですか?御伽噺的に」


「当たらなくても、大きいほうが洗剤沢山はいってそうだし、もしも当たったら大きいほうが絶対沢山入ってるし」


「ふふふ面白いですね、では大きい方の箱をどうぞ」


 巫女服少女は、執事風の男から大きい方の箱を受け取り、朱里の傍まで歩み寄り止まった。


「男の子である千歳ちゃんに渡した方が良いでしょうか?」 


「私でいいよ、お姉ちゃん私より力弱いし」


 千歳は確かに朱里より力が弱い。朱里の身体能力は第一線で活躍するアスリート達と比較しても異常な数値なので置いておくとしても、千歳の身体能力は一部の例外を除きかなり低めだ。


「じゃあ、朱里ちゃんに渡しますね、結構重いから気をつけて下さいね」


「はーい」


 玉手箱を朱里に渡して、巫女服少女は満足そうに頷く。


「では玉手箱は家に帰ってから開けてくださいね、絶対ですよ」


 微妙に威圧感がある笑顔で巫女服少女は念を押す。


「お土産まで貰ってしまって何だかすいません、今日はありがとう御座いました」


「葵ちゃん、またねー」


 朱里は玉手箱を器用に頭に載せて、飛び跳ねながら両手をぶんぶん振り回す。それで玉手箱が頭上から落ちないのだから、彼女のバランス感覚は大したものだ。


「はい、お2人ともお元気でー、またお会いしましょう!」


 コスプレ集団と分かれた2人は、両親が待つ場所まで急いで戻る。


 その背中を見守りながら、竜宮院家26代目当主、竜宮院 葵と竜宮院家25代目当主・第一補佐役、兼、26代目お目付け役、セバスチャン=アルム・12世は、今回の客人について話し合う。


「お嬢様、よかったのですか?」


「……良くは無いでしょうね。偶然とは言え見つけてしまったんですから……もう一度確認します。本当に千歳ちゃんですの?」


「はい、間違い御座いません。昨年の8月初旬に起きたあの事件であの方は亡くなっています。身体的特徴及びその他の特徴が全て一致しておりましたので間違いは無いかと」


「……はぁ『またお会いしましょう』…ですか、気が重い再会になりそうですね。出来る事なら、朱里ちゃんとは別の形でお会いしたかったです」


 千歳と朱里を見送りながら、「はぁ、仕事とは言え何でこんな事……」と、竜宮院 葵は重い溜息を吐いた。

 






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「やぁ、お帰り2人とも楽しめたかい?、お父さん達は久しぶりにデートしちゃったよ、お母さんってば、はしゃいじゃってなぁ昔と変わらず可愛かったんだぞ~」


「まぁ、お父さんったら…秘密にしておいてよ恥ずかしいじゃない///」


「何を言っているんだいお母さん、とっても可愛かったぞ」


「お父さん///」


「お母さん///」


 年甲斐も無くイチャつく両親を見て、その子供2人は何とも言えない気持ちになった。

 別に、悪い気持ちと言う訳では無いのだが、時としてイチャついている当人達よりも、周りで見ている身内の方が恥ずかしい時だってある。つまりはそう言うことだ。


「きゅるる~……うぅっ///」


 そんな中でも、千歳の腹の虫は空気を読まずに空腹を訴える。

 世の中全ての人が飼っている腹の虫は、空気を読んで黙っていてくれるような存在ではないのだ。


「…惚気るのは別にいいんだけど、お姉ちゃんがお腹空かせてるから、手短にしてあげて」


 両親の惚気話は、千歳の腹の虫によって一時中断された。当の千歳は申し訳無さそうに自分のお腹を擦って居る。

 千歳当人は申し訳無さそうにしているが、千歳の腹の虫は今回に限っては良い仕事をしたと言えるだろう。世の中に惚気話ほど聞いていて退屈な話は無い。


「おっと、すまんかったな」


「つい…ね、待っててね今準備するから!」


 全く申し訳無さそうでは無い両親によって、手早く準備が済ませられ昼食になった。


 千歳と朱里は、コスプレ集団の所であった事を両親に話し、巫女服からお土産として受け取った玉手箱を両親に見せる。

 両親の反応は、『洗剤が切れそうだったから助かる』とか『月までの旅行券か…どれ位お金がかかるんだろうなぁ…』とか、割と普通なものだった。


 その後は、春風家基準で普通に家族でお花見を楽しんだ。

 父の尻に焼き鳥の串が刺さったり、朱里が新しい世界の扉を開きかけたりしたが、これは春風家の日常風景なので割愛する。

Q.竜宮院 葵。彼女は何者なのか?


A.取り敢えず、立派な淑女(変態)で朱里と同系統の人種(レベルの高い変態)です。



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