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勇者メリケンの冒険

作者: 東耕市朗

『わっはっはっは!よく来たな!勇者メリケン!』

死霊が彷徨うと言われる洞窟の奥深くに潜んでいた、首を無数に生やした巨大な龍は邪悪な笑いを響かせた。

『この洞窟のボス、キングヒュドラ様がお前を冥途に送ってやるわ!』

目的と所属を一言で明確にする非常に分かり易い自己紹介とともに、キングヒュドラは首の二倍の数の目を向いてすごんだ。

ところが、肝心の勇者が見当たらない。

というか、視界が謎の白い煙で覆われていた。

『なんだこれは!こんなもので俺様の目を誤魔化そうというのか!臆したか勇者メリケン!』

しかし、その白い煙の威力を知らなかったことがキングヒュドラ最大の誤算だった。

「必・殺!粉塵爆破!」


カッ!


チュド―――――――ン!!


白い閃光と凄まじい爆音。

それらが収まった後に立つ者はただ一人。勇者メリケンが勝利のポーズを決めていた。




「キングヒュドラ討伐……っと。魔王軍もめぼしい所はほとんど退治しちゃったわねー」

メリケンの周りをパタパタと飛んでいるちびっこい生物は神の使い、テン。地上が悪に覆われる時に神が勇者のパートナーとして地上に遣わすありがたいキャラだ。

「はっはっはっ。正義は勝つ!だな!」

「いっつも爆殺ばっかで、なんとなく正義っぽくないんだけど……それに、あんた。どうみても勇者らしくないわよね」

メリケンは勇者らしい伝説の剣や鎧、そして名馬などというものを一切持っていない。ふつーの一般市民の格好に、いくつも袋を背負った愛ロバ、ロシナンテを従えているだけだ。

詰まった袋の中身を尋ねるのは野暮というものだろう。あの魔法の白い粉がたっぷりと詰まっているのだ。

「格好なんて二の次だろう。俺は商人の息子だからな。名より実を取るんだ。」

事実、メリケンは小麦商人の元に生まれた次男坊だった。

それがなぜこんなことをしているかと言えば……



~回想~

キラキラと天から光のベールがメリケンの前に降りてきた。

「おおっ!?なんだ!?俺こんなに若いのにお迎えが来たのか!?」

「違うわよ、バカ!」

その光に乗って降臨してきたのがテンだった。

「あなたが、次の勇者に選ばれたの。分かるでしょ?」

「次の勇者ってことは……前の勇者も失敗したのか」

この世界における勇者は持ち回り制である。魔王が現れれば、神が一人人間の勇者を指名する。その一人が魔王討伐に出発し、残念ながら道半ばで倒れたなら次の勇者が選別されるのである。

「ふむ。ようやく神様も本当の勇者に頼らざるを得ないようだな!」

「その自信がどっからくるのか分からないけど、今度の魔王が強くて、めぼしい勇者候補に軒並み断られちゃったからあんたのとこに回ってきただけなんだけど」

「つまり名だたる勇者候補の中から、俺に白羽の矢が当たったと言うことだろう?もちろん、喜んで引き受けよう!」

「単に貧乏くじを引き当てただけのような気もするけど……まぁいいわ。やる気あるなら任せるわね。

ところで、ステ振りはどうするの?」

「ステ振りとはなんだ?」

「これから勇者として活躍するんだから、神様からのサービスで能力を多少調整できるの。STRとかDEFを上げるとか、自動回復をつけるとか、好きな属性耐性つけるとか。さ、なんでも言ってみて」

メリケンはしばし瞑目した。ややあって

「粉塵爆発に巻き込まれてもダメージを受けないスキルが欲しい」

「はい?」

テンが間抜けな声をだした。

「いや、あんた。何言ってんの?そんな能力役に立つわけないでしょ?」

「俺はそれがいい。さっきなんでもって言ってただろ」

「もー……ちょっと待って」

テンはどこからともなく携帯していた通信するための道具を取り出すと、天界との交信を始めた。

「はい、もしもし。あ、神様ですか?………はい……はい。そうです、あれってありですか?

ええっ!?でも……はぁ……………はい、わかりましたー……」

段々とうなだれていくテン。振り返って、心底疲れた顔で

「大丈夫だって……」

「よし!世界初の粉塵爆破勇者の誕生だな!」

メリケンは目を輝かせて高らかに宣言した。

「もー……早く今度の仕事済ませて休暇取りたいのに、また新しい勇者探さなきゃだよー」

対照的にテンは旅立つ前からあからさまな諦めムードを漂わせていた。


「と、思ってたけど、意外な穴馬が来たわよねー」

メリケンはその日から破竹の快進撃を続けていた。

テンの手の中にある魔王軍の主要ボスキャラリストは大半がバツ印で埋まっている。なにせメリケンの粉塵爆破は向かうところ敵なしだった。

屍人軍の軍勢は墓穴の中にいるところをまとめて爆破して全滅させ、強敵と言われた四天王ですらも全員集合しているところを一網打尽に爆破してしまった。数のついたボスキャラは格個撃破というRPGのセオリーを無視した戦果だった。

「我が粉塵爆破に敵う者なし!で、テン。次のボスは誰だ?」

「次は……あ、ここよ」

うっそうと茂った森の奥に、いかにもそれらしい古い館があった。


「ぐわっはっはっは!よく来たな!勇者メリケン!」

立派な太鼓腹を隠すでもなく、むしろ豪快に揺らす巨漢がそこにいた。どうでもいいが、あのサイズでどうやってこの部屋に入ったのだろうか?途中にあるドアはどう考えても普通の人間一人サイズの物ばかりだったのだが。

「この館のボス、メタボ伯爵がお前を冥途に送ってやるわ!」

テンがもう飽きた、とばかりに生あくびを噛み殺した。仕方あるまい。もうすでに数十回は似たようなセリフを聞いているのだから。

「今向こうが名乗ってくれた通りよ。あいつを倒したらこのダンジョンもクリアね」

「よし!任せとけ!」

メリケンは背中にしょった重そうな袋の中から、いくつかの小さい袋を取り出し、メタボ伯爵の足元に投げつけた!

そこからもうもうと沸き立つ煙。舞台は整った。

「いくぞ、必・殺!………?」

メリケンが決め台詞を叫ぼうとしたその時だった。

周囲を白く埋め尽くしていた白い煙があっと言う間に薄くなっていく。

「何故だ!?」

焦るメリケン。

「ぐっふっふっふ……どうした?お前の力はそんなものか!?」

もう一度とばかりにメリケンが小さい袋を投げつける。また白い煙に覆われる視界。

そしてメリケンは信じられない物を見た。

「粉塵を……吸っているだと!?」

なんと、メタボ伯爵が空中に舞う粉塵を人一倍大きい口で掃除機のようにすべて吸収してしまっていたのだ!

「ぐっふっふっふ……わしに粉塵爆破は効かん!小麦粉は大好物だからな!」

「つっても粉のままで食うもんじゃないでしょ」

テンが思わず横から口を挟む。

思わぬピンチにメリケンは次々と粉の入った袋を放るが、結果は同じだった。

そして、とうとう魔法の白い粉が尽きた。

「しまった!品切れか!」

「げっぷ……わしももう満腹だが……そちらの粉がつきるのが早かったようだな……」

「くっ……どうすれば……!?」

「そういえばさ、ごにょごにょ……」

「それだ!テン!」

テンの耳打ちを受けて、メリケンは脱兎のごとく逃げ出した。

「なにっ!?逃がさんぞ!」

とは言うものの、粉の取りすぎでさらに重量を増したメタボ伯爵はあっさりと置いて行かれた。


「くはーっ……くはーっ……おっ……おいつめたぞ……」

いわば自分の家の中を歩き回っているだけだというのに、フルマラソンを終えた後のような疲労感を漂わせているのが痛々しいメタボ伯爵。

「なんかこいつって、倒さなくてもそのうち早死にしそうよね……」

メリケンが追い詰められたのは食糧庫だった。

テンがメリケンに耳打ちしたのはここのことだったのだ。

「はたして追い詰められたのはどちらかな?メタボ伯爵!」

メリケンは勇者の余裕を取り戻していた。そう。ここならば、我らが勇者メリケンの必殺技の源、魔法の白いの粉がある!

「ぐわーっはっはっは!」

高らかに笑ったのはメタボ伯爵だった。

「甘いな!勇者メリケン!こんなこともあろうかと、備蓄してあったありったけの小麦粉は、既にわしの胃の中よ!さすがにきつかったがな!」

メタボ伯爵の絶望の宣言に対しても、一切ひるむことなくメリケンは余裕の笑みを見せた。

「はたしてそうかな?メタボ伯爵!?」

メリケンが言うと同時にメリケンからぶわっと白い煙が立ち昇った!

「なにいっ!?まさか!?」

メタボ伯爵が驚愕の声を上げる。

「粉塵爆破は、小麦粉だけで起こすものではない!」

メタボ伯爵は満腹感に翻弄される体に鞭打って、少しでも粉塵を吸い込もうと吸引を開始した。そして、舌の上に感じた甘さによってその正体を悟った。

「これは……粉砂糖!?」

「そうだ!くらえ、メタボ伯爵!」

粉砂糖でも当然粉塵爆発は起きる。

しかも、周知の通りその威力は小麦粉よりも大きい危険な代物だ。

「必・殺!粉塵爆破!」


「医者の言う通り、糖分制限しておくんだっ―――――」


カッ!


チュド―――――――ン!!!!


それが。

強敵メタボ男爵の最期だった。



「メタボ男爵も倒したし、もうそろそろ魔王退治でもいいんじゃない?」

使い果たした魔法の白い粉もたっぷりと補充し、メリケンは意気揚々と街道を歩いていた。

「そうだな!俺の粉塵爆破に敵はいない!」

「ちゃっちゃと済ませましょ。今度の休暇は家でビデオ見ながらだらだら過ごす予定なんだから」

「30代干物女のような休日だな」

「ほっとけ!」

そんなやり取りをしている二人の前に、一つの影が立ちはだかった。

「勇者メリケン殿とお見受けする」

全身をとげとげの甲冑に身を包み、鋭い眼光を持った相手だった。いかにも強そうなオーラを立ち昇らせている。

「そうだ!俺がメリケンだ!お前は?」

「それがしは魔界騎士グンダルフ。勇者殿の強さを風の噂に聞き、こうして訪ねてまいった。お手合わせ願いたい!」

そう言うとグンダルフはどう見ても実用には向かないと思われるギザギザの刃を付けたエグいデザインの剣を抜いた。こんな見た目でも伝説の~とか名前が付いたりすると恐るべき威力を発揮したりするので侮れない。

「一騎打ちか!敵ながらあっぱれだ!いくぞ!」

メリケンが腰から抜いたのは初期装備……どころかガラクタ屋で銅貨3枚で買ったなまくらのショートソードだ。紐を切ったりするのに必要だからと鋏代わりに持っているような代物である。

「魔界騎士グンダルフ………魔界随一の剣術の達人よ!大丈夫なの!?メリケン!ここでは粉塵爆破は使えないのよ!?」

テンが叫ぶ。

そう。ここは真昼間の見晴らしのいい街道沿い。

粉塵爆破は可燃性の粉末状の物質が空間内に一定の密度に達した時、連鎖的に引火することで起きる現象である。

故に開けた空間では粉塵爆破を行うことは難しかった。

RPGにおけるほとんどのボスキャラは城の中や洞窟の中などの一番奥で待ち構えていることが多いため、自然と決闘の場が密室になることが多かったのだが、今回の敵は自分から出向いてきたためメリケンの最大の必殺技を自然と封印した格好になったのである。

予想外の強敵であった。

「行くぞ、勇者メリケ――――――ぐぼあっ!?」

バキョッ!

グンダルフはメリケンの拳を受けて吹っ飛んだ。

「すまん!その鎧硬そうだから、刃が欠けそうで嫌だった!」

てっきり右手のショートソードが来るとばかり思っていた魔界一の剣士は、思わぬ素手の攻撃をまともにくらってしまった。

「え……なにそれ」

テンも目を点にして呟く。

メリケンはそのままグンダルフに馬乗りになり、甲冑などものともせずに情け容赦ないパウンドの雨をグンダルフに降らせる。いやぁ!やめてぇ!ゆるしてぇ!などというグンダルフの情けない声をかき消しながら、あまり聞きたくないガスッグシャッドカドカッという音が続いた。

「あー……ボス格をほとんど一人で倒したもんだから、めっちゃレベル上がってるのね……」

一人旅は獲得経験値が多い。一部RPGの常識である。

一方的な戦闘が終わったところですでに自力では立ち上がることのできないグンダルフがぴくぴくしながらも、最後のプライドでこう言った。

「噂に違わぬ強さだな、勇者メリケン……さあ、とどめを刺せ!」

兜の中で固く目をつぶって一撃を待つグンダルフだったが、いくら待ってもとどめはやってこなかった。

「なぜだ………はっ!もしや、それがしに情けをかけるというのか!?」

メリケンの器に感激し、起き上がって仲間になってもいいかもしれないくらいの気持ちを胸にグンダルフはつぶっていた目を開けた。

しかし、グンダルフの前に待っていたのは絶望の白い粉塵だった。

メリケンは風上に陣取り、通常では考えられないほどの奇跡の粉をグンダルフに向かって使用していたのである。たとえ開けた場所でも粉の量さえ十分なら粉塵爆破を起こすことはできる。

グンダルフは絶叫した。


「頼む!せめて剣で―――――」


「必・殺!粉塵爆破!」


カカッ!!


チュド―――――――――――ン!!!!


ひときわ大きい炎の花が街道に咲いた。

「……っていうか、あんた粉塵爆破使わなくていいんじゃないの?」

テンがその横で眩しさからか、半眼になってそう言った。




「なんであんたってそんなに粉塵爆破にこだわるの?」

魔王城突入前夜。

メリケンとテンは魔王城の近くの森で野宿をしていた。

ロシナンテも日々の疲れがたまっているのか、すぴすぴと鼻提灯を膨らませながら安らかに寝ている。

メリケンとテンは倒れた木に寄りかかりながら、毛布を首までまとい、たき火を囲んで話をしていた。

「昔、アメリアばあちゃんに聞かされたんだ……」


―――いいかい、メリケンや。

アメリアはメリケンの祖母で、メリケンによく昔話を聞かせてくれた。メリケンもアメリアによく懐き、夜も遅いというのに次の話、次の話とせがんだものだった。


―――強い敵や大きな壁がある時、人は粉塵爆破に頼るんだよ

アメリアの語る昔話の主人公は誰もが粉塵爆破の達人だった。決めのシーンを語る時、アメリは小さな体を大きく動かして爆破を表現した。メリケンは目を輝かせてその物語に聞き入っていた。


―――そうやってうちの店もどんどん大きくなってきたんだよ

アメリアは自分の過去に関してはあまり語ろうとはしなかったが、彼女も粉塵爆破の達人だった。メリケンはそんな彼女に粉塵爆破のいろはを教わった。


―――この回想は皆様の食卓を支えるドナルド商会の提供でお送りしました


「というわけだ」

「イヤなばーさんね!っていうか、回想シーンにCM挟むんじゃない!」

「だから俺は粉塵爆破に誇りを持ってる。メリケンって名前も魔法の白い粉の商品名からとってアメリアばあちゃんがつけてくれたんだ」

「あたしならそんな名前つけられたらグレるわ」

「天の使いだからテンって名前もどうかと思うぞ」

「うるさい!」

こうして、最後の憩いの夜はふけていった……



「おーっほっほっほっほ!よく来たわね、勇者メリケン!ここがあなたの墓場となるのよ!」

魔王城の奥深く、ついにメリケンは魔王と対峙していた。

「わたくしの名は魔王アックア!わたくしの魔力の前にひれ伏すがいいわ!」

こんな城の奥深くで何の意味があるのか分からない水着の様な露出の多い服と、アンバランスな王冠にマントと王笏といった出で立ちの魔王が高らかにそう宣言した。

「相手が誰だろうと俺の粉塵爆破の前に敵はない!」

言うが早いか奇跡の粉の入った袋を投げつけ……

「させるか!ウォータービーム!」

魔王の手から一条の水が飛び出し袋にかかる。当然、粉は濡れてしまって粉塵とならなかった。

「なに!?」

「ふっふっふ。この水魔法がある限り、私に粉塵爆破は効かぬ!」

「なら次だ!」

次々と奇跡の粉を投げつけるメリケン。しかし片っ端から魔王の水魔法に撃墜されていく。あっという間にメリケンが持ち込んだ魔法の白い粉は底をついた。

「っく………ロシナンテー!!」

メリケンが甲高い指笛を吹くと、ややあってロシナンテがえいこら現れた。

「甘いわ!ウォーターボール!」

大きな球状の水が、コントの舞台よろしくばっしゃんとメリケンとロシナンテの上に降り注いだ。当然、ロシナンテが担いでいた袋の中の魔法の白い粉も全滅した。

「ふっふっふ。どうした。もうおしまいなの!?」

「さすがは魔王………手ごわい!」

「はたから見てると水遊びしてるだけなんだけど……」

すっかり観戦モードのテンがそうぼやく。

本人たちは緊張の戦闘シーンかもしれないが、やってることと言えば粉を投げつけるか水をかけるか。子供のいたずら程度の内容である。

「あー……ここにも食糧庫ってあったんだけど……この情報って役に立つ?」

「よくやった!テン!」

メリケンは聞くが早いかまたも脱兎のごとく逃げ出した。

「くっくっく……おろかな……」

しかし魔王アックアは余裕の悪どい企み笑みを浮かべていた。


場所は変わって食糧庫。

最後の決戦が食糧に囲まれているRPGというのも珍しい。

「どこに隠れたの!?勇者メリケン!」

ぶっちゃけそんなに隠れる場所の無い食糧庫で姿が見えないなら、少し奥の穀物庫くらいしかないのだが、アックアは一応お約束としてそう叫んだ。

「お前はわずかな希望にすがっているのかもしれないけれど、すでにメタボ伯爵の一件はわたくしの耳にも入っているわ!

ここには小麦粉、粉砂糖はおろかそば粉もパン粉も片栗粉も粉っぽいものは一切置いていないのよ!観念するがいいわ!」

言って、つかつかと穀物庫の扉に近寄る。

この向こう側ではあのにっくき勇者が、雨に濡れた子犬のように恐怖で打ち震えているのだ……!そう考えると、アックアはこみ上げてくる笑いを押さえきれなかった。

「とどめよ!勇者メリケン!」

勢いよく穀物庫を開け放つと、アックアの前に白い壁が現れた。


「きゃぁっ!?」

ぶわっ


その壁がアックアに向かって倒れ込んでくる――と思われたが、壁と思ったそれはまごう事なき粉塵だった!


「ばかなっ!?ここには粉など……はっ!?」

驚愕するその粉塵の向こう側にメリケンの姿があった。メリケンは一つの石臼を抱え、それを高速で回転させていた。

「これぞ粉塵爆発最終奥義……!」

信じられないスピードで小麦から小麦粉が生み出され、それがそのまま宙に舞う。石臼の高速回転が巻き起こした突風が絶妙な割合で空気と粉とを混和していく!

「石臼などどこから!?」

「こんなこともあろうかと、ロシナンテに魔法の粉だけでなくMY石臼も積んでいるんだっ!!」

道理でロシナンテが疲れているわけである。

「ちいいっ!ウォーター………」

「遅いっ!!!滅せよアックア!!!」

メリケンの回す石臼の速度が更に上昇し火花を散らす!


「奥・義!!粉塵大爆破!!!!」


カカカッ!!!


チュドド――――――――――――――――ン!!!!


魔王城の地下食糧庫で起きた正義の爆発は、その城塞を貫き、勝利の火柱を天高く吹き上げた。




「さすがね……勇者メリケン……」

メリケンの足元に倒れたアックア。あれだけの爆発にもかかわらず服には少しの焼け焦げしかないのはさすが魔王と言うべきだろう。女性キャラに対する大人の事情などではない。

「けれど、わたくしを倒してもいずれ第二、第三の魔王が現れるわ……あなたが敗れる日が来るのを地獄で待っているわ……」

がくりと崩れるアックア。

そのアックアの前でメリケンは拳を硬く握った。

「俺は……負けない!魔法の白い粉と炎がある限り!」

「……時節柄その表現もやめた方がよくない……?」

テンが一筋の汗を垂らしながらそうツッコんだ。



~エピローグ~

その後もアックアの言う通り次から次へと夏の雑草のごとく魔王が現れ、メリケンは次々とその魔王を打ち倒し、稀代の勇者の名を欲しいままにしていた。

テンは神様を労基に訴えてやるとぼやきながらメリケンと旅を続ける。

ロシナンテは相変わらず何を考えているのか分からないぼんやりした顔ながら、熟練の足運びで勇者メリケンの力の源を運んでいた。

そして今日も世界のどこかでチュドーンと勝利の凱歌が鳴り響く。



注:劇中にて使用された食品類は登場人物たちが美味しくいただきました


粉塵爆発は湿度が……とか最大濃度を越えたら爆発しない……とかのツッコミは100も承知です。反省はしておりません。

白羽の矢も立つもんですしね。


書いてる最中は非常に楽しかったことは事実ですので、また機会があればおバカ話を書きたいと思います。


それではみなさんご唱和を。


「必・殺!粉塵爆破!」


カッ!!

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