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拍手に置いていた小話です。
最初話しかけられたときは、うるさい女に絡まれた、と言うのが第一印象。
顔だけなら女ウケがいいという理由で、騙されて合コンの数合わせで連れて行かれた物の、苦手意識の方が先に立つ。
普通にしゃべると口が悪いだの、嫌味ばっかりだのと責められ鼻白まれて、黙っていると態度が悪いだのノリが悪いと結局責められる。
顔より中身だろっと思わせる為にかり出されるのは不愉快で、絶対に金ははらわねぇ、と心に決める。
適当に酒を飲みながら冷めた気分でその場を眺めていたその時だった。
「全然話にはいんないんだね?」
一番騒がしいと思いながら眺めていた女が声をかけてきた。
「入る気ないし」
「そっか。じゃあ、えーと、高崎君だっけ? 私なんかあぶれてるから話し相手になってよ」
全然あぶれているようには見えなかったが。
隅で人間観察状態になっていた俺の目には、この女は盛り上げ役に徹していて最初からずいぶんと楽しそうだった。同時に男と話すためにきた、というそういうがんばりは見えなかったのが印象に残っている。
彼女の視線をたどってみれば、気がつけば確かに、ひとまずそれぞれが盛り上がっていて、全体の盛り上げ役をしている彼女の需要はなさそうだった。
「こうなると、私あぶれるんだよね」
「うるさくなくて良いじゃないか」
「あ! 気にしてることをさらっと言ったね?!」
しまった、また余計なことを言った。
と思ったが、気にしていると言った彼女は笑っている。
「……あんた、食う暇もなかっただろ? 今の内に食っとけば?」
「そうだね~。じゃあ、高崎君が私に食べさせてくれても良いよ! はい、あーん」
馬鹿か、こいつ。口あけて待ってるとか。
「頭わいてるだろ」
「照れなくて良いのよ! せっかくの合コンなんだから!」
「お前、合コンにどんなイメージ持ってるんだ。馬鹿だろ」
「んもー、照れ屋さん☆」
あ、駄目だ、こいつ、話通じねぇ。
アタマ痛い。
この女はアホみたいににこにこ笑いながら、俺が何を言っても気にすることなく話しかけてくる。
いつの間にか、俺はいつもの「女には余計なことは言わないようにしよう」という気持ちがすっかり抜けて、普通にしゃべっていた。
男同士でも、初対面でここまで言っていたらキツイと感じられがちな俺の言葉を全く気にせず受け流したこの女は、何が気に入ったのか、最後には「付き合って下さい」とか言ってきた。
こいつ、ネタでそこまでするのか。
「無理」
普通に考えて無理だろ。なに言ってるんだ、このバカ。
「そこを何とか!」
俺は確かに、無理の一言ぐらいでこいつが傷つくとは思ってなかった。思ってなかったからそう言ったわけだが、ひるむことなくにこにこと何で更に吹っ掛けてくるんだ。
けれどなんだかんだと、彼女をおもしろいと思う気持ちはあった。こうやって気軽に話せる女も滅多にいない。女に興味がないわけでもなく。平たく言うと、それなりに、というか、結構好みだった。
うるさいはうるさいが、嫌いじゃない。
押し切られる、と言う形で、結局連絡先を交換したときは、まさかそれから一ヶ月、会う度に告白されることになるとは思わなかった。
更に言うなら、そのまま、鈴が俺の所に来るのが楽しみになったり、なに言ってもにこにこしながらくっついてくるのがかわいいと思ったりするようになるとは、欠片ほども想ってなかった。