南軍
初カキコ…ども…
“hurraaaaah!!!”誰かがやけくそで叫ぶ声。
「ドォォン」大砲から撃ち出された弾丸が兵士を耕す音。
「ピシュッ、バタッ」隣にいた仲間が撃たれて倒れる音。
硝煙と、土と、何かが焼ける匂い。
目の前にある、ショットグラスに注がれたウイスキーを飲む。
”foooo!!!”酔っ払いが気を良くして叫ぶ声。
「バタッ!」酔っ払いが転ぶ音。
酒と、土と、焼けた肉の匂い。たぶん鹿肉だろう。
今は1870年。1863年ではない。
「『勇者』も戦いが怖かっただなんて、意外だな。軍にいた頃は殺人鬼みたいなやつだって聞いていたんだがな」
酒場の店主がグラスやらボトルやらを片付けながら、『勇者』と呼ばれている男に話しかけた。
ここは合衆国の西部開拓地にある酒場。ガンマンやらカウボーイやらがたくさんいる。もちろんお尋ね者やゴロツキだっている。
俺はロバート・サムター。元軍人だ。『勇者』ってのは軍にいた頃のあだ名だ。
『内戦』あの戦争は今ではそう呼ばれている。俺は南軍で戦った。所属は北ウィンギニア軍第1軍団。歩兵をやっていた。
『内戦』の経過はこんな感じだ。俺らの南軍を率いた政治家は『連合国』として『合衆国』から独立を宣言し、合衆国へ侵攻。戦争状態になった。これが1861年のこと。最初の1,2年は南軍優勢だったが、しばらくしてからヤンキーが盛り返してきた。俺らの部隊は最後まで戦ったが結局は将軍が降伏して負けちまった。これが1865年のこと。
おれは1861年の最初の攻撃から1865年の最後の戦いまで、ずっと従軍していた……。クソみたいな戦争だった。
閑話休題。
「殺人鬼扱いされるのは流石に傷つくな。店主、所属はどこだったんだ?」
「北軍で歩兵をしていた。ウィンギニアに部隊の拠点があった」
「お前もウィンギニアにいたのか。ならどこかの戦場で会ったかもな」
「客として接するなら良いが、敵として接するのは御免だね」
店主が小さめのため息をついた。それほど『勇者』としての俺が恐ろしかったのらしい。南軍にいた頃なら、北軍に恐れられるのは悪いことじゃなかったんだが、今みたいに敵じゃない人間から怖がられるのはこう…何というか疎外感というかショックというか…。
いちおう断っておくが別に俺は好きで人殺しをしてたんじゃない。金がないから軍にいた。軍にいたら『内戦』が開始……で、気づけば『勇者』なんてあだ名がついていた。ただそれだけの事だ。
俺はどこにでもいるごく普通の市民だ。(気分的には合衆国の市民というより、連合国の市民なのだが……)
「店主。もう一杯ウイスキーを」
「よく飲むなアンタ。5杯目だぞ?軍にいた頃から酒は好きだったのか?」
ショットグラスにウイスキーが注がれた。
「酒……別に好きでも嫌いでもなかった。こんな風になったのは『内戦』が終わってからだ」
酒を飲むと嫌なことを忘れられる。まだ酔っぱらっていたい。現実はクソだ。何もかも失った。
「アンタも大変だな」
……これ以上やけ酒をしてたら酔いつぶれてしまう。そろそろ店を出るか。
えーと……5杯飲んでて、1杯3セントだから15セント。1セント硬貨5枚と10セント硬貨1枚をポケットから出す……ってこれ10セント硬貨じゃなくて1セント硬貨じゃねーか。10セント硬貨は……無い。今の全財産は1セント硬貨6枚。1セント硬貨5枚と10セント硬貨1枚じゃない。1セント硬貨6枚だ……。
要するに、金が、無いのだ。
どうすんだコレ?
「お会計か?」
店主が尋ねてきた。
これは……マズい。とてつもなくマズい。どのくらいマズいかって3m手前に砲弾が降ってきた時くらいマズい。
「どうした?1セント硬貨なんて見つめて」
あー……。どうしよ、コレ。どうにかして金を払わずに済ませられないか……?
ガチャン!!!
突然、グラスの割れる音が響いた。
「お前!イカサマしただろ!!!」
「何だよ俺のやり方に文句あんのかよ!!!」
……酔っ払いが喧嘩している。ここは西部開拓地の酒場。荒くれやお尋ね者なんかは日常茶飯事だ。
「はぁ……めんどくさい連中が出てきた……。喧嘩なら外でやってくれ!!!」
酔っ払いどもは聞く耳を持たない。ああいう連中は子供より聞き分けが悪い。
店主がうんざりした顔を浮かべている。
その時、頭の上の電球(時代的にはまだ実用化されていない)に明かりが点いた。
(……あの酔っ払いを追い出せば、代金をチャラにしてくれるのでは?)
「なあ、店主。おれは用心棒みたいな仕事で生計を立てているんだが、どうだ?今だけ俺を雇ってみる気はないか?」
「アンタを雇ったら、あの酔っ払いどもを追い出してくれるのか?」
食いついてきた。コレはいける?
「もちろんだ。俺は『内戦』を最初から最後まで戦い抜いた兵士だぞ?」
「……法外な値段を吹っかけるつもりか?」
「20セントでいい」
体を張る仕事としては異常なほど格安。だが酒代がチャラになるならそれでも問題無い……追加で5セントぐらいなら貰ってもバチは当たらないだろ。
「アンタ、酔っ払い過ぎじゃないか?」
「頭はまともだ。同じ戦場にいたからな、特別サービスだ」
店主は困惑している。当然だ。この手の用心棒は概して法外な値段を吹っかけてくる。酒を何杯か頼めば消えてしまうような金額で雇われる用心棒など天地開闢以来いなかっただろう。今この瞬間まではな。
……俺の望みはただ一つ。酒代をチャラにすることだ。
「後になって値段を吊り上げるつもりか?」
「そんなわけないだろ。俺の背中に銃を突き付けてもらっても構わない」
ーーさて、仕事を始めよう。
酔っ払いどもは酒のせいで呂律が回っていないので何を言っているのかは聞き取れないが、たぶん罵詈雑言だろう。
「あー……。ちょっとお話してもいいかなお二人さん?」
……酔っ払いは聞く耳を持たない。もう一度、大声で試してみる。
「おーい!!!お話してもいいかな!!!」
「うるせぇ!何の用……ですか?」
やっと反応した。同時に酔いも覚めたらしい。
自分で言うのもなんだが、目の前にいるのは身長が190㎝程の、筋骨隆々な軍人崩れの大男が急に目の前に現れたのだ。普通はビビるよな。
「俺はこの店の用心棒をしている者でね、喧嘩で騒いでいたから駆けつけてきたのだよ。……喧嘩なら外でやってくれないかな?」
「……」
酔っ払いどもは小動物みたいに小さくなって黙っている。
「それとも……俺も喧嘩に混ざればいいかな?」
「……そそそ外で喧嘩します!!!」
酔っ払いどもがしっぽを巻いて店から出ていった。
よし。お仕事完了。
「店主、こんな感じでいいか?」
「……あ、あぁ。十分だ」
店主の声は少し震えている。『内戦』中のことを思い出したのか?
念のため、もう一度言っておく。俺はごく普通の連合国……じゃなくて合衆国の市民だ。殺人鬼なんかじゃない。(『内戦』終結以来、西部開拓地を放浪しているのでゴロツキ扱いされるのは仕方ないとして)
かくして、『内戦』が終結してから最大の危機を回避することができた……5セントのおまけ付きで。




