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きらきら君にも見えるかな

「わあー、綺麗だね、才谷!」


またまたまたもや意味不明な始まり方である。もはや定番化してきたこの流れだが、少々お付き合いいただきたい。今この男・才谷和樹は、同級生で同じ部活の女子・高城美月と二人で観覧車に乗っている。全く意味がわからないと思うが、彼自身も意味がわからない。なぜこうなったのかをざっと説明しよう。

 あの日は近所の商店街へ買い出しに来ていた。暦は七月を差し、すっかり夏を迎えた。九月に控える文化祭に向けて、いよいよ文学部は動き出したのだ。とは言っても、原稿用紙やその他飾り付けの道具を購入しに来ただけなのだが。特に美月は『しっかりやるわよ!』とか言っておきながらあちこちに寄り道して、アクセサリーだのおもしろ文房具だの便利家庭グッズだのを購入していた。そうして散財しているうちに、貯まっていく。そう、福引券である。商店街が町おこしのためにやっているもので、一等はなんと遊園地のペアチケット!!

ここまで言えばもうお分かりになったと思うがもう少しお付き合い願いたい。和樹三枚、秀二枚、美月十一枚の合計十六枚で福引を回す。そしてそう、当たってしまったのだ。一等・遊園地のペアチケット。だがここで大事なのは『ペア』であることだ。つまり三人組の彼らは、誰か一人行けないことになってしまう。なぜかじゃんけんで勝った人が"行けない"という意味不明なルールが秀によって制定されたが、結果は秀が勝利を収めて終了した。

 当日、普段なら絶対来ないファンシーな雰囲気が漂う駅の前に和樹は立っていた。きっと誰もが見たことのある国民的キャラクターの像が待ち構えているのをじっと見つめていると、


「ごめん!待った?」


これは、男子が憧れるセリフランキング第六位(くらい)のあれを言う時だ。


「いや、全然待ってな…」


そこにいたのは、いつも部室でふんぞりかえっているヤツとは思えない、お洒落で可憐な女性がいた。まるで雑誌の表紙にいるような、でもどこかで会ったこともあるような…?


「え、美月…?」


「そうよ!なに、文句でもあるわけ。」


慌てて首を横に振る。もちろん本心である。


「そう。ならいいわ!せっかくチケットもらえたんだから、楽しみましょ!」


童話の世界から出てきたようなその少女は軽い足取りで入場ゲートへと向かう。彼女から漂う甘い香りに誘われて、和樹もまたそちらへと向かうのだった。


 なんか浮ついた空気で忘れていたが、和樹は絶叫マシンが大の苦手であった。一つ目に乗った『ナントカマウンテン』とかいうやつは、園内最恐のマシンらしくいきなり体調はどん底へと落ちてしまった。


「だ、大丈夫?次はもっと緩いやつ乗りましょう!」



『今、みなさんが見上げているのは八月の午後八時ごろの星空です。それでは、地平線から天の川をさかのぼる旅に出てみましょう。』


遊園地ってプラネタリウムもあるのか、と和樹は思った。それにしても、これは緩すぎだろう。星座なんか一つもわからないぞ。ふと横を見ると、美月はキラキラした瞳で星々に見惚れていた。まあ、美月が楽しそうならそれでいいか。そういえば、キャンプの日もこんな星を見たなあ、なんて考えていた。


『こちらに見えるのは彗星です。地球からでも綺麗に見えることがあります。』


ミチュが初めて来た日に見た彗星もこんな感じだったか。というか、このプラネタリウムの彗星は多分あの日のモノの再現なのだろう。

 暗がりのドームから出ると、その明暗の激しさに目が追いつかない。プラネタリウムに入っていると忘れがちだが、まだまだ太陽が活動する時間である。


「すごかったね。才谷っ」


「そうだな。いつか本物の星を見たいものだな」


そこからはお化け屋敷、コーヒーカップなんかを楽しんだ後、少し軽食を取っていたらもう日没になっていた。


「ねえ才谷。暗くなってきたね。そして夜といえばやっぱりあれでしょ!」


彼女は大きな車輪のような乗り物を指差した。

 こうしてようやく冒頭へと戻る。それにしても、本当に綺麗な景色だ。昼間はただの木だったものすら今は電飾により光り輝いている。園内全体が光に満ちていて、幻想的な空間を作り出していた。


「あの、さ。才谷。」


「ん?なんだ。」


「アンタって、あの千影ちゃんって子のこと好きなの?」


急な質問だった。どういう回答をするのが正解なのだろうか。


「まあ、好きっていうかほっとけないやつだなって、思ってるだけだよ…」


「そう、なんだ。千影ちゃん、可愛いもんね!」


彼女が無理して笑っているのは正直わかった。でもそうだとしたら、彼女はもしかして…と思った時、事態は動く。

 観覧車から景色を一望している時、地上に明らかに違和感のある人物がいた。その人物はまるで、宇宙服のようなものを着ていて…


『高城美月。この人物を知っているか』


あの時の声が脳内でこだまする。鼓動が早くなる。嘘だろ?なんでここに?


「どうしたの?才谷。また気持ち悪くなっちゃった?」


「違うんだ。逃げよう、美月。ここは危ない。」


「はあ?何を言ってるの?なんかおかしいわよ?」


観覧車の扉が開くなり、和樹は美月の手を掴んで走り出した。


「とにかく園の外まで逃げるんだ!話はそれから!」


だけど、果たして和樹と美月だけで逃げ切れるのだろうか。誰かに連絡しよう。まだ何か起きたわけではないから、警察や園のスタッフの人に言うのは無理だ。そうなると知り合い?もう一人しか思いつかなかった。走りながら震える指で数字の番号を押していく。電話のコール音が小さく鳴る。早く、早く、早く、早く出てくれ。


「もしもし?才谷くん?」


ミチュだった。


「頼むミチュ!今ちょっと訳あって逃げないといけない!今すぐ来てもらえないか!」


「何があったの才谷くん。落ち着いて説明して。」


「なぜかわからないけど、美月を狙ってるやつが遊園地にいるんだ!助けてほしい!」


「な、それはどんな人なの!」


「なんか宇宙服みたいなの着てるんだけど顔はわからない!」


「悪いけどそちらには行けないわ。今オーナーに上手いこと言って迎えに行ってもらうわ!それまで耐えて!」


「頼んだぞ!ミチュ!」


そういって通話は終わった。


「ちょっと才谷!どういうことなのか説明して!腕痛いんだけど!」


「頼む!今は黙ってついてきてくれ!」


涙目になりながらそう言った和樹に、美月はそれ以上反論しなかった。ああ、いつかミチュが言っていた『大切な人との別れは突然』というのは、こういうことなのかもしれない、と思った。だけど、絶対にさせない。俺は美月を失うわけにはいかないと、和樹はそう堅く決意する。

 駐車場まで逃げる。父の車が来るまでまだ時間がある。和樹は美月を連れて、駐車場のトイレの陰に隠れた。


「そろそろ事情を説明してくれないかしら」


やっぱり結構怒っている。それもそうだ。わけもわからず遊園地から外に出されて、こんな場所に立ち尽くしている。


バサッ


「えっ」


和樹が美月を抱きしめた音だった。


「ごめんよ…美月…俺はお前を失いたくない」


「な、なんなのよ一体…説明はしてくれるのかしら」


「わかった、今から言うことは絶対に他の人には言わないでほしい。」


和樹は、合宿の日に謎スーツに出会ったこと、そいつが美月を探していたこと、そして今日遊園地に現れたことを説明した。美月も言いたいことはたくさんあったと思うが、ただ静かに聞いてくれた。やがて父の車がやってくると、美月は礼儀正しく乗車し無事に家まで送り届けられたのだった。父も何があったのかは聞かなかった。きっと彼なりに気を遣ったのだろう。


 帰宅した和樹はまずミチュの元に向かう。

 

「ミチュ、突然の電話で済まなかったな。無事に帰せたよ。ありがとう。」


「それはよかったわ。今未来のニュースを見ていたんだけどね、どうやら遊園地のサーバーが何者かにハッキングされたようなの」


「それは、どういう」


「つまり、その何者かは高城美月という人物が何年の何月何日に来場したのかを調べるために、ハッキングをしたんじゃないかしら」


「な、なんで美月が!」


「そこまではわからないわ。でもね才谷くん。一つわかることがあるわ。そのスーツ野郎の格好、そしてハッキング事件まで含めると、結論は一つ。」


そのスーツの人物は、未来からやってきている。

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