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流星に願いを込めて

 聞き間違いではなかった。確かにその女性は、才谷和樹の名を呼んだ。思考が追いつかない和樹だったが、千影の一言で我に帰る。


「だれー?和樹、知ってる人ー?」


和樹は一息つくと落ち着いてこう返した。


「い、いや。知らない人。」


だがそのボロボロな格好の女性はこちらへと近づいてくると、和樹の目の前で止まった。


「才谷和樹くんだよね。お願いがあります。私を助けてもらえますか。」


「ちょっと待ちな。とりあえずウチで風呂でも入って行きなよ。アンタもその格好じゃいろいろと困るだろう」


和樹の父親がカウンターから出てくると、親指で奥のプライベートルームを差した。


「と、父さん!本当にいいのかよ!この人誰なの?」


「誰だかは知らないけど、このままにしとくわけにはいかないだろう?」


女性は深々と頭を下げる。


「本当にありがとうございます。才谷くん。後でちょっとお話いいかしら。どうしても伝えたいことがあるの」


「わ、わかりました」


和樹は突然のことに全く話が飲み込めないが、とりあえず言うことを聞く方向で行動しようと決めた。女性は父に連れられ家の奥の方へと姿を消した。和樹は一気に気が抜けたように喫茶店の椅子にもたれかかる。


「和樹大丈夫ー?話ってなんだろうねー。」


「千影ちゃん。もう遅いから今日はお家に帰りなさい。またおいで」

 

父は店の方に戻ってくるとそういった。


「おい父さん!あんな怪しい女を家に一人にするなよ!」


和樹は急いで部屋の方へ向かうと、風呂の扉の前まで走る。部屋からは、シャワーの水が勢いよく地面に落ちていく音が聞こえた。これ、開けたら和樹が犯罪者になってしまう。店の方からは「おじゃましましたー」という千影の声がすると、カランコロンカランと扉が鳴いた。



 

「わあー!とても美味しいです!流石喫茶店のオーナー!料理も上手なんですね!」


「ははは!あまり料理を注文してくれるお客さんはいないからな!喜んでくれると嬉しいぜ!」


「父さん」


「なんだ」


「なんでこの人まで一緒に晩御飯食べてるんだよ!」


その女性はなぜか風呂から上がると、そのまま成り行きでご飯を食べていくことになった。ボロボロの格好だったから気づかなかったけど、この女性は意外と美人でドキドキしたのは内緒だ。


「仕方ないだろう!事情も聞きたいしせっかくならご飯を食べながらでも聞かせてもらわないと!」


確かに聞きたいことはたくさんある。なぜ和樹に話があるとか言い出したのか。というか、なぜ名前を知っているのか。謎は謎を呼ぶばかりだった。


「本当にご迷惑をおかけしています。申し訳なく思っています。実は私、恥ずかしながら昨日かなりのお酒を飲んでしまいまして、気がついたらこの街にいて。お金ももう持ってなくて困ってたんです。その時に和樹くんの噂を聞いて、なんとかここまで辿り着いたんです。」


「そうだったのか!なるほどなあ、大変だったね」


いやおかしいだろ。俺の噂ってなんだよ。と和樹は思った。この女、嘘をついている。だが父はなぜか今ので納得したようで、さらにとんでもないことを言い出した。


「もう今日は遅いし、泊まっていくと良いよ。物置みたいな部屋しかないけどさ」




 和樹の部屋には大きな窓があった。その窓からは果てしなく広がる夜空が見渡せた。

 

(そういえば今日はなんとか彗星ってのが見えるとかいうニュースがあったような)


その時だ。部屋の扉が軽快な音でノックされた。


「才谷くん。ちょっと良いですか。話があります」


これは話を聞かないと進まないと思った和樹は仕方なく返答する。


「いいよ。入って。」


ゆっくり、静かに戸を開けた女性は小声でおじゃまします、と言い部屋に入ってくる。なんというか、全体的に来ている服が緩くて目のやり場に困った。


「入れてくれてありがとうね。才谷くん。というか、自己紹介がまだだったわね!私はみ…そう、『ミチュ』よ。よろしくね」


ミチュ?そんなものが本名なわけないだろう。まあそこに引っ掛かっていると話が進まないため、仕方なく和樹は続きを聞くことにした。


「そう、話なんだけどね才谷くん。私、未来から来たんです」


?????


この人は何を言っているんだ。やっぱりヤバいやつを家に入れてしまった。警察を呼んだほうがいいかもしれない。


「ちょっと待って!最後まで話を聞いて!」


「なんですか。僕はその手のオカルトは信じてませんよ」


「違うの才谷くん。これはフィクションなんかじゃない。本当の話なの。」


ミチュは話を始める。


「いい?今から言うことはきっと信じられないと思う。だけど信じてほしい。そのための証拠が欲しいならできる限り用意するから。まず、今から十年後にこの世界にタイムマシンが完成するわ。」


「タイムマシン?あの過去に行ったり未来に行ったりできるやつですよね?」


「そう。私はそれに乗ってこの時代に来ました。だけどね、本当はここに来るつもりじゃなかったの。もう十五年ほど過去に行くつもりだったのよ。だけどタイムマシンはまだ完成して間もなくて、不具合も多かった。私が乗ってきた機体は稼働中にエラーを起こしてこの時代に不時着したわ。」


「あなた一人で来たんですか?なんのために?」


「私一人で来たわ。タイムマシンが完成したと言っても稼働させるのには膨大なコストがかかる。私一人を飛ばすので精一杯だったわ。そして、私がなんのためにこの時代に来たかなんだけど」


ミチュは一息置くと、


「助けたい人がいるの。今から十年後の未来で起こっていることを話します。タイムマシンが完成したのはとても喜ばしいことだったのだけれど、そのタイムマシンの設計図や使用権を巡って世界規模の戦争の火種になったのよ。たくさんの国や人が好き勝手にタイムマシンを使うと、タイムパラドックスが起きやすくなって事故の元になるからね。」


タイムパラドックスというのは、時間遡行によって本来起きたはずの事象が書き換わり、未来との整合性が取れなくなってしまう矛盾のことである。


「そして私は、その戦争で大切な人を亡くしたわ」


ミチュはそうとだけ言った。和樹の表情が少し変わる。今まで自分勝手で怪しいと思っていたその女は、自分となんら変わらない人間のように思えてきた。


「だから私はそうならない未来にしたいの。戦争なんて起こらない未来でその人と一緒に歩いて行きたいのよ」


和樹はずっと窓の外を見ていたが、ようやくミチュの方を真っ直ぐに見つめた。


「僕もその気持ちはわかります。母を三年前に亡くしていますから。もしタイムマシンで母を救えるなら僕もきっとそうすると思います。だけど僕があなたを信用するにはもう一つ情報が足りない。なぜあなたは僕のことを知っていたんですか。これに納得がいかない限り協力も信用もできません。」


ミチュは少し辛そうな顔をしたが、すぐにこう返した。


「あなたは未来だと結構有名な人なのよ。今はまだわからないだろうけどね。」


なんかよくわからないが、これ以上は聞けないと思った。その時だった。夜空に一筋の彗星が流れた。

 

「綺麗よね。いつだったか、あの人とこんな彗星を見たのよ」


ミチュがどんな想いでこの時代に来たのかは知らない。そもそもこの話が本当なのかの確証だってない。だけどもし全て本当なら、彼女の願いが叶うといいな、と和樹は流星に祈りを捧げるのだった。

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