またいつか、光速を超えて
外は騒がしかった。誰もいないでお馴染みの旧校舎にも、今日は珍しくたくさんの人がいた。皆が思い思いの格好をして、好きな食べ物を食べている。いつも通りタイヤの付いている偉そうな椅子に座っている美月は、完成した作品を見て自分でニヤニヤとしていた。
「まだ二冊くらいしか持っていかれてないけどな。しかも一冊は俺たちの担任の先生」
秀がまた余計なことを言って、美月を怒らせていた。窓から外を見ると、グラウンドにはたくさんの屋台が並んでいた。そしてその横には恐らく有志の人たちで作り上げた、大きな看板があった。
『文化祭』
九月になっても蒸し暑いのに部室にはクーラーがない。みんなして駅前で配られていた団扇を必死に仰ぐが、全然涼しくはなかった。部長さんだけはなぜか扇風機を使っているが、そちらも熱風しか来ないとブーブー文句を垂れていたのだった。
時刻は十時を回ると、一件の通知が和樹の携帯に舞い込む。
『着いた 和樹 どこにいる』
和樹の恋人、千影だった。
「なんだー、才谷。ニヤニヤしちゃって。千影ちゃん?うまくやってんだろ、お前。羨ましいのなんのって」
秀はなぜか人一倍楽しそうだ。美月もチラッとだけこちらを見ると、
「待たせたら可哀想よ。行ってあげなさい。これは部長命令よ」
とだけ言って、製本された作品に目を通し始めた。ここにいる美月もきっと和樹のことが好きだったはずだ。だから、だから。
「ありがとう。俺行ってくるよ」
そういうと雑に用意されただけのようなパイプ椅子から腰を上げて、急いで外へと駆け出した。
「お熱いね〜、才谷」
「本当よ、全く」
秀と美月もなんだかんだでその背中を見てふふっと笑った。
千影がいると言うグラウンドへと降りると、もうそこにいた。口の周りがソースまみれになっていて、今は綿飴を食べている。この短時間で色々食べ過ぎだろう。
「お待たせ、千影」
「あー、和樹ー。」
いつもはよくわからない英単語のようなものが書いてあるシャツを着ている千影だったが、今日は可愛らしい装飾が施された服を着ていた。ご飯はある程度食べていたようなので、和樹と千影はアトラクションが楽しめるような場所へと行くことにした。お化け屋敷や演劇、探偵を体験できるクラスなんかもあった。今までずっと、千影の表情は変わらないからわかりにくいと言っていたが、和樹にはわかる。千影は、とても楽しそうだった。
「次はどこ行こうか。結構回っちゃったな。」
千影はまた何か食べている。それはどうやらホットドッグのようだ。千影の鼻に少し付着しているケチャップを和樹は持っていたハンカチで拭ってやる。
「うーん。じゃあさー。あそこ、行こうよー。」
千影は比較的人が多くない方を指差す。いや、向こうにあるのは……?
「あら、いらっしゃい。戻ってきたのね」
部長さんの機嫌はあまり良くない。長机に置かれた我々の小説もあまり減ってないようだ。
「お、千影ちゃんもいらっしゃーい!」
秀は何やらヘラヘラと楽しそうだった。なぜこの空気で楽しそうなのかは理解に苦しむが、とりあえずこいつのおかげで地獄の空気にはならなさそうで助かる。
「あはは、結局ここに戻ってきちゃったよ。千影がここに来たいって言い出してさ」
千影は机にまとめてどっさりと置かれている小説を一つ手に取ると、パラパラとめくり始めた。
「えー、この話ってさー。」
「そう、俺たちの、かけがえのない思い出さ。」
秀と美月はポカンとしていたが、千影はそれで理解したようだった。
「でもさー。このタイトルはどういう意味なのー?」
千影は少し険しい顔で中身を確認し始める。
「そうだな、もう住む場所も時代も違うけど、いつかこの気持ちがアイツに届いたらいいな、ってそんな気持ちでそのタイトルにしたんだよ」
「そーなんだー。」
千影はパイプ椅子を一つ組み立てると、本格的に小説を読み始めた。
「秀、美月。俺たちここにいるからさ、二人とも文化祭回ってこいよ」
「あら、たまには気がきくのね才谷。秀、行くわよ!何か一つあんたの奢りね!」
「はー?俺もここにいたいんだけど……」
喋り途中で秀は腕を引っ張られ連れて行かれてしまった。その様子を半笑いで見届けた和樹は、真剣に活字と向き合う千影の顔を少し見る。やっぱりこの顔が好きだ。
「アイツに届くように……かあ」
和樹は先ほど自分が言ったセリフをゆっくりと咀嚼する。改めてその小説の表紙に目をやる。そこには、縦書きの明朝体で大きくこう書かれていた。
【光速を超えて君に届く】
ここまで読んでいただきありがとうございます。
楽しんでいただけましたらとても嬉しいです。
実は、美月と和樹がくっつくルートも考えていたんですが、皆さんはどちらの方がお好みでしたか?
また何か書いたら投稿致しますので、その際は読んでいただけると幸いです。




