未来は少しずつ変わりゆくもの
そのスーツの野郎が深い眠りについたのを確認すると、和樹は張り詰めた空気を一気に破壊するかのように一息をついた。
「はあああ……死ぬかと思った、本当に」
「何が起こってんのかはよくわかんねえけどさ、お手柄だったんじゃないのか?才谷」
ていうか何でこいつはここにいるんだ?
「さっき家でダラダラしてたんだけどよ、急に知らない人から電話がかかってきて。なんか俺らよりも結構お姉さんっぽい声だったな。美月と才谷が大変だから今すぐ自転車で来てくれって。宇宙服のスーツみたいな格好したやつを倒してくれ、みたいに言われてさぁ。イタズラ電話かとも思ったんだけどよお、なんか向こうも真剣そうだったからいう通りにしたらこの状況さ。何が何だか」
この時代に、この状況を知っていて、且つ秀の連絡先を知っているのなんか一人しかいない。そう、ミチュだ。ミチュが、この時代の秀とコンタクトをとってくれたのだろう。
「ありがとうな、秀。お前がいなかったらみんな死んでいた」
「大袈裟だな、オイ。今度何か飯奢りな」
そういうと秀は白い歯を見せてニカっと笑った。
その時だ。ミチュからのメッセージが届いていた。
『今からスーツの人物を回収するために私がそちらに行きます。この時代の私と秀を何とかしてどかしてください。お願いします。』
それを見た和樹は秀にこう言った。
「事情は後で説明する。今はとりあえず、美月を安全な場所まで運んでやってくれないか。このスーツ野郎は俺がどうにかするから」
秀もよくわからないなりに納得してくれた。聞きたいことはたくさんあるだろうに、今はそれどころじゃないとわかってくれたのだろう。
秀が美月を抱えてどこかへと消えると、それとほぼ同時にミチュが現れた。
「本当にお手柄よ、才谷くん。これで未来は守られる」
スーツの身体をチェックすると、一番深いポケットにノートが隠されていた。
「これさえ、なくなれば。きっと…」
その時だった。目の前がピカっと光る。和樹とミチュは思わず目を隠した。
そこに現れたのは銀の筒状の大きな機械のようなもの。そしてミチュの反応からしてこれは恐らく……
「タイムマシン………!?」
そのタイムマシンの扉が、蒸気のような音を立てて開いた。思わず構えるミチュと和樹だったが、そこから出てきたのは驚きの人物だった。
「あれ、美月?それに……才谷!?俺本当に過去に来れたんだ!」
?????
「俺だよ俺、秀!」
ミチュも和樹もただポカーンとしていた。何を言っているんだ。
「秀、もう全部終わったわよ。あとはノートを焼くなりして終わり」
大きな秀は一瞬固まると、それから一気に感情を爆発させる。
「おーーい、嘘だろ!俺は和樹が死ぬ未来を変えようとしたわざわざあの国に乗り込み、スパイとして活動してようやくこの時代に来れたんだぞ!なのに全部終わってるとか!」
それからお互いの顔を見合わせる。そうして大笑い。秀らしいね、とミチュは言う。変わらないなあ、と和樹は言う。こんな時間がずっと続けばいいのに、と思っていたがもちろんそんなことはない。薄々わかっていたのだ。タイムマシンがなくなるということは。
「それじゃあ、ノートを処分するわね。わかってると思うけど、才谷くん。これで私とはお別れ。この時代にいる美月とも仲良くしてやってね」
「俺は今会ったばかりだけどな、じゃあな才谷!」
和樹は言いたいことを押し殺す。これでいいんだ。ミチュは、秀は、未来の自分も千影もこれを望んでいる。だけど…
「なあ、ミチュ」
「なあに、才谷くん。」
「ミチュ………いや、美月。――――――」
美月は照れくさそうに目を逸らす。それから和樹は言いたいことを頭の中でグルグルと巡らせると、ただ一言だけ言った。
「美月、秀。未来の俺に、よろしくな」
その目尻には涙が浮かんでいた。和樹は隠しているつもりだったが、美月にも秀にもそれはわかった。それでも触れない。ただ美しい、この世界の平和を祝福する別れが、ノートを焼く火の粉と一緒くたになって夜空へと溶けていった。




