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過去と未来が交差する

 その説明を受けた和樹と千影が理解に苦しむのも無理はなかった。特に、千影にとってはミチュが未来から来たことすら知らなかったのだから。だが、一つだけ確定的になったことはあった。

 


「ミチュ、君は……美月なのか………?」



そうだ。この『ミチュ』と名乗り数週間この家に居候をしていた謎の女性の正体は、十年後の高城美月その人だった。


「ええそうよ。今まで黙っていてごめんなさい。出来れば正体を明かすことなく全てを終わらせようと思っていたのだけれど。」


まだしとしとと降り続ける雨のせいで、三人しかいないコーヒーの香りが漂う空間で彼女は最大の秘密を明かした。


「いつしか才谷くんが過去の私と秀をこの家に連れてきた時があったわね。あと、遊園地で私を呼んだ時。あの時に私がそっちへと行けなかったのにも理由があるのよ。タイムトラベルの最大のルールとして、別の時間軸の自分に会ってはいけないというものがあるの。だから、あの時はちょっと影を潜めさせてもらったわ。ごめんなさいね。」


そういえば遊園地に美月と二人で遊びに行った時、大人びた格好をしていた彼女は確かにミチュに似ていた気がする。本当に未来の美月なんだろう。


「じゃあ、初対面で俺のことを知っていたのも」


「もちろん。私が高城美月だからよ。ただごめんなさいね、千影ちゃんのことはあまり覚えていなかった」


まあ無理もない。初対面はあの地獄のディナー会だったのだ。記憶から消したいと思っても仕方ないだろう。和樹は一番触れたくない、だけど一番聞かないといけないことを聞いた。


「なあ、まさかミチュの言っていた、どうしても助けたい人って」


「ええ。………あなたよ。才谷くん。」


まるで時が止まったように感じた。カチコチと鳴く時計だけが、その非現実を否定した。


「さっきも言ったけど、あなたは未来で戦火に巻き込まれて死亡した。私はどうしてもあなたを助けたかったの。そしてそれは今も変わらない。そう、今も……」


ミチュは少し言い淀んだ後、ハッキリと前を見据えて和樹と千影に言った。


「例えあなたたち二人が恋人になる展開になってしまったとしても。私は和樹を助けるわ。」


「なっ……!!」


「なんで知ってるんだと言いたげだね。お姉さんを舐めないでおくれよ」


まあただ盗聴しただけである。


「私のいた未来では才谷くんに恋人はいなかった。できたこともなかったわ。そしてね、私は君のことが好きだったのよ」


「は、はぁ!?」


少し頭が追いつかないが、ミチュが和樹のことを好きということは…


「じゃあまさか俺の知ってる美月も…?」


「ええ、そうね。あなたを決定的に好きになったのは遊園地に行った日だったけどね。でも結局十年経ってもその想いを伝えることはできなかった。そして私はここにきて、どこで未来を変えてしまったのかはわからないけどあなたたちは晴れて恋人になったわけよね。でもいいのよ。私はそれでもあなたを守りに来たの。」


なんだか照れ臭いような、でもあっさりしていてちょっと気持ち悪いような。


「だけど全てが変わってしまったのはあの大雨の日ね。千影ちゃんが置いていったノートを偶然見てしまった。私、お友達とか言っておきながら千影ちゃんの苗字が『色谷』な事知らなかったのね。それがノートの表紙に書いてあるのが見えちゃってさ。興味本位で中身を見たら驚いたわ。」


和樹はもちろん、千影もピンときていない顔をしていた。


「千影ちゃん。あなたがいつもあのノートに書き綴っていた理論や数式は、後にタイムマシンの基礎理論になるものなのよ」


…………前々から千影は天才だとは思っていたが、まさかここまで大逸れた存在だとは知らなかった。


「えー。そうなのー。」


いや反応薄すぎだよ。こんな時でも。


「だから私はあなたを殺してタイムマシンが完成する未来を阻止しようと思った。それでさっきのコーヒーに毒を混ぜたのよ。だけど、やっぱり無理だったの。こんな私に言う資格はないかもしれないけど――――」


ミチュは少し言うのを躊躇って、やっぱり口に出す。


「私はあなたの友達だから、千影ちゃん」


その目には少し潤んだものがあった。今までたくさんの隠し事をしてきたのだろう。今も何かを隠しているかもしれない。だけど、この時彼女の口から出たこの言葉だけは間違いなく本心だった。千影は椅子から立ち上がり小さな身体を起こすと、優しくミチュを抱きしめた。


「ミチュは大変だったんだねー。和樹のために色々考えてくれて、ありがとー。」


思えばミチュは千影が心を開いた数少ない人だ。その時点で、ミチュの人の良さはわかりきっていたことだった。


「だけどミチュ…いや、美月?結局どうやって戦争を阻止するつもりなんだ。千影を殺そうとするなら、俺は許さないぞ」


ミチュは涙を拭うと、


「私のことは美月じゃなくてミチュで良いわよ。それにもう千影ちゃんの命は狙わない、決して。誓うわ。だけどそうなると、鍵になるのはやっぱりあのノートね。」


ノートというのは千影がいつも数字数式を書き連ねているアレだ。


「あのノートさえ処分してしまえば未来は変わる……かもしれないわ、本当は千影ちゃんを消してしまう方が確実性がぐんと高いのだけれど」


「だけど千影、前に言っていたよな。あのノートに書いてあることは全部覚えてないって。新しく数式を構築するのも無理なんじゃないか?」


ミチュは希望を見出したような表情をした。つまりノートを処分してしまえば全て解決。タイムマシンは開発されずに、未来の戦争も起きず、完璧に丸く収まる。

 いや、待て。果たして本当にそうだろうか?俺たちは何か忘れているんじゃないのか?ミチュと美月は同一人物だった。それが意味することとはなんだろうか。冷静に考えろ、才谷和樹。

 

「おい、ちょっと待ってくれ二人とも」


「和樹ー、どうしたのー?」


ミチュも不思議そうな顔をしていた。


「ミチュが美月だってことは、つまり……あの美月を狙っていた謎のスーツの本当の目的は…!!」


そう、あの謎スーツの人物。ヤツは明確に『高城美月』を狙っていた。だがその理由や動機までは全く見当もつかなかった。しかし話は変わってくる。美月は一人じゃない。未来から来たこのお姉さんがいる。つまり、謎スーツの目的とは。


「私を殺すために来たって言いたいのね。きっと私がタイムマシンを抹消しようとしているのをよく思っていない組織の陰謀ね。」


ミチュは何となく悟っていたかのように返答した。


「じゃあ急いでミチュをどこかに隠した方がいいんじゃないか!」


「ちょっと待ってー。和樹ー。」


大慌てで呂律もうまく回らない和樹を制止したのは千影だった。


「もしもミチュを狙っているならさー、やっぱりこの時代にいる美月さんを狙うんじゃないかなー。だってそうしたらミチュも消えるんじゃないのー?」


その発言はあまりにも的確で、理論的だった。それと同時に和樹は全身が震えるように寒くなった。


「時間がないじゃないか!早くノートを!」


異変は立て続けに起こる。


「おかしいわ、ノートは確かにここの棚にしまっておいたはずなのに、それがない」


ノートはない。あのノートの希少性を知っていて、持ち逃げできる人物なんてこの世界に二人しかいない。ミチュと…


「スーツの男が持ち去ったってのか!どうして!どうやってだ!」


「未来の道具を使えば、近くのものを手に入れるなんて造作もないわ」


そして何より、タイムマシンのルーツが奴らにもバレているということがわかってしまった。となるともう取るべき行動は一つしかないだろう。


「美月のところに行ってくる!千影はここにいろ!ミチュは来てほしい!」


「ちょっと待って才谷くん」


ミチュの手を掴もうとした和樹は、その動きを止められてしまう。


「さっきも言ったけど、私はこの時代の私に会うことはできない。もし助けに行くなら……その、とても言いにくいんだけど才谷くん一人で行ってもらうしかない。私がこんなことを言える立場じゃないのはわかっているわ。だけど、お願い。あなたにその覚悟があるのかだけ教えてほしいわ。」


和樹は間を置くことなく答えた。


「そんなの決まってんだろ!俺は一人でも行く!美月とミチュを守るために!」


ミチュは安心したような、その逆の相反する感情を抱えながらも声にならない返事をした。


「才谷くん、わかったわ。ならこれを持って行きなさい。」


渡されたのはまるで拳銃のような何か。


「おいおいおい!ミチュ!これはまずいだろ、殺人じゃん!俺捕まりたくないよ!」


「安心して。この銃は実弾じゃない。当てた相手を一時的に深い眠りに落とすだけの優れものよ。警察官とかがよく使っているわ。」


人類よ、たったの十年でなんていうものを開発しているのだ。

 

「かなり高価なものだから、弾丸は一発しかないわ。気をつけて、才谷くん。」


 その凶器に似た何かを受け取った和樹は、迷いもなく走り出す。

 ミチュも千影もその背中をただ見つめることしかできなかった。そしてこう思う。


 これだから、彼のことが好きなんだ。





 来年はもう大学受験の年だった。まだ学校で習っていない部分もすでに着手を始めている。その日も熱心にわからない内容を先生に聞いていた美月は、授業が終わってから三十分以上も遅れて学習塾を後にした。暑さは本格的になってきており、すっかり真っ暗になる時間になってもまだ蒸し暑い。Tシャツの前をつまむと美月はそれを仰ぐようにして前後に風を起こしていた。

 そんな時だった。後ろに誰かの気配を感じた。


「お嬢ちゃん、高城美月さんかい。」


本当に怖い時、人間は体が動かなくなるのだ。それをこの時に美月はよく実感した。そして、次の瞬間。

 拳銃のような何かから打ち出された弾丸は美月の腹を直撃し、その直後彼女は意識を失った。

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