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焔に咲く九尾の華  作者: 焔夜 夕
第二章 音もなく、這い寄るもの
5/9

【焔纏う姫君】

川辺の大きな岩に腰掛けて考え事をしていると、

茂みの方から、不埒な声が聞こえてきた…。


「ね~ぇ、お前さん?いいだろう?どうせ畑はあの通り。

今日は仕事になりゃしないって。」


「んんん、ん、んだけど!俺には妻子が…!」


「おやおや、口ではそう言いいながら…随分、正直じゃないかい?」


半分脱がされかかっている里の若者に、とても美しく艶っぽい女が覆いかぶさる。


思わず目を逸らしつつ、私は風を巻き起こした。


「わぷっ…!?なんだい?この風…」


一瞬、女の気がそれた。その隙をついて、男はするんと逃げていった。


「ありゃ、逃げちまった。

全く…誰だい、わっちの邪魔をしてタダでは…」


言い終わる前に私と目が合い、美女の顔はさっと青ざめる。


華狐(かこ)


可能な限り唸るような声で、短く名前を呼ぶ。

途端にぽん、と音を立てて、彼女は黄金色の狐の姿になった。


「じょっ…冗談じゃないかい!何もそんなに怒らなくても!

ほらっ!里の様子がおかしかったから、あんたに教えてあげようとね!」


慌てふためき、私に言い訳を並べる彼女は、

華狐姫(かこのひめ)』。妖炎山の長であり、多くの化狐を束ねている。

狐火の扱いに長ける彼らには、様々なことで助け合っていた。

…が、ご覧の通り。化狐の性分なのか、人を化かして悪戯するのがやめられない。


「…念のため聞くど、畑はあなた達の仕業じゃないわよね?」


ため息交じりに聞くと、彼女は真っすぐこちらを見つめる。


「悪戯は悪かったけど、それは言い過ぎじゃないか。

わっちらを疑っておいでかい?」


わかっているのだ。人へ対するからかいが好きなだけで、

害なす悪事をするわけではないのは。


「…ごめんなさい。失言ね。」


何百年も連れ添った友人だというのに…。

私は肩を落とす。化狐の長は、くるりと空中で前転し、

見慣れた人の姿に転じる。

しかし、その奇妙な着物はいつ見ても、目のやり場に困る。

胸と股を隠かろうじて覆う布に、長い羽織をはおっているだけで、前は留めていない。

へそや足は丸見えである。


「珍しく切羽詰まっているようでないか、九尾の姫君。

わっちらもなにか手伝おうかえ?」


肩に手を回して怪しく囁いてくる彼女に、背筋が冷える。

…最近、同じ感覚を味わったような?

しかしこれは、彼らの(さが)で、悪気はないのだ。


「…お願いするわ、華狐。

そういえば、最近そちらの山はどう?変わったことはない?」


「ああ、あぁ、おかげさまでね。食うに困りゃせんし、

狐之葉(このは)も元気に大きくなっているよ。」


狐之葉とは、彼女の息子だ。おっとりとしていて、

亡き父、炎葉(えんよう)に似て、心優しい。

その性格と裏腹に、彼の出す炎は、大きく激しく熱かった。


「また狐流と遊んであげてね。」


彼女はにやっと笑って、身を翻し、狐の姿で山へかけていった。

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