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焔に咲く九尾の華  作者: 焔夜 夕
第一章 狐住まう山里
2/9

【ざわめきの花芽】

――その頃の子どもたち。


「今日は何して遊ぼうか?」

川の魚を眺めながら、一人が言った。


「うーん、魚獲りすれば母ちゃん喜ぶよ」


「えー、おべべ濡れちゃうじゃん。やだもん〜」


川の流れは穏やかで、時折跳ねる魚がキラキラと輝いている。

川辺を舞い踊る祓火羽は、春の訪れを喜んでいるのだろうか?


相談しながら川沿いを歩き、祓火羽を横目に通り過ぎたところで、

一人がピタッと立ち止まった。


「ねえ、あれ……何かな?」


指差す先には、小さな祠があった。

奥では、小さく、弱々しい火が、ゆらりと揺らめいている。


「火が灯ってる。九尾様の祠なのかな?」


「こんなとこに、こんなのあったっけ?よく来るとこなのに、初めて見たよ?」


子どもたちは、その火に誘われるように、そっと祠へと近づいていく。


「巫女様の弟だろ? 何か知らないのか?」


一人が問いかけたが、幼い子狐にわかるはずもなく、


「わかんない。俺、姉様(あねさま)の仕事に関わってないもん……」


しばらく沈黙が流れ、子供たちは火に見入った。


焔が、ゆらゆらと揺れる、その奥で、

何かがもがくように暴れているように見えた。


「……何か火の中で暴れてない?」


一人の女の子が、はっと気づいたように声を上げた。


目を凝らして見れば、確かに焔の奥に、小さな影のようなものが見えた気がした。


「出してあげたら?」


誰かの声が、風に混じるように囁いた。


「え? 今、誰が言ったの……?」


子どもたちは顔を見合わせ、ざわつく。


「ねぇ……もう、大人しく川遊びしよう? よくないよ、たぶん……」


「ここだけ祓火羽もいないもんね…」


おびえた声で女の子達が言うと、

里で一番の見栄っ張りの男の子が前に出てきた。


「なんだぁ? こんなちっぽけな祠にビビってんのか?

そんなに怖いなら、俺が開けてやるよ!」


誰も止める間もなく、男の子は祠の小さな扉を開け放った。


びゅうっと冷たい風が吹き抜ける。

焔は一瞬揺らぎ、次の瞬間には消えてしまっていた。


「……ほら! なんともねえじゃん……!」


怯えたように叫ぶ男の子に、女の子は泣きそうな顔でつぶやく。


「……でも、火……消えちゃったよ……」


再び、誰かの声が囁いた。


「――いいんだよ、これで。ありがとう」


その声は、誰の口からでもなく、

まるで――頭の中に直接響いたかのようだった。


「もう、行こう」


言い知れぬ不安を胸に、巫女の弟はみんなを連れてその場を離れた。


「……これ、母ちゃんたちには内緒にしようぜ」


一人がつぶやき、他の子どもたちも黙ってうなずいた。


川は静まり返り、ついさっき輝いていた魚の影もまばらになっていた、

踊っていた祓火羽は疲れ果てたのか、ぽつりぽつりと地面に降りて休んでいる。

――その翅はまるで時を止めたかのように、静寂の中に溶け込んでいた―。


子供たちは、沈黙の中で魚を獲り始めた。

不安を洗い流すように、気を紛らわせるように。

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