episode7
放課後の廊下。
教室の前で立っていた蘭の前に少し緊張した面持ちの麗がやってきた。
「一条さん。少しだけ……いい?」
振り返った蘭は麗に軽く一礼する。
「うん、どうしたの?横浜さん」
「今日は……いろいろ、取り乱してしまってごめんなさい。梨々香のことで……ちゃんと話せなかったのが、悔しくて。あなたにも失礼な態度を取ってしまったと思って」
「……気にしないで」
蘭は変わらぬ丁寧な口調でそう返したが先ほどよりは柔らかい口調だった。
麗は少し間を置き、ふっと息を吐くと思い出したように付け加えた。
「そういえば、あなたのダンス……すごく綺麗だった。静かで、でも強くて。目が離せなかった」
蘭の目がわずかに動く。けれどすぐにその感情を奥に押し込めたように表情を整える。
「……ありがとう。でも、どうして私が踊っているのを?」
「ん? あぁ……たまたま見かけただけ。公園で」
麗は軽く言い添えるがそれ以上深くは語らない。
その自然な物言いに逆に蘭の胸の奥がざわついた。
(……たまたま、見かけただけ? 本当に?)
蘭は表面上は微笑を浮かべたまま、静かにうなずいた。
「そう……光栄ね」
けれど、麗の背が廊下の向こうに消えていっても、蘭の胸の内には重い疑問が残っていた。
(“二人だけの秘密”って、梨々香は言ってくれたのに……)
麗の言葉だけでは判断できない。
けれど、少なくとも“誰かが知っている”という現実は蘭の心を静かに締めつけた。
(……梨々香さん、あなたは……誰に、どこまで話したの?)
声に出さずただ問いかけるように廊下の先を見つめる蘭の姿は少しだけ孤独だった。




