episode29
文化祭当日。学園内は活気に満ち華やかな笑い声があちこちから響いていた。
梨々香は生徒会の腕章をつけ、メイド衣装のまま校内を巡回していた。
あちこちから可愛い、どこのクラスの出し物?という声が聞こえてくる
宣伝がうまくいっているようで梨々香と麗は顔を見合わせて微笑んだ
2時ごろ麗とは一時的に分かれ、田中先輩の出し物へ向かう。
そこにはバニーの格好をした田中先輩がドリンクを渡す姿があった。
声をかければ忙しそうにドリンクを渡して去っていく田中先輩。
何もしてこないことに驚きながら図書館の方へ巡回へ向かっていると少し頭が朦朧としてきた。
(ずっと人混みで歩いているから疲れたのかも)
休憩しようと歩いていると
「生徒会の織谷さんですよね?」
突然、背後から声をかけられた。振り返ると、見知らぬスーツ姿の男性が立っていた。
「はい、そうですが……何かご用でしょうか?」
男はにこやかに笑って、構内マップを差し出した。
「この教室、ちょっと迷ってしまって。案内してもらえませんか?」
「……わかりました、こちらです」
警戒はしていたが、彼の落ち着いた態度に、梨々香は自然と歩き出していた。
けれど、廊下の角を曲がった先。
人の少ない旧棟の一室――こんな場所に出し物などあったかと首を傾げるが頭が朦朧としてそれどころではない。
「こちらです」と梨々香が指を差した瞬間。
男は突然腕を掴み、力強く教室の中に引きずり込んだ。
「えっ……!? なに、して――」
扉が音を立てて閉まり、中から鍵が掛けられた。
「可愛いねぇ……その格好、最高だ」
男の声が低く、抑えたような興奮に染まっていた。
「やめてください、助け――」
梨々香が叫ぼうとした瞬間、男は素早く手錠を取り出し、彼女の両手を背中で留めた。
「っ……やだ……っ!」
冷たい金属の感触に、梨々香の体が震える。
どうしてこんなことに――。
生徒会として、校内の安全を見て回っていただけなのに。
必死に抵抗しようとするも体に力が入らず体が熱くなるだけだった。
もしかして田中先輩のドリンクになにか入っていたのではないか。
今更気づいた憶測にどうすることもできず力の入らない体で必死に抵抗を続ける
息が詰まる。
このまま誰にも見つけてもらえなかったら――。
そんな絶望の中、梨々香は胸の奥で、誰かの名前を思い浮かべた。
蘭――たすけて。




