episode28
文化祭前日。学校中が準備に追われ廊下には笑い声と道具の音が溢れていた。
生徒会室を出た梨々香と麗は、少しだけ息を抜くようにクラスの教室を覗いた。去年と同じメンバーで過ごしてきた空間は今年もにぎやかで、懐かしさすら感じる。
「…ちゃんと進んでるみたいね。よかった」と麗が微笑むと、梨々香も柔らかく笑った。
「うん。メイド喫茶、楽しみにしてくれてるみたい」
教室の隅には、二人分の衣装が丁寧にハンガーにかけられていた。
黒と白のレースに包まれた、それぞれに合わせたサイズのメイド服。
「これ…私たちの分?」梨々香が目を見開くと、クラスメイトが申し訳なさそうに笑って寄ってきた。
「ごめんね、シフト入れないのわかってるんだけど…せめて校内を回るときに、これ着て宣伝してもらえたらって思って!絶対似合うから!」
麗と梨々香は顔を見合わせ、少し戸惑いながらも頷いた。
「こちらこそ全然参加できなくてごめんなさい。
そんなことでよければ勿論協力するわ」
そして二人が控室で着替えて姿を現した瞬間、教室がざわついた。
「やばい…本当に似合ってる…!」
「なんかアイドルのプロモーションみたい…」
「え、てか写真撮ってもいい!?」
控えめなフリルが付いたエプロン、清楚で可愛らしい黒のワンピース。
梨々香は照れ隠しに髪を耳にかけ、麗はちょっと気恥ずかしそうに首をすくめながらも、しっかりと姿勢を整えていた。
一方――。
教室に入ろうとするも騒がしい様子に蘭は人目を避けるように、少しだけ首を傾けて教室の中を覗く。
――可愛い。
その言葉が、自然と心に浮かんだ。
梨々香が、照れながら笑っている。
楽しそうに麗と話している。
それだけで、胸が締め付けられる。
手を伸ばしても届かない距離。
もう、自分のものじゃない笑顔。
自分から手放したくせにと心が囁いてくる
それでも、蘭は目を逸らせなかった。
けれどすぐに背を向け、何事もなかったように歩き去っていく。
まるで、その気持ちを隠すように。
そんな後ろ姿を梨々香は無意識にじっと見つめていた




