episode25
蘭side
――こんなに、苦しいなんて、思ってなかった。
夜の風が頬を撫でる。
あんなに触れたかった梨々香の手を、自分で振り払ってしまった。
手のひらが熱い。今でもまだ、梨々香の温度が残っている気がして、消えてしまうのが怖かった。
「……バカみたい」
自嘲気味に笑う声が震えていた。
あの子はなんでもできる。
文武両道で、皆から愛されて、笑顔を絶やさない完璧な女の子。
それなのに私なんかが傍にいたら、きっと足を引っ張る。
何度も思った。
私は、梨々香のお荷物なんじゃないかって。
違うって、言ってほしかった。
けど、私もちゃんと向き合ってこなかった。
強がって、何も言わないで、勝手に遠ざかって……そんなの、ずるいに決まってるのに。
梨々香の声が、まだ耳に残ってる。
「やだ」って、泣きそうな顔で。
追いかけてきたあの姿が、焼きついて離れない。
だけど――それでも。
「私が決めたんだ……もう、振り返らないって……」
誰に言うでもなく呟いた言葉は、夜空に吸い込まれていった。
名刺の入った小さなバッグを握りしめる。
この手にあるのは、夢へと続く鍵。でも、代わりに失ったものの大きさに、足が震えた。
梨々香、ごめん
私は私の夢を追う
あなたが好きなまま
だけどあなたは私なんか忘れて…
そう思いながら蘭は自分の目から何か冷たいものが伝っていることに気づく
「こんなに苦しい気持ちがあるなんて知りたくなかったなぁ」
そう呟き公園から背を向ける
もう振り返らない、そう心に固く決めて




