episode19
選挙戦本番。初秋の学園に、熱気と静謐が交差していた。
星羅学園伝統の選挙演説会は、講堂で全校生徒が正装で臨む格式高い行事。
壇上に立った織谷梨々香は緊張の面持ちながらも、胸を張っていた。
その横には、凛とした横浜麗が静かに立っている。
「私は、星羅学園の皆さんが誇れる学校であり続けるために、もっと声を聴く生徒会を目指したいと思っています」
梨々香の言葉は、まっすぐで、淀みがなかった。
彼女の視線は全校生徒一人ひとりに注がれているようでその誠実さは胸を打つものだった。
続いてマイクを握った麗は、簡潔かつ力強く語った。
「織谷梨々香と私は、信頼し合ってここに立っています。彼女が理想を語るなら、私は現実にする方法を探します。――その覚悟で、副会長に立候補します」
これは中等部のテニス部で梨々香が麗に放った言葉だ。
麗はあの時を思い出しながら凛と通る声で演説をする。
一礼する麗の動きに合わせて、梨々香も自然と頭を下げた。
その姿に、講堂は静かな拍手に包まれた。
「……息ぴったりだね」
「これで部活と生徒会、両方こなせたら本当にすごいよ」
生徒たちの間に、そんな声がささやかれる。
そして、選挙の結果が発表された日――
放課後の校庭に、生徒たちの歓声が上がる。
「織谷梨々香さん、生徒会長当選おめでとうございます!」
「副会長、横浜麗さんも!」
結果発表の紙が掲示されると同時に梨々香は小さく息をのんだ。
「……勝った、の?」
「当たり前でしょ。私たちの努力、伊達じゃないから」
隣で微笑む麗に、梨々香も自然と笑みを返す。
そして数日後――
生徒会室には、まだ新しい香りが残る。
「じゃあ、この書類は私が出しておくね。梨々香は部活でしょ?」
「麗……ありがとう。でも、これくらいなら、私もやるよ。……私たち、二人でやるって、決めたじゃない」
「……うん。そうだね」
部活でも生徒会でも、梨々香と麗は常に背中を預け合いながら、完璧な連携を見せていた。
校内でも、“鉄壁のコンビ”“理想の生徒会”として噂されるようになる。
けれど――
梨々香の心の奥には、いつも一人の名前が灯っていた。
蘭。
もし彼女があの日、副会長に「いいよ」と言ってくれていたなら、今この隣には――
ううん、と梨々香は首を振ってその考えを打ち消す
けれどそんな“もし”が、時折胸をよぎることがあった。




