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In the luce  作者: RRR
二年生編
43/57

episode16

夏休みが終わり新学期が始まった。

星羅学園の敷地にも蝉の声が遠のいて朝夕の風が少しだけ冷たくなる。






放課後の教室。



「……生徒会長?」




蘭は、一瞬だけ目を見開き、それから視線を逸らした。


「それで私が副会長……?」


「うん。無理は言わない。でも……一番に頼みたかったの、蘭に。」


梨々香の声は真っ直ぐでどこか儚げだった。夏の疲れが彼女の肩にも滲んでいる。


「ごめんなさい、私…そういうの柄じゃない。人前に立つの、得意じゃないし。」


蘭の声はいつもより少しだけ低かった。その声には断ることへの罪悪感と梨々香の期待に応えられないことへの自責が混じっていた。


「……そっか。ううん、ごめんね、急に。」


梨々香は笑顔を作って見せたけれどその瞳の奥に一瞬寂しげな揺らぎが映る。







その帰り道、梨々香はスマホを握りしめたまま校舎を出ると、グラウンドを横目に足を止めた。





そこには、部活終わりの麗が汗をぬぐいながら立っていた。


「麗……少し、話せる?」


「いいわよ。」


ベンチに並んで座った2人。梨々香は少し迷ったあと言葉を絞り出すように言った。


「生徒会長、やってみようと思うの。お母様に言われた、っていうのがきっかけだけど……。もともとやりたいと思っていた。だからやるならちゃんとやりたい」





麗は高等部に入ってからはあまり見せなかった梨々香の久しぶりの勝ち気な姿に中等部の生徒会を思い出して目を細める




「……ペアは?」


「お願いできないかな、って。中等部の時一緒にやった麗となら……一緒に頑張れる気がする。」


麗はしばらく無言で空を見上げていた。

茜色に染まる雲が秋の訪れを告げていた。


「……正直、部活との両立は大変だと思う。でも、梨々香と一緒なら、頑張れるかもしれない。」






その言葉に、梨々香の表情が少しだけほころんだ。


「ありがとう、麗。」


「感謝は、選挙が終わってからにして。まずは勝たなきゃ意味がない。」


「ふふ、頼もしいね。じゃあ、キャプテンと副キャプテン兼、生徒会長と副会長コンビ、始動だね。」


「やるからには勝ちましょう。私たちのやり方で。」


ふたりの決意が沈む夕日の中で静かに交わされた。








夜の部屋、ベッドに座ったまま蘭は手元の名刺をじっと見つめていた。

白地に刻まれた文字がまるで運命を告げるように静かにそこにあった。


(……本当に、私にそんな資格があるのかな。)


窓の外では秋の虫の声が響いている。部屋の明かりだけが蘭の揺れる瞳を照らしていた。


梨々香に――話さなきゃとは、思っていた。

スカウトされた日のこと、踊ったときの感覚、あのとき感じた“未来”の匂いを。

でも、梨々香は今、生徒会に部活に、たくさんのことを背負っている。


(……相談なんてして迷惑かけたくない。)


何より梨々香といる時間がこれ以上減ることをしたくなかった。

けれど、親に認めてもらってダンスの道を志したい気持ちは確かにある。

誰かの陰ではなく、ちゃんと自分の足で立ち、踊り、自分の人生を生きてみたいと思う。





ベッドサイドの引き出しに名刺をしまおうとして――

蘭の指先が止まる。


(私は、どうしたいの?)


その問いに、心が答えを返すまでに時間はかからなかった。


(……踊っていたい。ステージに立ちたい。あのときの拍手を、もう一度聞きたい。)


ゆっくりと、名刺を握りしめた蘭は、小さく息を吐いた。


「梨々香には……ごめん。今はまだ、言えない。」


それでも、胸の中には踊りたいというひとつだけ確かな気持ちがあった。



蘭はスマホを取り、連絡先のひとつを開く。

震える指で、たった一行のメッセージを打ち込む。




よろしくお願いします。お話、聞かせてください。




その送信ボタンを押した瞬間、蘭はようやく覚悟を決めた顔になった。

それはもう、“ただ梨々香の隣にいるだけ”の蘭ではない――

自分の夢に向かって歩き出す、一人の少女の姿だった。

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