episode15
「……梨々香?」
日が落ち、街灯がぽつりぽつりと灯る頃。
ベンチの傍らに立ち尽くす梨々香の前に息を切らせて駆け寄る影が現れた。
蘭だった。
「あ、ごめん……待たせた、よね」
その声に、梨々香ははっと顔を上げる。
その瞳は、どこか不安げで――まるで、何かを問いかけるように揺れていた。
「……勝てなかった?」
小さく問う蘭の声に梨々香はほんの少しだけ間を置いてからふっと微笑んだ。
「ううん。……勝ったの。シングルも、ダブルスも」
「……っ、よかった……」
蘭の肩が、ほんの少し震える。
安堵の吐息と共に、そっと腕が伸びてきて、梨々香を抱きしめた。
「頑張ったね、梨々香」
「蘭こそ。……大会、どうだった?」
「私も……優勝、したよ」
くしゃっと照れたように笑う蘭の顔に梨々香の胸がじんわりと温かくなる。
そのまま唇が重なった。
今までよりも、もっと深く、もっと長く。
唇を離すころには、梨々香の目元はとろんと潤み、頬は真っ赤になっていた。
「……んっ、ん、蘭……っ、ちょっと……」
「やだ。今日だけは我慢しないって決めた」
くすりと笑って、蘭はもう一度甘く口づけた。
梨々香の唇からこぼれる声は、いつも以上に甘く、夜風に溶けていく。
帰り道、蘭は梨々香の手をぎゅっと握って歩いた。
梨々香はそっとその手に力を込めて応えたけれど――どこか、その瞳の奥に影を落としていた。
家に戻って、制服を脱いだ蘭はカバンの中を整理していて気づいた。
――名刺。
「……あっ」
ポケットに入れっぱなしだったそれを見てようやくスカウトされたことを思い出す。
(……言おうと思ってたのに、忘れてた)
けれど今は、心に残っているのは梨々香の表情と温度だけだった。
(……また今度、ちゃんと話そう)
名刺を机の引き出しにしまって蘭はベッドに倒れ込んだ。
一方その夜、梨々香の部屋では――
「……私の方が似合ってる、か……」
あかりの言葉が、何度も胸の中で反響する。
(そんなこと、ないって思ったはずなのに……なんで……)
蘭の優しさも、口づけも、嬉しかった。
けれど、その分だけ誰かに奪われてしまう不安が大きくなっていく。
蘭とずっと一緒にいたい。けれど――
その夜、梨々香はなかなか眠ることができなかった。




