episode14
〈蘭 side〉
表彰台の一番上。
照明の眩しさと、拍手の熱が肌に刺さる。
「優勝は24番――一条蘭さん!」
読み上げられた瞬間、蘭は無意識に息を止めていた。
歓声の中、トロフィーを受け取りながら心はまだ舞台の上にあった。
(梨々香……見ててくれた?)
控室に戻ろうとしたその時、背後からスーツ姿の女性が近づいてきた。
「あなた、素晴らしかったわ」
「……ありがとうございます」
「私は都内のダンス事務所でスカウトをしています。いずれプロの道を考えるなら、ぜひこちらへ連絡してほしいの。ダンサーとしての人生を――真剣に、考えてみて」
手渡された名刺は重く硬い質感。
その名前も、肩書きも、全部本物だった。
蘭は、名刺を見つめたまま立ち尽くす。
(私が……プロのダンサー?)
胸の奥で何かが熱く波打つ。
でも、その想いの隣には――梨々香の笑顔が、あった。
〈梨々香 side〉
「今日はずいぶん調子が良かったみたいね、織谷さん。」
田中先輩の嫌味交じりの言葉が背後から聞こえたが梨々香は振り向かない。
今はただ、蘭に会いたい――その一心で。
夏の日差しの残る公園。
静かに葉が揺れる木陰に彼女は一人立っていた。
(……蘭、優勝できたかな)
スマホを見ても通知はない。でも、それがかえって蘭の全力を物語っている気がして梨々香は微笑んだ。
そのとき、不意に声がかかる。
「こんばんは、梨々香先輩」
ふいに、背後からかかった声に肩が跳ねる。
振り返るとそこには――松野あかりが立っていた。
淡いブラウスにスカート。整えすぎていない柔らかさ。彼女の雰囲気は梨々香に似たものがあった。
「……あなたは」
「びっくりしました? 今日は、蘭先輩のダンスの応援に行ってたんです」
そう言ってあかりは隣のベンチに腰を下ろす。
そして、梨々香の顔を覗き込むようにして口元だけで笑った。
「嫌いな後輩の言葉にもちゃんと耳を傾けようとするなんて、さすが梨々香先輩です。偉いなあ」
「……別にそんなつもりじゃないわ」
「ほんとですか? 優等生って大変ですね」
くすくすと笑うその声は、挑発のようで――でもどこか寂しげだった。
「……何が言いたいの?」
あかりはわずかに目を細め空を見上げた。
赤く染まる空の下で、ぽつりと呟く。
「誰にでも優しくして、ちゃんと正しくあろうとする織谷先輩と……本当は独占欲強いくせに我慢してばかりの蘭先輩。
ほんと、合わないですよね。私の方が……蘭先輩とはお似合いだと思うんですけど」
「そんなこと、ない」
声が少し、震えた。
けれど否定の言葉は、はっきりと。
「私は蘭のこと」
「うん、好きなんでしょ? ちゃんと伝わってますよ。蘭先輩からも、あなたからも」
あかりは微笑む。
その目の奥にある、揺れる想いを隠さずに。
「だから、少しだけ……羨ましくなって意地悪しちゃいました。ごめんなさい。じゃあね、梨々香先輩」
それだけ言い残し、あかりは立ち上がりゆっくりと歩き出す。
梨々香は追いかけることもできず、その小さな背をただ見送った。
(……蘭、早く来て)
胸の奥に、不安と確信が同時に芽吹いたまま――梨々香はその場に立ち尽くしていた。




