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In the luce  作者: RRR
二年生編
40/57

episode13

大会当日。

広々としたホールの照明が落ち、舞台袖では出番を待つダンサーたちが静かに呼吸を整えていた。


蘭もその中にいた。

ユニフォームの裾を指先で掴みながら緊張で乾いた喉を潤す。


(……梨々香。今頃、試合、始まってるよね)


スマホのロック画面には夏祭りの日に撮ったふたりの写真。

笑っている梨々香の横顔を見て、蘭は小さく微笑んだ。


そのときだった。


「蘭先輩」


背後から聞き慣れた声がする。振り返ると、そこにいたのは――松野あかりだった。


「……あかり?」


予想外の登場に蘭が目を見張ると、あかりは小さく笑った。


「テニスの大会で梨々香先輩来られないって……あかり、ちょっと寂しいです。あんなに仲良しなのに肝心なときに来られないなんて」


「……やめて、今はそういうの……言わないで」


蘭はぴりついた声で遮った。

ただでさえ緊張と不安で張り詰めていた心が少しだけ揺らぐ。


「ふふ……ムキになるんですね」


あかりはまるで楽しむように、蘭の反応を見つめていた。

蘭ははっとして目を伏せ、深く呼吸を整え直す。


「……私は梨々香が好き。梨々香と一緒にいるって決めてるの」


「わかってますよ」

あかりは微笑んだまま、舞台袖の薄暗がりに背を向ける。


「でも、あかりは諦めません。……先輩が誰かを好きでもずっと好きです。

いつでも――あかりのところに来てくださいね」


そう言い残し、足音も立てずに去っていった。


残された蘭は何も言えずその場に立ち尽くした。

胸の奥にかすかに残る、棘のような不安。

それでも、思い浮かべるのは――梨々香の笑顔だった。


「……私は、大丈夫。負けない」


蘭は深呼吸をし、舞台の方を向いた。


(梨々香、見てて。ちゃんと……届けるから)


照明の先のステージへ、一歩を踏み出す









「ゲームセット!織谷、勝ち!」


審判の声と共に白いテニスボールがコートに静かに転がる。

息を弾ませながら梨々香はラケットを握ったまま深く息を吸った。


(……やっと、ここまで来られた)


去年、一年生だからという理由で出場できなかったシングルス。

悔しくて泣いた夜の記憶が遠い日のように思えた。


ベンチに戻ると麗が水筒を差し出してきた。


「次、ダブルス。いくよ、梨々香」


「うん。今日は負ける気がしない。絶対に決勝まで行く」



「ふふ、私も」


ラケットの先同士をこつんと二人で合わせる。

視線の先には、青空と眩しい太陽。

その下に、梨々香の決意が静かに燃えていた。







〈蘭 side〉


(舞台まで、あと二人……)


蘭は袖で、自分の足がわずかに震えているのを感じていた。

大丈夫。リハーサルも、練習も全部積み重ねてきた。


だけど今だけは、少しだけ――梨々香に会いたかった。


(……でも、梨々香も頑張ってる)


スマホに届いた短いメッセージ。「お互い頑張ろうね!」

それだけで、胸の奥に強さが戻ってくる。


「エントリーナンバー24番、一条蘭さん、準備お願いします」


名前が呼ばれると同時に、蘭は音のない舞台へと踏み出した。







〈梨々香 side〉


「麗、いける!」


「ナイスパス、梨々香!」


2人の息はぴったりだった。

シングルでの勝利で自信をつけた梨々香はダブルスでも軽やかにコートを駆ける。


麗のスピード、梨々香のコントロール――相手のペアに一瞬の隙も与えない。


(蘭、見てて。私、逃げないって決めたんだ)


ネット際に出たボールをダイレクトで打ち返し、梨々香は決め球を放つ。


「ゲームセット!」


歓声がコートに響き渡る。

握った拳が、小さく震えていた。






〈蘭 side〉


ピアノの旋律が静かに始まり、スポットライトの中で、蘭は舞う。


繊細なステップ。

一瞬の表情の変化。

指先に込めた想い。

それらすべてが、ひとつの物語となって観客に届いていく。


(伝わって、梨々香。私の全部を)


足先まで意識を込めてターンを決める。

ラストのポーズで静止した瞬間、会場は一瞬、静寂に包まれた。


そして――大きな拍手が鳴り響く。













〈梨々香/蘭 side〉


2人とも、その場所にはいなかった。

会場も、空気も、目に映る景色も違う。


けれど――心だけは、互いを見つめていた。


(蘭――)


(梨々香――)





ねえ見てた?






遠く離れていても、想いはひとつ。

今日という日を、全力で戦い抜いた彼女たちの胸にあったのは――

言葉にできない、温かい確信だった。

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