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In the luce  作者: RRR
二年生編
35/57

episode8

いつもより部活が早く終わった放課後。

梨々香は急いでラケットを片づけ、テニスシューズを履き替えると、公園までの道を駆け出していた。

その足取りは軽く、心にはひとつの想いだけが満ちていた。


──今日は蘭に会える。

しかも、何も言わずにサプライズで。


頬が自然とゆるむ。制服のリボンを軽く整えながら、公園の入り口にたどり着いた時、

視界に飛び込んできたのは、あまりにも意外な光景だった。


──蘭が、知らない子と笑っていた。


しかも、距離が近い。

あのベンチ。いつも自分と2人で座っていた場所に、その子がいた。


「蘭…?」


声が震えていた。

驚きと、不安と、裏切りと、どうしようもない感情が渦巻いていた。


蘭は一瞬、はっとしたように顔を上げる。

その横で、「こんにちは」と他人事のように微笑む見慣れない少女。

──松野あかり。梨々香は名前しか知らない。


「その子、誰?」


普段なら穏やかに笑ってやり過ごす梨々香の顔に笑顔はなく問い詰めるように一歩前に出た。


「別に…ただの後輩だよ。梨々香が最近、全然来てくれなかったから…その子に見られちゃって、仕方なく…」


「仕方なく…?」


梨々香の声が、かすれた。

蘭は、謝ろうとしない。ただ、少しだけ視線を逸らして言い訳を続けようとした。


「別に…何かあったわけじゃない。梨々香が忙しいの、分かってる。でも私だって…」


「……じゃあ、私が来なかったら、他の子とここに来てもいいの?」


怒りとも、悲しみとも言えない感情が梨々香の胸を押し潰す。

蘭は言葉に詰まり、言い返せなかった。


あかりはただ、気まずそうに立ち上がり、

「…あかり、帰るね」と言って去っていった。


公園に、ふたりきり。


でも、もう「ふたりきり」じゃなかった。


梨々香は蘭の顔を見つめながら、

「……どうして、ちゃんと言ってくれなかったの」と小さくつぶやいた。


蘭もまた、何かを言いたげに口を開いたが、言葉は出なかった。


──互いにすれ違い、心の距離は、確かに開き始めていた。






静まり返った公園に、セミの声だけが遠く響いている。

あかりが去ったあと、ふたりの間には気まずい沈黙が落ちた。

どちらからも言葉が出ないまま、どれくらいの時間が過ぎたのか。


やがて、小さく梨々香が口を開いた。


「……さっきは、ごめんなさい。ちょっと…言いすぎちゃった」


その声は震えていて、でも、まっすぐだった。

蘭は、はっとして梨々香を見る。

その瞳に自分を責めるような痛みが宿っている。


「私も…ごめん。ちゃんと話さなかったのが悪かった」


蘭は、ゆっくりと視線を落とし、そして覚悟を決めたように話し出した。


「松野さんには…梨々香とのこと、バレちゃった。

 何もしないって約束で、代わりにダンスを見せてって言われて…それで……」


「……うん」


梨々香は目を伏せながらも、こくんと頷いた。

心にひっかかっていたもやもやが、蘭の素直な言葉で少しだけ溶けていくのが分かる。


「本当は、嫌だった。見せたくなかった。でも……ひとりでいるの、苦しくて。ごめんなさい」

「……蘭」


その名を、梨々香は静かに呼んだ。

蘭はその声に導かれるように顔を上げ梨々香の目を見る。


「仲直りのキス、してもいい?」


蘭の声はかすれるほどに優しい。

梨々香は少しだけ目を見開きそれから小さく頷いた。


「……いいよ」


その瞬間だった。

蘭は梨々香の唇にそっと触れ――やがて、深く、確かに、想いを重ねるようにキスをした。

その熱に梨々香は戸惑い、けれど蘭の背中に手を回し、目を閉じる。


「ずっと、こうしたかった」


そう囁く蘭の息が、唇の隙間からこぼれる。

その言葉に、梨々香の胸がきゅっと締めつけられる。


まるで、すれ違っていた時間さえも溶かしてしまうような、優しく、深いキスだった。


――ごめんね、梨々香。

――私こそ、蘭。


心が、ようやく重なった瞬間だった。

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