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In the luce  作者: RRR
二年生編
32/57

episode5

──やっと、会えた。


屋上のドアが開く音に振り向いた瞬間、梨々香の顔が見えて蘭は胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。

そのまま抱きつかれて、体温が伝わる。


「蘭チャージっ!」


そんな風に笑って甘えてくれるのはいつぶりだったろう。

どれだけこの瞬間を待っていたことか。


けれど。


(……あかり)


脳裏に、あの後輩の顔がよぎった。

屋上でお弁当を開く手元につい力が入る。

「2番目でいい」と微笑んだ、あの言葉の重みがずっと心に引っかかっていた。


──私は梨々香が好き。

誰よりもずっと。



(何やってるんだろ、私……)


隣では、梨々香が明るい声で何かを話している。

だけど、うまく耳に入ってこない。

意識は今ここじゃない場所に引き戻され続けている。


蘭は頷きながら話を聞いている“ふり”をしていた。

心のどこかで、梨々香に気づかれてしまいそうで怖かった。

でも──気づいてほしいような、そんな気持ちもあった。


そんなふうに自分がわからなくなるのが一番怖い。


梨々香の言葉がふっと途切れて風の音が耳に届く。

お昼休みが終わるチャイムが鳴った。




「……またね、蘭」


「うん」


たったそれだけで梨々香は教室へと走っていった。

蘭はその場に立ち尽くしたまま空になったお弁当箱を見つめていた。


──何してるの、私。


あんなに会いたかったのに。

一緒にお昼を食べたくて、何度も何度も、屋上を見上げてたのに。


(ほんとに何しているの)


指先が震える。スマホを開き、LINEを開く。

「新規メッセージ」の画面に文字を打ち始めた。


蘭:

「今日、ありがとう。

久しぶりに一緒にご飯食べられて嬉しかった。

疲れててちゃんと話聞けてなかったよね。ごめん

また、会いたい。」


メッセージを送信した瞬間、少しだけ息が詰まる。

今日のことを取り繕うかのよう文面に自分でも嫌気がさす。

今はただ、自分の気持ちが届くことを願うしかなかった。






教室の窓際で、蘭は自分のスマホを何度も確認していた。

授業なんて、頭に入らない。

ノートを取るふりをしながら、ただ、指先に意識を集中させていた。


──梨々香から、まだ既読もつかない。


「また、会いたい」

その一言に込めた気持ちが、届いていないまま時間だけが過ぎていく。


(忙しいだけ……だよね)


そう思いたい。でも、不安はどんどん膨らんでいく。

あんなに楽しみにしていた昼休み、あんなに会いたかったのに、

ちゃんと話せなかった。目も見られなかった。

あのとき、何か言ってくれるのを梨々香は待っていたのかもしれない。

なのに──


「……」


そのとき、不意にポンッとスマホが震えた。

心臓が跳ね上がる。期待を込めて画面を見た。


松野あかり:

「蘭先輩、今度の夏祭り、一緒に行きませんか?

浴衣着てる蘭先輩、見てみたいです」


蘭は無意識に息を止めた。

その通知の主が誰か、理解した瞬間、胸の奥が冷たく沈んでいく。


(……違う、そうじゃない)


求めていたのは、あかりの声じゃない。

自分が会いたいのは、話したいのは、触れたいのは──


梨々香だけだった。


それなのに、梨々香は今、自分の世界の外にいる気がして怖かった。

あかりのメッセージが現実の距離を突きつけてくる。


指先が震えたまま蘭は画面を閉じた。

祭りの賑やかな風景を思い浮かべる。

その中に、梨々香の姿はなかった。


──返事、こないな……


小さく、誰にも聞こえないように呟いた声は教室の雑音にすぐにかき消された。


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