episode4
昼休み。
人混みを抜けるようにして梨々香は屋上へと駆け上がる。
春の風がスカートの裾を揺らし、緊張した胸を少しだけ軽くしてくれた。
「蘭!」
屋上の片隅、フェンス際に立っていた蘭が振り返る。梨々香の顔を見るとほっとしたような微笑みを浮かべた。
「……やっと、ちゃんと会えた」
「うん……蘭チャージっ!」
勢いよく飛びつくようにして梨々香は蘭の胸に抱きついた。いつものように、少しひんやりした香りが鼻をくすぐる。
この感触。この体温。この距離。
──ずっと、恋しかった。
「もう、全然会えないんだもん。おんなじ教室にいるのに全然しゃべれないし、……ご飯も一緒に食べられなかったし、蘭の顔ずっと見てなかった気がする……」
そう言って顔を上げると、蘭は少し驚いたように瞬きをしていた。
「……ごめん、梨々香。うん……そうだね」
その言い方が、どこか遠くに聞こえる。
何かが違う。抱きしめ返してくれる手も力が弱い。
「蘭聞いてる?……今日ね、朝からすっごく大変だったの。
副キャプテンとしての仕事もあって、それで……」
梨々香は頑張って笑いながら話し続ける。でも、蘭の視線はどこか宙を漂っていた。ときどき頷くもののそれは明らかに反射的なものに見えた。
──蘭、どうしたの?
いつもの優しさがどこか遠く感じる。
けれど、梨々香は笑顔を崩さなかった。
蘭もきっと、疲れてる。大会に向けての練習、ダンススクール、いろんなことを一人で背負っている。
「……今日は、こうしてご飯食べられてよかった」
お弁当の包みを片しながらそう呟いた梨々香は自分に言い聞かせるように微笑んだ。
──大丈夫。蘭も、私と同じで頑張ってるだけ。
きっと、またすぐに前みたいに戻れる。
でも、その小さな不信感は確かに胸の中で静かに根を張り始めていた。




