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In the luce  作者: RRR
一年生編
18/57

episode16

文化祭の講堂は拍手と歓声に包まれていたが人気の少ない保健室はまるで別世界のように静まり返っていた。


「……ごめんなさい、お母様……本当に……ごめんなさい……」

震える声が、鈍く響く。

梨々香は車椅子に座ったまま俯き、何度も頭を下げていた。

その目には涙が滲んでいる。

けれど、泣いてはいけないとでも言い聞かせているように、唇を強く噛み締めていた。

「あなたが主役と聞いたから、わざわざこの日に予定を合わせて来たのよ。

……それなのに、何? 倒れただなんて。体調管理もできないの?」

冷たい声が、容赦なく梨々香に浴びせられる。

「せっかくの文化祭も無駄になったわ。あなたのために私達が使った時間も、全部。」

「……ごめんなさい……本当に……」

「はあ……情けない。これ以上何か言ったって仕方がないわね。」

その時だった。

「――やめてください。」

冷静でありながら、どこか震える声。

蘭が息を切らしながら、廊下を駆けてきた。

「梨々香は……がんばったんです。誰よりも遅くまで残って、練習して……私、知っています。」

そのすぐ後ろには、同じように駆けつけた麗の姿もあった。

「そうです。あの劇が成功したのは、梨々香のおかげなんです。

……少なくとも、私たちクラスの誰ひとり彼女の努力を無駄なんて思っていません。」

二人の真っ直ぐな言葉に、一瞬だけ梨々香の母親の眉がわずかに動いた。

しかし、その視線が彼女達に向くことはなかった。

「あなた達が何を知ってるの? 親の責任の重さも知らずに子ども同士でかばい合って……。

そうやってあの子を甘やかさないでくださる?」

そう吐き捨てると、梨々香の母親は踵を返し無言でその場を去っていった。




残されたのは、車椅子で肩を震わせる梨々香と彼女を挟むように立つ蘭と麗だった。

「……ごめん、蘭、麗……私……」

か細い声。

けれどその声に、ふたりは強く首を振る。

「……謝らないで。あなたは、ちゃんと舞台に立とうとした。

――私たちは、それをちゃんと知ってる。」

蘭の声は、優しくも力強かった。

「うん。だから、次は……絶対、梨々香が主役で立てるように。

今度は、何にも邪魔させない。」

麗も、そっと梨々香の手に触れた。

その温もりに、梨々香は少しだけ顔を上げた。

その瞳に、かすかな涙が光っていた。




カーテン越しに差し込む午後の柔らかな光が、梨々香の髪をやさしく照らしていた。

文化祭の喧騒はまだ遠くから聞こえてくるがこの小さな空間には落ち着いた静寂が漂っていた。

ベッドの上、梨々香は静かに座っていた。

向かいには、代役として劇を演じきった麗がすこし恥ずかしそうに笑っている。

「……麗、本当にありがとう。あんなに完璧に代役をしてくれて……」

その声は、どこか申し訳なさとほんの少しの照れを含んでいた。

「ううん。梨々香の分まで、って思っただけだし

シンデレラも王子様もいない楽屋なんてさすがにちょっと様にならないでしょ」

冗談っぽくそれだけ言うと麗はスカートを整え、軽く手を振って教室へ戻っていった。

梨々香はその背中を見送りながら、胸の中に温かなものが広がるのを感じていた。

けれど――その余韻は、すぐに破られた。


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