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In the luce  作者: RRR
一年生編
16/57

episode14

文化祭当日 ―― 開演30分前、舞台裏

「梨々香……!?」

舞台袖に駆け込んできた梨々香が、持っていた小道具に足を取られて前のめりに倒れる。

乾いた音と共に彼女の体が床に打ちつけられる音が響いた。

そのまま、梨々香は動かない。

「ちょ、ちょっと、梨々香!?大丈夫!?」

周囲が一斉に駆け寄る。蘭も、瞬時に梨々香のもとへ飛び込んだ。

頬を叩き、名前を呼んでも返事はない。

額に手を当てれば、うっすらとした熱。

呼吸はしているけれど、意識が戻らない。

「……なんで、どうして……」

(こんな大事な日に。こんな大事な人が……)

ずっと、ギリギリで頑張っていた。

勉強、部活、実行委員、演劇……全部を完璧にこなそうとして、限界を超えていた。

蘭はその事実をわかっていながら止めることができなかった。

「……代役を立てないと、間に合わない」

誰かの冷静な声が、現実を突きつけてくる。

だけど、蘭の耳にはうまく届かない。

「私が……やるよ」

沈黙を破ったのは、麗だった。

顔を上げた蘭の視線の先で、麗がまっすぐに前を向いていた。

「一番近くで、梨々香の努力を見てきたのは私だし。最後まで、やりきる。……いいえ、やらせてほしい。お願いします」

少し震える声。だけど、その目は真剣だった。

「……わかった。お願い、します」

蘭も、静かに頷いた。

でも、その胸の内は不安と痛みでいっぱいだった。

今、隣にいるはずの人がいてほしいはずの人がいない。

自分のダンスを一番近くで見ていてくれた人が、いない。

(……私、踊れるのかな。梨々香がいないのに)

麗も同じだった。

セリフも動きも、体には入っている。けれど――




「……一条さん」

ふいに、隣で麗が話しかけた。

「……あのダンス、すごく綺麗だった。……だから、自信をもって。舞台、成功させましょう」

「……ありがとう。横浜さんも……よろしくね」

ふたりの間に、短くて確かな信頼が生まれた。

幕が上がる寸前、深く息を吸う蘭。

梨々香がいなくても、いや――

(梨々香のために、踊るんだ)

光の差し込む舞台へ、ゆっくりと歩みを進める蘭。

その視線は、まっすぐ客席の先を見据えていた。
















舞台開演直前 ―― 保健室

「……ん……」

淡い光の差し込む保健室の天井が、ぼんやりと視界に入った。

瞼を重たそうに開けた梨々香は、ほんの少しだけ首を動かす。

「……ここ、どこ……?」

「織谷さん、気づいたのね!」

保健室の先生が、安心した顔で駆け寄ってくる。

その声で、少しずつ状況を思い出す。

文化祭――シンデレラ――小道具に躓いて――

「舞台……っ、私……行かなきゃ……っ」

必死に体を起こそうとする梨々香に先生がそっと肩を押さえる。

「落ち着いて。もう代役が出ることになったのよ。あなたはしばらく安静にしないと」

「……だい、やく……?」

「ええ。横浜さんがやってくれているわ」

「……麗が……」

その名前を聞いた瞬間、梨々香の中に広がったのはほんの少しの安堵。

信頼している。

誰よりも、自分のことをわかっている人。

麗ならきっと、梨々香の思いごと舞台に立ってくれる――

だけど、それでも――

「……見たいんです。あの舞台。……せめて、それだけでも……」

しがみつくような声で懇願する梨々香に、先生は数秒間だけ迷った末、無言で頷いた。

やがて、ゆっくりと動き出した車椅子。

先生に押され、舞台へと向かう廊下を進む。

その足音は、梨々香の胸の中に鳴る鼓動よりもずっと静かだった。

舞台の入り口――ほんの少しだけカーテンの隙間から見える光景。

梨々香はハッ、と息を飲む。

(――あれは……)

次の瞬間、梨々香の表情に静かな色が灯る。

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