episode9
風が柔らかく吹く、放課後の公園。
蘭は迷っていた。踊るべきか、帰るべきか。
でも――身体が勝手に、あの場所へと足を運んでいた。
公園の入り口を曲がった瞬間、目に入ったのは入り口で何かを話す二人の姿だった。
織谷梨々香と、横浜麗。
(……どうして横浜さんと織谷さんが一緒にいるの)
蘭の心にざわりとした波が立つ。
その時だった。
ふと、麗が蘭のほうを見た。
「あ、一条さん…」
その声で、梨々香も蘭に気がついた。まるで麗を隠すかのように立つ梨々香に、蘭は先に声を放った。
「……なんで横浜さんがここにいるの」
「っ……」
「私、あなたにしかダンスのこと話してない。ここで踊ってるってことも……」
梨々香の表情が固まる。蘭の声にはいつもの冷静さがなかった。
「“二人だけの秘密”って、言ったよね? あれって、嘘だったの?」
「ち、違うよ……私は……っ」
「どうして横浜さんが、私のダンスのことを知ってるの。褒めてきた。あなたから聞いたって言わなくてもわかる」
一歩、蘭が梨々香に近づく。
梨々香は口を開こうとするが言葉が出ない。
その沈黙が、蘭の不安を確信に変えていく。
「あなたにしか言わなかったのに……」
蘭の声は、怒りというより悲しみに近かった。
静かに、でも鋭く。彼女の瞳が揺れていた。
「私は、あなたならって思ったのに」
「蘭……ごめん、私は……」
「もういい」
蘭は梨々香の言葉を遮りそのまま公園を後にした。
梨々香はその背中をただ立ち尽くして見つめることしかできなかった。
麗は小さな声でつぶやく。
「……私、余計なことしちゃたかも」
梨々香は何も言えず、唇を噛みしめた。




