生首の足し算が合わない
※とあるミステリーの真相について触れています。未読の方は先に進まないでください。
生首の足し算が合わない
しかし――
密室の中に余計な生首があった。
たった今私が切り落とした良美ちゃんの生首がバケツの中に入っていた。
ベッドから転がり、偶然にも床のバケツの中に収まっていた。
私は狼狽え、バケツを持ち上げた。
離れの密室突入シーンを思い出してみる
にこう書いている
僕が手にしたバケツは重かった。
ベッドで近藤社長の頭のバケツを外した時、そのバケツは重かった。
つまりはその重さだった。
カメラの映像にはバケツの重さは映らない。
しかし、僕はその重さをしっかりと抱えていた。
その重さが何グラムあったのか?
それはわからないけれども……
ああ、その重さをあの人も知っている。
その重さは方程式で算出できる……
〇〇方程式……
いや、物理的な重さではなく……
絶望的な……心からの悲鳴たるその重さ……
確かにここには嘘がある!
ただ、「僕」は犯人!
ミステリーにおいて犯人は嘘を吐く!
それは当たり前だ!
ベッドに寝ていたのは近藤社長ではなく、良美ちゃんだった!
その頭のバケツを外した時、空のバケツは軽かった!
しかし、物理的な重さではなく……
絶望的な……心からの悲鳴たるその重さ……
私は……
この空のバケツが……
生首の入った重いバケツであって欲しいと願ったのだろうか?
これから起こる斬首殺人の象徴としてそのバケツは存在していたのか?
ブリキの花嫁はこの重さをどう感じていたのだろう?
どんな思いでその重いバケツを運んできたのだろう?
僕が一番見たくなかったもの――
バケツの中には生首があった。
たった今、私が切り落とした……
本物の生首が……
死体の首の切断面は予想して……
ひょっとしたら期待していたのかもしれない……
僕はミステリー作家だから……
しかし、そのバケツの重さは予想も期待もしていなかった……
ただ、抱えたバケツの重さには耐えられなかった……
すべてはその重さだった……
それは少しも祝福されてなんかいない……
僕はふらつき、脚がもつれた。
更に……
尾崎諒馬=鹿野信吾による独白
にこう書いている
そこに何を見たのか?
それを信じたくなかった……
気絶した私は見た物を拒絶していた。
見た物=真実!
そうであれば、真実の拒絶ということ!
つまりはこれはフィクション!
私が書いた本格ミステリーというフィクションにすぎない!
フィクションとは嘘!
それまでずっと……
これは何かの間違いで……
「良美」は生きている……
そう思っていた――いや、思いたかった……
しかし……
「良美ちゃん」と予想し、そう期待したバケツの中の生首は……
「良美」だった……
良美ちゃんではなく良美だった……
だからそう書いた!
真実ではなく嘘を書いた!
いや、嘘ではないのかもしれない。
近藤社長の名前は良美だ!
旧姓祐天寺良美!
ブリキの花嫁は頭のバケツを外して手に提げて……
そのバケツには……
旧姓祐天寺良美の生首が入っていた!
バケツの中の生首は良美だった!
いや、もうどうでもいい!
とにかく、生首が一つ余ってしまった!
私は水沼を憎んだ。
良美を殺したのは近藤社長か水沼。
近藤社長は死んでいる。
殺し屋が始末してくれた。
しかし、水沼は――
それは私が何とかしないと……
それでナタを手にした。
それが真相です……
犯人は私だが……
何とかして「水沼」を犯人に仕立て上げ……
処分するしかなかった!
水沼はまだ生首をおもちゃだと思っているはずだ!
その彼に期待して……
良美ちゃんの生首を黒いゴミ袋に入れた!
そして気を失ったフリをしたのだ!
いずれ、水沼も真相に気付くだろう!
しかし、その後……
何とかして「水沼」を犯人に仕立て上げ……
処分すれば!
それでナタを手にした。
それが真相です……
世界のすべての悪意は私が一身に引き受けなければならないのだ。
これはそういう……
フィクションなのだ!




