そして、私に与えられたもの
※とあるミステリーの真相について触れています。未読の方は先に進まないでください。
そして、私に与えられたもの
僅か数分のうちにショックを受けたように私はふらつき脚がもつれていた。何かがほんの少し予想及び期待からかけ離れていた。私はしばらくそのまま、立ったまま固まってしまった。
僅か数分!
その間に、確かにそれは私に与えられたのだ!
私は過去も立ったまま気絶することがあった。強いショックを受けた時、自分の精神を守るために――謂わば自発的に意識を失うタナトーシス、狸のように……
しばらく時間が経過して、私はベッドの上の浴衣姿の死体をぼんやりと眺めている自分に気づいた。どうしようもない吐き気がしていた。恐ろしくてしかたなかった。
ふらふらと後ずさりすると、ベッドから離れたバスルームの入り口にだらしなくへたり込んだ。
密室に首のない死体が二つ。生首が一つで近藤のもの。
良美ちゃんは二階の寝室で死んでいることになっている。身体は近藤社長だが、首はクーラー・ボックスで持ち込まれた姉良美の生首……
すると、一つ、生首が足りていない?
いや、首のない死体のうち、バスルームのあれは人体模型だ!
密室には近藤社長の生首と……
彼の首なし死体がベッドに!
そう主張できる!
生首の数に不足はない!
ビニール袋の中に血で汚れたような何かが入ってはいる。
いや、そんなはずは……
生首にしてはサイズが小さすぎた。
その時、私は生首を探していた?
やはり、生首が一つ足りていない?
勇気を出してベッドの方を見る。首のない死体――バケツが取れてしまって明らかに首のない死体が仰向けに横たわっている。そして――
いけない!
ベッドの上の首無し死体は近藤社長のものでなければ辻褄が合わなくなる!
私は混乱していた。
ビニール袋に近藤社長の心臓が入っている以上、ベッドの上の首無し遺体も!
――心臓を抉らなければ!
咄嗟にそう考えてしまった!
牛刀を逆手に持ち!
胸に突き立て!
そして抉る!
ベッドの上は……
浴衣の胸がはだけ、露わになったそこにはぽっかりと穴が開いていた。
しかし――
――ビニール袋の中は心臓だ!
二階で良美ちゃんが抉った近藤社長の心臓が既にビニール袋に入っている!
心臓が一つ余ってしまった!
たった今、抉った……
牛刀に刺さっているそいつを見る!
良美ちゃんの心臓!
というか、ただの血まみれの肉の塊!
肉の塊はビニール袋に……
纏めればわからない!
自分がやってしまったことに改めて気づいて再び意識が朦朧とした。朦朧とした意識で、歯を食いしばって何かを確認したはずだ。だが、それは何だったのだろう?
気を失う前に私は思い出していた。
それはカメラには絶対に映らぬもの――彼の手が感じたぬくもりだった。
ベッドの死体はまだ暖かく、バスルームのそいつは冷たかった。
いや、それは重要ではない!
重要なのは……
何だろう? その時何を見たのだろう?
思い出したくない何か……
ベッドの下にバケツが……
ベッドには浴衣姿の死体が……
首はなく、その……
予想通りの光景……
期待通りの光景……
これはミステリーなのだ……
当然のように残虐な光景が予想され期待される。
殺人事件の起こらないミステリーはクソだ!
事件が残虐であればあるほど、それは祝福されている。
謎に満ちた残虐な他殺体は祝福された死――
生首より――
首のない胴体より――
もっともっと残虐な――
つまりは――
その間の切断面……
バケツの中に切断面が見えた!
たった今、切り落とされたばかりの……
生首の切断面が見えた。
見る前に予想し……
見たら、期待通りの……
祝福された死の象徴……
繰り返すがこれはミステリーなのだ。
しかも本格ミステリーなのだ!
しかし――
見ただけではなく、感じたのだ!
その重さを――
命の重さ――
不可逆で、二度と戻らないその重さを!
しかし、これは……ミステリー……
祝福された死の象徴――
しかし、現実にはそれは虚無……
虚しい……
胸に穴が開いたような……
感じた重さは……
虚無へ……
供物……
その重さを……
私は確かに感じたのだ……
私が持ち上げたバケツの中に……
私が切り落とした……
良美ちゃんの生首があった……
血まみれの切断面を上にして……
しかし、求めたのは生首ではなく……
近藤社長と主張できる……
首無し遺体の方だった!
そして確かにそれは私に与えられたのだ!
いや、それでも私は単に密室トリックを求めたのだ!




