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求めよ、さらば与えられん  作者: 尾崎諒馬
あやしうこそものぐるほしけれ――そろそろ事件について語ろう……
9/71

二十数年前医療センターにて

 ※とあるミステリーの真相について触れています。未読の方は先に進まないでください。

 

   二十数年前医療センターにて

   

 私がその医療センターのSEとして勤務し始めて、最初の仕事の一つが、一人の患者に特殊なパソコンを与えてその面倒をみるというものだった。

 別荘で惨劇があった夜、というかその早朝――

 別々の火事で焼け出された男性が二人、医療センターに救急搬送されてきたのだという。一人はずっと意識不明なままでそのまま亡くなった――いや、実際は地下送りになったのだが――のだが、もう一人は意識はあり、何とか意思の疎通を図る方法が模索されていたらしい。

 丁度そういう時に私はSEとして働き始め、その患者に視線で操作できるパソコンを与えてフォローするのが私の仕事の一つだった。

 その患者は別荘での惨劇の犯人だったので、警察の人間が出入りし、供述を取ろうと躍起になっていたが、私がどんなにフォローしてもあまりうまくパソコンを操作できずに、

 

 まるで探偵小説のようなこの世界において――

 世界の悪意のすべては私が引き受けます。


 ただ、そう綴っただけだった。

 

 その後裁判が始まり、検察の人間や弁護士などが病室に出入りしたが患者との意思の疎通は結局図れず。

 また、裁判で精神鑑定が必要になり、裁判所が指定した鑑定医チームが病室にやってきたが、これもうまく行かなかった。

 皆、匙を投げていて……

「結局、意思の疎通は取れないんでしょ? SEさん、何とかできないの? 彼はうまくそのシステムを扱えないようなんですが……。何かシステムの改良とかできないの?」

 などと私に愚痴を言うだけの時間が過ぎていった。

 

 それで、精神鑑定も形だけになり……

 

 誰も病室を訪れなくなった、ある朝……

 

 その患者がじっと私を見ていた……

 

 訴えるような目で私を見ていた。

 

 ふとパソコンを調べると……

 

 佐藤さん、完全に囚われの身の私にとって、こうして鉄格子の外のあなたに文書を残せることを心から嬉しく思います。署名は最後に本名でしますが、これはとある死刑囚の手記です。

 勿論、現状は理解しています。死刑はまだ確定しておらず、私は勾留されている被告人――いや、私がいるのは拘置所ではなく、病院です。しかし、やはりここは鉄格子の中です。そしてこれは死刑囚の手記です。


 私のいるこの世界が仮に探偵小説だとすれば――

 世界の悪意のすべては私が引き受けます。

 

 そう始まる文書が残されていた。

 

 同姓であることで患者は私だけに心を開いた!

 

 真意はわからぬが、これが小説ならそういうことなんだろう。

 

 まあ、警察や司法の人間、精神鑑定医に心を開いても何も利益はない。

 

 そういうことなんだろう。

 

   *   *   * 

   

 毎朝確認すると患者の文章は次第に増えていった。

 

 しかし――

 

 佐藤さん、これ以上は無理です。あの事件のミステリー的再現で綴り始めたこの小説――。視線操作パソコンでここまで頑張ってきましたが、もう駄目です。目がぼんやりとしか見えなくなってきました。意識も維持するのがしんどくてたまりません。眠いです。眠ったらもう最後かもしれません。    

 

 それが彼の最後の意思表示となった。

 

 その数日後――彼は亡くなった。

 

 いや、地下送りになった。

 

 

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