戸籍謄本
※とあるミステリーの真相について触れています。未読の方は先に進まないでください。
戸籍謄本
「ここに戸籍謄本があります」
尾崎凌駕はポケットから紙を一枚取り出した。
戸籍謄本(全部事項証明)
本籍地:xx県xx市xxx x丁目x番x号
筆頭者:尾崎 勝男
戸籍編成日:200X年5月xx日
氏名 生年月日 続柄 婚姻日 備考
尾崎 勝男 19xx年4月15日 本人 2002年5月10日 祐天寺良美と婚姻
2002年5月25日死亡
祐天寺 良美 19xx年8月8日 妻 2002年5月10日 姓を「尾崎」に変更
2002年5月25日死亡
証明事項:上記の内容が法務局の記録と相違ないことを証明します。
発行日:200X年6月xx日
発行役所:xx県xx市役所 戸籍課
署名・公印:
xxxx市長 印
「小説に書かれていることには嘘がある。まあフィクションですからね。大体現実の尾崎夫妻は小説上では近藤夫妻だ」
「確かに同じ日に二人とも亡くなっていて、亡くなる二週間程度前に席を入れている」黒川も頷く。「カメラの映像という絶対的、客観的情報は読者には伝えられないが、戸籍謄本はテキストですからね。謂わば失顔症の読者にも間違いなく事実が届く」
「で、ここに叙述トリックが――」
「なるほど!」
頷き合う、黒川と尾崎凌駕。
つまりは神と名探偵だ。
「良美ちゃんの本当の――小説で良美ちゃんと呼ばれた彼女の実際の、現実の名前がここにちゃんと記載されている」黒川が頷く。
「そしてそれは実際の戸籍謄本! そこにあるのは現実の情報! 間違いはない!」尾崎凌駕も頷く。
私の顔を笑って覗き込む二人。
勿論、それは私にもわかっている。
尾崎諒馬は多重人格――解離性同一性障害。すべての人格はまだ統合されてはいなかった。
私、精神科の主治医こそが尾崎諒馬の最後の――
統合されるべき最後の分裂した人格……
それは認めざるを得ない……
良美ちゃんの本当の名前……
それは……
尾崎……
勝男……




