呼び出された信吾(諒馬)
※とあるミステリーの真相について触れています。未読の方は先に進まないでください。
呼び出された信吾(諒馬)
信吾(諒馬)「誰? 呼び出した?」
主治医「あなたの主治医です。久しぶりですが」
信吾(諒馬)「主治医? そうか、ここは医療センター……」
主治医「ええ」
信吾(諒馬)「要件は? ちょっと忙しい」
主治医「忙しい? 何をなさっているのです?」
信吾(諒馬)「執筆を――。ミステリーを書き上げないと……」
主治医「ミステリー? あの実際にあった事件とリンクしている? そしてあなたは――」
信吾(諒馬)「確かにあの事件は実際にあった! そして私は……」
主治医「あなたが犯人? あなたが勝男を殺害した? 生きたまま首を撥ねて?」
信吾(諒馬)「確かに……。私が勝男を殺した……」
主治医「離れに飛び込んでいったのは勝男だったんでしょう? そして離れは密室だった」
信吾(諒馬)「わからない。私にはわからなかった」
主治医「それは顔を隠していたから? バケツを被って――。その後は鬼の面を――」
信吾(諒馬)「良美ちゃんなのか? 勝男なのか? それは私にはわからなかった」
主治医「顔は見なかった? 階段の下の方からなら、バケツを被っていても少しは顔が見えたのでしょう?」
信吾(諒馬)「顔を見たとしても私には良美ちゃんと勝男の見分けはつかなかった。勝男なのか? 良美ちゃんなのか? それは顔を見てもわからない」
主治医「ん? それほど混乱していた? 夢と現実がごっちゃになって?」
信吾(諒馬)「いや、とにかく良美ちゃんと勝男は見ただけでは――顔を見たとしてもどっちかは私にはわからない」
主治医「え? まさかあなたも失顔症?」
信吾(諒馬)「違う! ただ――。離れは密室だった! いや離れは密室でなければいけなかった!」
主治医「二階の母屋で殺されたのは姉良美――佐藤良美ではなかったのですか?」
信吾(諒馬)「姉良美? いや、彼女は私が――」
主治医「二階の母屋で殺されたのは誰です。勝男が牛刀を心臓に突き刺して! あなたが手を緩めたから勝男の牛刀が彼女の胸に!」
信吾(諒馬)「確かに私は手を緩めた。それで彼女が殺された」
主治医「あなたは気づいたんじゃないですか? 母屋の二階のベッドにいるのは姉良美だと。良美ちゃんではなくて姉良美だと! 二人は入れ替わったのでは? それで手を緩めた!」
信吾(諒馬)「違う! 母屋の二階で勝男に殺されたのは勝男の妻の良美――旧姓祐天寺良美だ! それは間違いない!」
主治医「確かにあなたは姉良美の自宅で彼女を階段から突き落とした! でもそれで死んだのかは確認してはいない! そうでしょう?」
信吾(諒馬)「いや、でも……。クーラーボックスに彼女――姉良美の生首が……」
主治医「それはおもちゃか? さもなくば……」
信吾(諒馬)「違う! 確かに本物……、いや、わからない……、でも……、本物だった! 本物の生首だった! 姉良美の……」
主治医「生首……、首は生きている……、その本物の生首は生きていたのでは? そこにトリックが!」
信吾(諒馬)「違う! 生きている首、生首――それは単なる言葉遊びだ! 本物の生首! 切り取られた首――つまり頸部で切り離された人間の頭部!」
主治医「誰の?」
信吾(諒馬)「姉良美と旧姓祐天寺良美……二人の切り取られた頭部! それは確かに! おもちゃでも言葉遊びでもない! 本物の生首!」
主治医「離れのドアチェーン越しに見た生首も本物でしたか? 勝男の生首が床に広げられたウェディングドレスの上に?」
信吾(諒馬)「離れ……。ウェディングドレス……。ああ、その上に生首……。勿論本物……。確かにあれは近藤社長の生首だった! そして……ドアチェーン。密室……。書かなければ! ミステリーとして完成させなければ! でも、そのミステリーは現実の事件とリンクしている! 現実の事件で尾崎勝男を殺したのは私だ! 離れのベッドに仰向けに横たわる勝男の首を撥ねたのは私だ! あのミステリーを読むと離れが密室だったのがわかる! あのミステリーは密室物なんだ! 離れは密室でなければならなかった!」
それきり、信吾(諒馬)の応答は途絶えた。
振り返ると黒川は消えていた。




