かつて覚書を書いた主治医(精神科)
※とあるミステリーの真相について触れています。未読の方は先に進まないでください。
かつて覚書を書いた主治医(精神科)
さて、何をどう説明すればいいのだろう?
私はこの医療センターの精神科の医師であり、彼の主治医――そう、かつて覚書を書いた精神科の主治医が私だ。そして、彼の作品の最後の方、つい直前の章にも登場する「白衣の人」でもあるのだが……
この作品の原稿はまだ続いているが、彼が所持していた「小説家になろう」のアカウントのパスワードは変更した。
彼に自由にUPさせるのはまずい、という上からの指示があった。単に医療センターとだけ書かれていてここを特定できる固有名詞は使われてはいないのだが、流石にいろいろ書きすぎ――フィクションという扱いではあるが――と上が判断しても仕方はあるまい。
私が、この医療センターの第三病棟にある精神科に赴任したのはつい最近といってよく、詳しくは知らない――特に謎多き第二病棟のことはほとんど知らない。
彼はつい最近までその第二病棟に入院していたはずなのだが、本当は第二病棟に勤務するSEだったのかもしれない。
精神病患者の治療の一つに、治療者と患者が共に様々な芸術作品を創造する活動に従事することで心身の健康を回復することを目的とする心理的治療法があり芸術療法と呼ばれている。
絵画療法、音楽療法、箱庭療法、それに文芸療法――。
彼がミステリーと思われる作品を書き始めたのは精神科の治療の一環――文芸療法――であるのだが、本当に彼が――エレベーターで盛んにB2ボタンを探す彼が本当にこの作品を執筆しているのかは私にはわからない。
何故なら、第二病棟の患者には直接会うことはできなかったからだ。主治医として彼の執筆を見守って――一部手伝ってと言えるかもしれない――いるのは私で間違いないが、第二病棟の彼には直接は会えず、ただリモートで――それもテキストと若干の画像でやり取りしてきただけだ。
治療の一環でこの作品を彼が執筆していたわけだが、驚くことに彼はファイヤーウォールに穴を開けて、勝手に「小説家になろう」に投稿してきた。それが上からの指示でパスワードを変更され彼は投稿できなくなった。
ただ……
執筆は続いている……
私はまだそれを読んではいない……
読む前にやはり直接確認したい。
第二病棟の脳外科医――失顔症の脳外科医の尾崎凌駕に……
勿論、本名は尾崎凌駕ではない。ただそれはどうでもいいだろう。ここで本名を書くわけにはいかない。これは現実とリンクしているフィクションであって現実をそのまま書いているわけではない。だから以後、謎の脳外科医、尾崎凌駕で通す。
ちなみに私も本名を明かすつもりはない。
敢えて書けば……
■■、ただそれだけだ。
謎の脳外科医、尾崎凌駕は第二病棟にいるのだが、私が出向くわけにはいかない。第二病棟へ入れる人間はごく選ばれた人間だけだ。
尾崎凌駕がこちらに来てくれるか、どうか?
それはわからないがやってみるしかあるまい。




