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求めよ、さらば与えられん  作者: 尾崎諒馬
介錯を期待するのはやめて真相を語ろう……
68/96

勝男の最後の言葉

 ※とあるミステリーの真相について触れています。未読の方は先に進まないでください。


 

   勝男の最後の言葉

 

 勝男が私に言った最後の言葉!

 

 離れのシングルベッドに仰向けになり勝男は笑って私を見上げていた!

 

「あれを見ただろう? あのクーラー・ボックスの中を!」


 私は勝男の言葉を呆然と聞いていた。

 

「でも、殺したのはこっちじゃない! カルディナを見たんだ。姉さんを殺したのはそっちなんだろう?」


 勝男が不意にそう言った時――

 私は何も言えず、ただ黙って勝男の話を聞いていた。

  

「サイコパスは病気だ! フィクションなんかじゃ何も満足できやしない。しかし、殺人は犯していないんだよ。確かにサイコパスだが人を殺めてはいない! ただ牛刀を他人に突き刺すその手の感触を欲しただけだ。姉さんの遺体を見て確かにゾクゾクしたさ。しかし、殺人は犯してはいない。やったことはただの死体損壊! 法定刑は懲役3年以下!」


 それでも私は何も言えない。勝男は更に続ける。

 

「妻は二階の寝室で死んだ。いや、そっちが殺したのだ! そっちでも瀉血処理を止められたはずだ。医学的技術は必要ない。ただチューブを――腕に刺さっている針を引き抜いて、そこを押さえればよかった。その程度なら素人でもできただろう? 確かに妻の瀉血処理を開始したのはこっちだが、そっちはそれを止めなかった。殺したのはそっちなんだよ。仮に瀉血処理で死ななかったとしてもだ。その後、確かにこっちは妻の胸に牛刀をぶち込もうとしたが、そっちはそれを止めなかった。一旦はこっちの腕を押さえはしたが、それをそっちは自ら緩めたんだ。妻を殺したのはそっちだろう?」


 確かにそうかもしれない……

 

「そっちこそが二人の良美を殺したんだ。姉の良美と妻の――」


 それが勝男の最後の言葉だった。

 いや、勝男の最期の言葉にしたかった。

 

 離れのベッドにサイコパスの勝男が仰向けになって私を見上げている。勝男の顔から笑いの表情が消えたが、その後の数分は私にとって地獄だった。

 

 やはりこいつはサイコパス!

 名前は尾崎勝男!

 

 私は自分にそう言い聞かせる。

 

「勝男! お前は尾崎勝男! 確かにお前の妻の名前は良美だ。お前の姉と同じ名前。旧姓は祐天寺。殺したのは俺じゃない! 仮に俺に殺意があったとしても、お前が殺したんだ。サイコパスのお前が殺したんだ!」


 私はベッドから転げ落ちる生首にそう言っていた。

 私の手には血の付いた牛刀があった!

 

 別荘の離れは密室になるはずだった……

 

 生首に……

 

 密室……

 

 まるで本格ミステリーのような……

 

 殺戮者は私……

 

 これを私は本格ミステリーとして書くだろうか?

 

 良美ちゃんは私の執筆を心から応援してくれていた。

 

 私は勝男の首をいきなり撥ねてしまっていた!

 

 これは祝福された死……

 

 しばらく呆然と突っ立っていたが……

 

 あることに気付いた!

 

 心臓を抉らなければならない!

 

 私は牛刀を逆手に持ち替えると、首のない勝男の遺体の胸に牛刀を突き立てた!

 

 あとは勝男の生首を――

 

 振り返ると床にウェディングドレスが広げられている。

 

 上に勝男の妻の良美の……

 

 旧姓祐天寺良美の生首が載っている!

 

 たった今、切り落とした勝男の生首もウェディングドレスのところまで転がってしまっている。

 

 これで尾崎夫妻の生首が揃ってしまった……

 

 ベッドの上に勝男の首無し遺体……

 

 バスルームのあれは人体模型だ!

 

 すると生首が一つ多い……

 

 生首の足し算が合わない!

 

 いや、それより……

 

 殺害現場のこの離れは密室でなければならない!

 

 私はこの時、密室トリックが閃いた!

 

 いや、違う!

 

 私にはとっくに密室トリックが降臨していた!

 

 良美ちゃんが心から応援してくれたおかげで密室トリックを思いついていたはずだ!

 

 あとはそれを実行するだけだった。

 

 いずれここに旧友のあいつがくるだろう。

 

 私と同姓同名のあいつが……

 

 名前は――

 

 水沼だ!

 

 すると私は鹿野信吾……

 

 尾崎夫妻は……

 

 近藤夫妻か!

 

 近藤社長と良美ちゃん……

 

 ここは夢の国……

 

 ミステリーという小説の世界……

 

 私はこれを本格ミステリーとして書かなければいけないのだろう!

 

 名探偵尾崎凌駕はいないがそれでも書かないといけない!

 

 良美ちゃんは私のミステリー執筆を心から応援してくれていた!

 

 それをないがしろにはできない!

 

 良美ちゃんの……

 

 生首……

 

 それをそっと持ち上げる。

 

 バケツに……

 

 床に転がっていたバケツに入れる。

 

 重い……

 

 その重さを……

 私は確かに感じたのだ……

 

 それでも……

 

 これはミステリー……

 

 しかも本格ミステリー……

 

 この離れは密室でなければならない。

 

 大丈夫だ!

 

 何とかなる!

 

 床に広げられた血で染まったウェディングドレス……

 

 その上に近藤社長の生首……

 

 殺したのは私……

 

 腕の中にあるバケツには……

 

 良美ちゃんの生首……

 

 生首の足し算が合わない!

 

 いずれここに旧友のあいつがくるだろう。

 

 母屋から水沼が戻ってくるに違いない!

 

 その前に何とか……

 

 離れは密室でないといけないのだ!

 

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